2-32 決勝戦
ブクマ評価いただきありがとうございます。
こっからしばらく野球編続きます。
そこまでガッツリ野球小説もどきみたいなノリではないですが……
苦手な方は申し訳ないです(´;ω;`)
もうしばらくお付き合いください。
決勝が行われる野球部の練習グラウンド。
丁度、試合前の準備に入っていた白鳥達に合流する。
「西崎さん、大丈夫だった?」
「まあ、そこまで大怪我では無いみたいだったよ」
俺は諌矢が試合に出られない事も伝えるが、白鳥の顔に驚いた様子は見られない。
そんな事よりも、と言いたげな表情で足下を指さす。
「一之瀬君。足痛いでしょ?」
「え?」
突然何を言うんだろう。 意味が良く分からないでいると、白鳥は悪戯っぽく頬を緩ませる。
「キャッチャーでずっとしゃがんでたじゃない? キツくないかなって思って」
「ああ」
キャッチャー経験者らしい気遣いだが、俺には皮肉にしか聞こえないんだよなあ。
「――足も痛ければ、手もジンジンする。赤坂の球キツすぎだよ。もうあいつ、野球部入れよな」
愚痴混じりに答えると、白鳥は緩いノリで笑う。
「でもさ。ここまで来れたのって、その赤坂さんのおかげなんだよね」
釣られるように一塁側を見ると、赤坂が江崎さんとキャッチボールしていた。
見た感じ、スタミナが衰えている気配は無い。このまま決勝も完投いけるんじゃないかっていうレベルだ。
「決勝は僕がキャッチャー代わろうか?」
白鳥がキャッチャーマスクを俺に渡しながらも、そんな話を持ち掛けてくる。
「いや、この試合もやってみる。でも、駄目そうな時は頼む」
慣れない他の守備にまわったら逆にミスをしそうだ。
白鳥は分かったと頷くと、他の連中の方に走っていった。そのタイミングで、肩慣らしを終えた赤坂がこちらへと歩いてくる。
「次も投げるのか?」
「もちろんよ。寧ろ完投狙ってやるわ」
赤坂は気丈に言い返しながら、瞳に灯った戦意の炎は全く勢いが弱まっていなかった。
野球ゲームならステータスに『逆境〇』とかついてそう。
「本当に大丈夫かよ。今日はずっと投げてるじゃないか。肩壊れないか?」
「あんたとか白鳥君が一生懸命やってんのに、こんな所で私が妥協するなんて嫌だし」
しかし、赤坂は頷くどころか、こちらを見て挑発的に小首を傾げてくる。
そうだった。こいつはいつも、俺に対抗意識を燃やしてくる性格なんだ。
「そろそろ始めるってよー」
ホームベース付近に集まっていたクラスメートに呼ばれ、俺達は試合前の挨拶に向かう。
決勝の相手は三年生のクラス。去年は二年生ながら優勝したチームだそうで、実力者が揃った優勝候補とも言える存在らしい。
苦戦は必至。そんな事を隣で言っているのを聞きながら、俺と赤坂も並んで整列する。
「そう言えば、西崎さん見てきたの?」
「心配してんの?」
「別に」
赤坂の質問に質問で返すと、そっぽを向かれた。
「風晴君が決勝に出れないのはきついかなって。そう思っただけ」
赤坂は応援にはあまり顔を出していないが、諌矢の活躍ぶりは聞き及んでいるらしい。
「そうかな? あいつ、テニスもバスケもずっと出てたし。体力的には死にかけみたいなもんだよ?」
それを聞いた赤坂は俺を見て冷笑を浮かべた。
「いつも教室で一人死にかけた顔してる一之瀬に言われるなんて、風晴君ももう終りね」
「いつもじゃない。腹が痛い時だけだ」
「よし、やるか!」
そんな軽口を言い合っていたら審判がやってくる。ゴリラみたいな大柄な風貌は、俺達のクラスの担任の猿倉だった。
野球部顧問の性なのだろうか。この決勝の審判を務めるのには大層張りきっているようで、偉く機嫌が良い。
「自分のクラスだからって贔屓はしないからな」
そう言いながら、本塁前で号令をかける。
「「よろしくお願いしますっ!」」
清々しい声で、試合前の挨拶を交わす俺達。
「一之瀬」
最初は俺達からの攻撃だ。
下位打者の俺はベンチに下がろうとするのだが、丁度打席に立つ赤坂が話しかけてきた。
「最初は様子見に徹するわ。 でも……あんま期待しないでよ?」
そんな事を言って、ヘルメットの角度を微調整しながら打席へと向かっていく。
「プレイボール!」
審判役の猿倉が右手を掲げ、試合が開始される。
ここが甲子園ならサイレンが鳴り響くんだろうが、生憎田舎の公立高校の校庭。俄然、盛り上がりに欠ける。
「んじゃ、いくぞー!」
そんな風に声を掛け合いながら三年生ピッチャーが投球の構えに入る。
いかにもクラスの人気者って感じの男子生徒だ。フォームも綺麗にまとまっている。
放たれた一球目は外角低め。赤坂は目線だけでそれを見送る。
「赤坂さん。完全にボール見てるな」
隣の斎藤が須山と実況みたいな事を言っている。それを横で聞きながら、俺はベンチに座り続ける。
本場の野球場と違って、ここは公立校の練習場だ。
「六月だぞ。まだ、夏なんかじゃないのに……」
日光で劣化して所々ヒビ割れたベンチ。勿論屋根がある筈が無い。真上から注ぐ日差しが暑くてたまらない。
意味がないと知りつつ手で扇ぐ。
――ゴン。
瞬間、軟球を打ち付ける重い音が響く。
「おおおお!」
一塁線ぎりぎりを転がっていく白球に、味方だけでなく相手側からも歓声が沸く。
赤坂はあっという間に三塁に達していた。恐るべき俊足だ。
「すごい、スリーベースッ!」
「あっかさっかちゃーん! こっち見てー!」
立ったまま応援している竹浪さん達女子はまだ一回なのに跳び跳ねて喜んでいた。
赤坂は三塁からそれを眺め、少しだけ恥ずかしそうに頬を逸らす。
「いいなあ、この感じ」
そう呟いたのは隣に座っていた斎藤だった。
「赤坂さんも前よりも角取れたっつーかさ、良いよなこういうの」
そんな、温かそうな事を言って打席に入る準備を始めるのを俺は黙って見送る。
確かに、いい雰囲気だなと思った。とてもじゃないが開催前にひと悶着があったとは思えない。
赤坂が練習に復帰した後、竹浪さんは快く受け入れてくれた。クラスを引っ張る側のポジションである彼女の朗らかな人柄に他の女子達が引っ張られた。そういうのも関係しているのかもしれない。
だとしても、この場で赤坂が活躍する事でそれがいい方向に向かっているのは確かな訳で、
「ナイスバッティング」
やはり、あいつはやろうと思えばいくらでもクラスの人気者になれるんだ。
彼女が野球に参加してくれて本当に良かったと、俺は切に思った。




