【最終話】魔法省の平穏と心の不平穏
ウルフ派の粛正からしばらくが経ち、ゼロバンでの派閥問題は鎮静化した。今では目立った派閥は無く、イーグル派もこれといった派閥らしいことはしていない。旧ウルフ派は解散を強制され、幹部は全て追放された。事実上の解雇である。
そして、ゼロバン内の派閥以外の人事も大きく変化することとなった。
特に重要な変化といえば……
イチロウが再び異世界統制省の大臣に返り咲いたことだろうか。カレンも革新的なチーム体制が評価され、魔法省の大臣となった。
タロウは、ウルフ派からの監視も無くなり、念願のクロニゲートの管理を任される部署に異動となった。
そして、私は……今回の功績が認められて、少しだけ偉くなった。今では後輩を何人か指導している。ただ、悪役救済部の部長になったミシェルと、少し会う機会が減ったのが残念だと思っている。まぁ、今でも困った時に泣きついているのは秘密だ。
◇◇
「なんだ、サボりですか? エミリー先輩よ」
魔法省の屋上で風に当たっていると、背後からタロウの声が聞こえてきた。
「サボりじゃありませんー。ひどいですよー」
私が振り向きざまにべーっと舌を出すと、タロウはふっと鼻で笑ってきた。このどこか上から目線なのはやっぱり腹立つ。まぁ先輩だから仕方ないんだけれど。
タロウは私の横に並ぶと、同じように景色を見始めた。しばしの沈黙が流れる。
でも、何故かその沈黙が心地良いと思えた。
「……タロウさん、無事派閥もなくなって……平和が訪れたって感じですね」
「ああ、これもエミリーのおかげだな。君の行動力を活かせられる悪役令嬢おたすけ課に、推しておいて正解だった訳だ」
「……どういうことです?」
サラッと言ったタロウの言葉に私が反応すると、タロウが慌てたように口を塞いだ。
「しまった……」
タロウの様子がとても怪しい。
明らかに何かを隠そうとしている。でも、重要で聞いた方が良い気がした。
「どういうことです?」
私がズイズイと近づくと、困ったように髪の毛を掻き毟ったタロウ。しかし、少し躊躇しつつも、最後には観念したのか口を開いてくれた。
「君は、研修の時に何回か俺に会っているんだが覚えているか?」
「?!……いいえ」
なんと、初聞きだ。
「だろうな。自己紹介までする間柄では無かったが……俺は陰ながら君の研修のサポートをしてたんだ」
「え……課で初めてお会いした時、あんなに初対面ぶってたのに?」
「ゔっ」
私がキョトンとしていると、少し目線を逸らしつつタロウは話始めた。
「研修のサポートについていた俺は君の言動にとても感動したんだ。周りに流されず、芯を持っている。当時、肩身が狭い俺としてはとても新鮮に見えた。いつか君と共に行動してみたい。そう思った俺はミシェル課長にこんな子がいると教えたのだ。
すると……案の定気に入られて君は悪役令嬢おたすけ課に引き抜かれたんだ」
「じゃあ、私が今ここにいるのはタロウさんのおかげですか?」
「偶然にもな。それが良い判断かは分からないが」
ーーそんな背景があったのか。
私が今悪役令嬢おたすけ課という、過ごしやすい環境に身を置けたのは、タロウのお陰だったらしい。
「ありがとうございます! 私は幸せ者です!」
「え?」
「こんな環境で誇らしいです」
私が思わずお礼を言うと、タロウは戸惑った。
「君は……いいのか……?」
「え? いいもなにも……」と言いかけて、はたと私は言葉を止めた。タロウの反応を見て、すぐに一つの仮説が浮かんだからだ。
ーーもしや、タロウは何か勘違いをしている?
タロウ的には自分のせいで私の道を閉ざした感じがしたのかもしれない。言葉には出さないが、そう思っているように感じられた。
それを証拠に、私が感謝を述べると、とても驚いたような表情を見せたタロウ。やっぱりそうだ。
タロウは責任感が強いらしい。
でも、これは私が選んだ道だから、そんなに気負わなくて良いことだと思うんだ。
ーーだから、私はこれでもかと笑ってみせる。
『そんなことないよ。私は幸せだよ。』と、そう心から思っていることを伝えるために。
「配属された理由はどうであれ、私が望んでこの部署にいるんです。私は今、幸せです。それだけで良いじゃないですか」
「……そう言ってもらえると嬉しいな」
私の笑顔を見て、タロウは少し砕けたような自然な笑顔を見せた。
どうやら私の気持ちは伝わったらしい。
「……タロウさんって笑うと可愛いですよね」
「なっ?! 調子に乗るんじゃない!」
私の思わぬ言葉に怒ったタロウ。だが、満更でもなさそうだ。私は思わず笑ってしまった。
タロウもつられたのか笑い出す。
しばらくお互いに笑い合う時間が過ぎていったのだった。
程なくして、タロウが少し控えめに私に聞いてきた。
「君は、俺と行動するのがいやか?」
どうしたのだろう。
「いえ、そんなこと思いませんが……むしろ色々良い経験させていただけるのでどんとこいです!」
「……そうか」
私が目一杯否定をすると、タロウは少し照れ臭そうにする。そして目を背けつつこう言った。
「じゃあ、今度は私生活も共に過ごしてみるのはどうだ?」
「ん? どこか行くのですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
頭をかきむしると、深呼吸したタロウがこちらを真剣に見た。惹き込まれそうな目だ。
「いい加減、俺を恋愛対象にしてもらえませんか」
「……っ!?」
一気に顔が熱くなった。それになんだか恥ずかしい。なんて、反応に戸惑っていたら、タロウの顔が後数センチまでに近づいていた。
これにて、完結となります。
ゆるゆるとした更新でしたが、
読んでくださり、ありがとうございました!
今後はエミリーを活躍させたくなった時に、続きを更新しようと思います。
その時はまた読んでいただければ幸いです!




