僕の影と影の僕
冬休みも残りあと二日。
それが過ぎるとまた小学校が始まる。
でも僕にはやり残した宿題がある。
それは自由研究だ。
自由…自由の意味を考えていると何が自由か分からなくなる。
それで結局最後まで残っちゃうんだ。
影がなくなる前日も自由研究、どうしようと考えていた。
それは夕方。
真っ赤な景色に包まれた公園。
さっき迄サッカーをしていた友達はすでに帰り、広い公園には僕1人しか居なくなった。
砂場に忘れられているスコップ。
風で微かに揺れているブランコ。
日が落ちて周りが一気に冷え込んでくる。
白い息をかじかむ手に当てながら、周りを意味もなく見渡す。
なんか、こうしていると、今日も一日終わってしまうんだなと思った。
「あーあ、このままじゃ先生に怒られる…」
ぽつり、呟いた。
ダメと分かっていても、友達と遊んでしまう…。
「だって考えても何書けばいいのか分からないんだもんな」
でも、そんな言い訳が通用しないのは分かってる。
やるせなくなって思わず俯く。
下には細長く伸びた自分の影。
「なんだよ…」
下を見ながら、右に、左に動いてみる。
影も同じだけ動いてくる。
それだけの事、でもその日は無性に苛立って、
「気持ち悪いんだよ!何処かへ行けよ!」
と大声で言ってしまった。
もちろん影はなんの反応もしない。
僕は影をじっと見つめた。
その時ふと思った。
影もこちらを見つめているのだろうか?
そう思うと少し怖くなって、駆け足で公園を出た。
家に着き、お母さんが準備してくれた夕ご飯を食べた後、すぐ布団に潜った。
暗い天井、月明かりが映し出す窓枠の影を見て、ふと公園での事を思い返し、少し身震いした後、頭から布団を被りそのまま眠りについた。
ふと目が覚めたら、すぐに違和感が襲ってきた。
窓の外を見てそれがなんなのかすぐに分かった。
夕暮れの真っ赤な景色が辺りを覆っている。
「嘘…寝過ごした?」
夕方まで寝てしまったのかと慌てて時計を見る。
5時の位置に針があった。
やっぱり寝過ごしたのか。
でも、よく見ると秒針が動いていない。
壊れたのかな?
まあいいや。
それよりも何故かすぐに公園に行かなければならない気がした。
僕は着替えもせず、靴もはかず、何故か遅れてはダメだと思いながら公園に向かって走り出す。
見慣れた風景。
見渡すと僕が1人ぽつんと佇んいるだけだ。
あれ?
僕?
公園の真ん中に『僕』が居る。
昨日と同じ服装で。
でも何か足りない。
その『僕』はこちらに気づき、近づいてくる。
そして目の前まで歩いてきたと思ったら話しかけてきた。
「遅かったね。もう夕方だ。影も楽じゃないだろう?」
え?思わず僕は、『僕』の足元を見る。
すると何故かそこにあるはずの影がなかった。
慌てて頭を上げるとそこには真っ黒の僕がいた。
でも、不思議と怖くない。
むしろ『僕』に会いたかった感じさえしていた。
「そっか、君だったんだね」
真っ黒の『僕』は頷く。
「ごめんね。イライラしてて、酷いこと言っちゃった。それと…」
僕は目をつぶって頭を下げ謝った。
そして目を開けると、もう目の前には『僕』はいなかった。足元には夕日で黒く伸びた自分の影。
それを見ながら、僕は言葉の続きを言った。
「ありがとう」
窓のから入ってくる朝の日差しで目が覚めた。
時計を見みたら9時を指している。
冬休み最終日、いつもならグダグダ過ごしているが、今日は違う。
自由研究やらなきゃな。
早起きの僕に驚くお母さんに行き先を伝え、着替えて靴を履き、急いで家を出た。
もう題名は決まっている。
『僕の影の観察記録』