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かつての友人へ

作者: 如月冬華

 人が生まれてくるのは難しい

 何故なら2人いなければ、成立しないから

 2人の人が出会い、愛を育み

 人はこの世に生を受ける


 だが、消えるのは簡単だ

 自分がいなくなる


 ただそれだけで終わる


 誰かと共に行動しなくても

 誰かと同じ時間を共有せずとも


 できてしまう


 今こうしてこれを書いている私も

 読んでる君達からすれば

 明日には消えてるかもしれない存在だ


 人は簡単には消えれない?

 それはそうだ

 公的なものは容易くは消せない


 しかし、ネットという媒体が普及してからは殊更楽に、私達は人前から姿を消せる


 名前を変える


 アカウントを消す


 連絡を取らない


 たったこれだけで、私達は消えた者を追えなくなる


 画面越しの関係性しか築けなかったら

 私達は、相手の何も知ることはできない

 相手が死んだことすら分かりはしない


 君達がこの文章を読んでいる間に

 私がアカウントを削除したら……


 果たして君達は、私という存在を

 もう一度見つけることはできるのか


 少なくとも私にはできない

 もう一度、消えた相手が姿を表さなければ

 不可能だろう


 会うことも、話すことも、知ることも

 それら一切ができなくなる


 どれだけ暖かみを感じても

 どれだけ優しさを覚えても

 どれだけ同じ時を生きても


 私達が知れる情報はごく限られたものしかない


 顔も名前も声も、そして性別すらも知らない者達と私達は友好関係を結ぶ

 それは、素晴らしい事実だ

 それは、受け入れるべき事だ


 それが当たり前の世界に変化しようとしている

 いや、もしかしたらもう変化したのかもしれない


 世界は変わる

 私が生を為した時から

 既に変化している


 私が生まれた時には

 顔も知らない相手と仲良くなるなど

 考えられなかった


 周囲にいる人

 それが私が友好関係を結べる限界

 遠くても友人の友人

 そこまでだった


 住んでいる場所が違う

 それだけで一度も関わらずに

 生を終える事なんて、沢山あった事だろう

 そして、同じ場所に住んでいても出会える数には限りがある

 どれだけ積極的に行動しても、全ての人と交流を持つなど

 到底不可能な話……だったのに


 同じ国に住まうとも限らない

 世界の垣根など驚くほど簡単に越えられる

 足を運ばずとも、人に出会える、話ができる


 電子の世界はそれを可能にした

 自ら動けば関われる人は幾らでも増やせる世界へと変化させた


 どこの誰が予想していた?

 今のこの世界の有り様を


 これらは全て

 少し前まで空想の世界でしか

 語られなかったものではないのか?


 遠方への連絡手段は存在していた

 しかしそれは、相互での認識が必要な


『既に見知った相手のみとの交流』


 今はもう、誰であっても簡単に連絡が取れるようになった

 どこかの誰かだった存在が、明日には掛け替えのない存在になる可能性が急激に増えたのだ


 私が持ち得る常識は

 世界の常識や価値観からは

 離れてるのかもしれない……


 だが、友人や知人がいなくなれば悲しい

 この感情だけは……変わってほしくない


 多くの世界が生まれ、多くの変革が起きたとしても


 親しき者が消える事が

 当たり前だと思ってほしくない


 死は永遠の別れ?

 それは間違いではない


 だが、相手と二度と会えないことを

 仮に『死』と呼ぶのであれば


 電子の世界から姿を消す事は

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 私は

 見知った者の死を

 手が届かぬ苦しみを

 言葉にできない後悔を

 心を揺るがす程の衝撃を


 後、何回……受け止めればいい?

 後何回、この感情を押し殺せばいい?


 ……きっと、この文章も

 相手に届く事はないだろう


 私の言葉は、力なき叫びだ

 誰に知られる事もなく

 水に溶け込む泡のように

 誰の目に止まることなく消えていく


 だがそれは、言葉を発しない事にはならない

 伝わらないからと、届かないからと

 口を閉ざしていては、それこそ


 無価値な心の叫びだろう


 私は、ネットという画面越しに

 この言葉を送ろう


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 私とはもう、会うことはないだろう

 言葉を交わすことも不可能に近いだろう


 私の記憶も移ろいで、あなたの事は

 いつか過去の事となり忘れる事だろう


 だからこそ、今……

 まだ、あなたの事を覚えている今の内に


 伝えよう

 出会いに感謝を、巡り合わせに祝福を

 あなたに関われて幸せでした

 とても楽しい時間をくれて、ありがとうと



 どうか、どうか……

 これから先のあなたが歩く人生に

 多くの喜びと楽しさがあることを


 私はずっと、願っています

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