試験プロジェクト 2
情報が魔法省の課経由で更新されたので、与えられている資料でさらに掘り下げていく。
華族のあかりには婚約者の同じく華族であるタケルがいる。家同士の都合で幼少期より決められていたそうな。別段、仲が悪いわけでもないが、一定の距離感を持って接しているような間柄だった。
そんなタケルに対して、最近麗奈と名乗る一人の一般女性が急接近しているらしい。商家の令嬢で、アカリと同じ学校とのこと。どうやら行きつけの店で出会ったようだ。最初は普通に友達として会話をする程度であったが、次第に麗奈からアプローチが始まったらしい。
タケルもまんざらでもない様子とのことで、恋仲に。状況に対して、いい気がしないあかりは二人に対して忠告をしたところ、麗奈は美しい見た目とは相反して、小汚い性格らしく、反撃をするようになった。具体的には、被害者面をして嫌がらせをされているかの如く演じ、あかりを悪役に仕立て上げてくるらしい。
以上が現在把握出来た情報だ。
私としては事前資料を読んだだけで、既にノン悪令嬢の気がしてならなくなった。
既に通常のおたすけ課の仕事ではなかろうかとも思えてくる。
まだ調査合図である「助けて」の発言を聞いていないので、対象にはならないが時間の問題とも受け取れた。
私達はすぐに調査に取り掛かることに決定。まず、対象者の身辺調査をすることにした。
私は3人の後輩に指示を出していく。
「私はあかり嬢の周囲を監視するので、ジルは麗奈を、クレイはタケルを、ミラはその他あかり嬢周辺の人物の監視をお願いするわ」
「「はい!」」
後輩たちは、久々の正式な業務とあってか息まいて各自持ち場についていった。
いつもはクズ……いや、不真面目……いや、少し難ありの後輩たちではあるが、やるときはやると、思っているので安心して送り出した。
後輩たちと別れると、先ず、私はあかりに接触せずに様子を窺うことにした。あかりの普段の様子を知るためだ。
早速通りを歩くあかりの姿を発見した私は、尾行を開始した。
第一印象としては、あかりは大和撫子をまさに体現したような人物で、気立ての良さそうな人物だった。人と話す時も言葉にとげは無く、ノン悪役候補にしては少し強さがたりなそうな印象でもある。
しばらく監視を続けていると、何となく性格も分かってきた。
一言で表現すると、あまり気が強くないといったところだろう。第一印象を裏切らない、繊細さだ。
必要に駆られた場合、意見を言うこともあるが、基本的には周囲に同調する傾向があり、意見を飲み込んでしまう様子だった。
特に、婚約者のタケルや麗奈に対して忠告をする際も、強気に伝えるのではなく周りに注意するよう促されて、ようやく話す程度。言葉に弱弱しい感じは無いものの、トゲもないので怖くはない。
そりゃあ、別に本気で怒っているわけではないと思われてしまい、相手にされない、もしくは舐められてしまう訳である。
外聞が悪いとの忠告をした際も、忠告されたタケルの方は、一応「ごめん」と言い言葉では謝るものの、麗奈に至っては舐め腐っているためか身分を武器に「えー、そんな……身分で何でもそうやって私を悪役にするのですね。でも、仕方ないんです。身分には従わないといけないですから」などと反論し、周りの同情を買うような反応をしている。
これは思ったより深刻そうだ。
下調べとして、しばらく様子見を続けたが状況が改善する様子もなかったので、私は令嬢本人に接触してみることにした。
和室で何やら文を書いているであろうあかりの傍に立ち声をかけた。
「こんにちは、字がお綺麗ですね」
「?!」
突然の声に驚いたのか、目を真ん丸に見開いてあかりがこちらを見た。恐ろしさもあり、声が出ないようで、口をパクパクとさせている。
「あ、驚かせてしまいましたね。ご安心ください。私は危害を加える者ではありません。確認ですが、以前可愛らしい妖精が貴方の許に向かいませんでしたか?」
すると、あかりは何かを思い出したのか、はっとした表情をした。
「え、ええ。確かに不思議なことがございました」
上手く声が出せないでいるが、辛うじて会話は出来そうである。私は怖がられないよう、穏やかに話を続けた。
「やっぱり。何か話しましたか?」
「……困っているの? ……なんてお聞きになって……」
「貴方はそれに、困っていると答えましたね?」
「え……ええ。……確かに困っていると言いました」
「何かが向かうと言っていませんでしたか?」
「……なんだか嬉しそうに『おたすけ課が君を助けてくれるよ』なんて……すぐに去って行ったいきましたが……変な経験だなと思って……」
「私はその、『おたすけ課』なんです。私は貴方を助けに来ました」
「……?! で、では、あの話は本当なのですか? まさか実現するなんて……」
「そう思いますよね。ですが、私が来たということはそれが本当だったというのを証明しているも同然なのです。もう安心してください。私が貴方を守って差し上げます」
「ま、まあ……」
再び信じられないと言わんばかり、驚いた顔をして見せたあかり。無理もない。いきなり、目の前に出てきた魔法少女に驚かない方が不思議だ。
でも、今の話で、きちんと上層部に話が通じていて、私が派遣した調査班の妖精たちも仕事をしていたことが分かった。プロジェクトは万事うまく進んでいるようである。内心ヒヤヒヤしたが一安心だ。
あとは、私達現場組が成功させるだけのようである。
正直、第一号なので何とか成句させたいと部署は躍起になっているし、私も無事成功させたい。
ひとまず初めの一歩を踏み出せたのを噛みしめつつ、私はあかりにニコリと微笑みかけてこう言った。
「私、悪役令嬢おたすけ課ですから!」
◇◇◇◇◇◇
私はあかりにおたすけ課のこと、今回のプロジェクトであかりを発見したことなどを打ち明けた上で、あかりに状況を教えてもらった。
大体は、私が事前に仕入れてきた情報と一致しているようだった。交友関係や、家の状況踏まえ少しアップデートしただけで済んだ。
「ご学友のあずささんと守さんがよくお話になる方で、それ以外は余り関りはないようですね」
「そうですの。私、あまり人と接するのが上手くないのですが、最近は麗奈さんが流す悪い噂のせいでさらに関係が悪化しまして……。私を信じてくれるのはそのお二人程度なのです」
「酷い……何故麗奈さんは貴方のことをそのように陥れるのでしょうか……」




