試験プロジェクト 4
「あかりがこちらに向かっておる! このままではあやつらと対峙してしまう」
「なんですと?!」
すると、横にいたジルも動揺しつつ被せるように言った。
「まさに、私も今それをエミリーさんに報告しようとしてたんです。ちょっとまずい展開ですよ」
「ジル、状況を教えて」
「門に向かって、麗奈が歩道を歩いてるのに変わりはないんですが……その後ろをあかりが歩いているようです」
「え?」
「さっきまでは、いなかったのですが、馬車を降りる姿が見えまして」
リンデンが頷いて説明した。
「あかりは、どうやらタケルの家の辺りを歩く麗奈を見かけて不審に思い、馬車を降りて行き先を確認することにしたらしい」
「ということは、偶然見かけたからついてきたと」
なんて、タイミングの悪い。
「流石に婚約者のいる相手の家に麗奈が赴くのは、理解に苦しみますしね……」とクレイが納得するように呟いた。
麗奈がタケルの家に向かうか否か、様子をコッソリ見ているというわけか。
すると、横のジルが目線を麗奈に固定しつつ、大きなため息をついた。
「で、ここから面倒なのは……察しのいい麗奈はどうやらあかりが後ろをつけているのに気付いているようで……」
「え……? 」
「恐らくあの顔を見る限り、あかりが後ろにいる状況を嫌がるというよりは……むしろどうしてやろうかみたいな、少し悪巧みする感じで楽しんでるようなんですよね」
「てことは、このままだと門の前で一悶着ありそうってことね」
「かもしんないっす」
「プロジェクト段階だから、無闇に手出し出来ないのが悔しいなー。ジル、取り急ぎ証拠集めで記録媒体用意して」
「ラジャー」
嫌な予感しかしないが、私達に出来ることは現状少ない。
とりあえず、今は可能な限り備えるしか無いので、私は後輩に指示を出した。
「クレイは念のため間接的に援護する準備を」
「承知しました。では、僕は通行人として紛れ込みます」
「了解。必要時は合図するわ」
「はい」
「リンデンはミラに通信繋げて。……もしもし。ミラ、調査中にごめん。至急応援を要請するわ。タケルの屋敷前の通行人を減らして欲しいの。手段はお任せするわ」
こんなところだろうか。
そして最後に私はあかりに結界を張った。麗奈がどんな危害を与えてくるかわからないので、衝撃を軽減できるようにしておいたのだ。
全て準備が整った矢先、麗奈がタケルの家の前にやってきた。正確にはあと5mくらいで門というところなのだが……
やはり危惧していたことが起こった。
「タケルさん! 助けてください!!!!」
急に小走りになった麗奈が、涙を流しつつこれでもかと困り顔でタケルの門扉を叩いたのだ。
中からは、ソワソワと麗奈を来るのを待っていたためか直ぐにタケルが現れる。
「どうしたんだい?! 麗奈!」
麗奈のあまりの必死さに、門を開けた途端タケルは驚いたように麗奈に声をかけた。
すると麗奈は、泣きながらこう述べたのだった。
「私、私! 何もしていないのにあかり様に酷いことを言われ、挙げ句の果てに追いかけてこられたのです!!私、怖くて怖くて!!」
……?
状況が掴めず一瞬脳がフリーズした。
えーっと? 何が何? 追いかけられ?
あまりの突拍子もない発言に、手放した思考を一生懸命手繰り寄せていく。
少し深呼吸し、思考が戻ってきたところで、私は心の中で盛大に突っ込んだ。
はい。嘘ですーーー。
何が酷いことを言われ? 追いかけられ?
違う違う、何もそんなことしてない。
何か勝手に言い始めたね!!
ただ、残念ながら私の心のツッコミは決して届くことなく、待った無しで次の展開が訪れてしまったようだ。
今の話を聞いて思わずタケルが麗奈の後ろにいるあかりを睨みつける。
「なんだって!? それは本当なのか? あかり嬢」
「本当のことですわ」
そう即答したのは麗奈だ。
いやあんたが答えるんかい。と、私はさらにツッコミを入れたが、あかりはそもそも返事が出来なさそうであった。
当のあかりは驚いて言葉を発することも出来ず、固まってしまっている。あれは絶対に状況が掴めていない。まさか自分の存在が気づかれていたとは思ってもいなかったのだろう。
そんなあかりの様子を見て、安心したのか麗奈はさらにあろうことか騒ぎ始めた。
「私! 本当に怖くて!!! あかり様がそんな人だとは思わなくて!!」
屋敷の前で大声であかりの悪口を言い始めたのだ。
すると、私の横から別の声が上がる。
「これはヤバイっす」
横で監視していたジルが声を発したらしい。
「エミリーさん、麗奈マジで性格悪いです。家の前であかりさんの悪口を大声で言うことで、屋敷の住民に聞かせるつもりです。タケル一家のあかりのイメージを落とさせる魂胆ですよ」
「てことは、意図的に騒いでるってことね? 本っっ当に最低! よくそんな知恵が出てくるよ……逆に尊敬するわ……」
「どうします? 一回シメときます?」
私は大きくため息をついた。
「……大丈夫、そんなことだろうと思って、手は打ってある。それに現場はクレイに任せるわ。リンデンを借りるって言ってたからなにか案があるのよ」
「そうなんすか。了解です。あ、そろそろ麗奈の騒ぎ方が3歳児みたく荒れてきましたよ? あの様子だとどうやらあかりが不利かもです」
再び現場を見ると、麗奈が物凄い勢いでタケルに訴えている最中だった。
ちなみにタケルは麗奈に何かフィルターでもかかっているのか、変な魔法でもかかっているかのように麗奈の話を真摯に聞いているようだった。
「そうか、それは大変だったね。あかり嬢、麗奈がここまで怖がってるんだ。一体なんてことをしてくれたんだ!」などと言い、もはやあかりの意見を聞く様子も無い。
タケルもちょっと頭がおかしくなっているかもしれないなと私は思い始めた。
にしても、このまま様子を見ているのは、私としては大変イライラが溜まりそうだ。
それに横のジルは完全に怒って硬い飴をガリゴリ噛み砕いている。このままでは後輩の歯が心配でもあるので、私は現場のクレイについに合図を送ることにした。
合図をすると、クレイからは速攻で了解の返事が。
そして、クレイは待ってましたと言わんばかり飛び出した。




