令嬢第八事例 報告5 (輸送課へ)
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私は次に備品管理課の受付に来ていた。
窓口に誰もいなくて、部屋の中を見回していると……ばっちりと目が合う存在が。
ーーミハエルだ。
ヤバイ、一番会っちゃいけない人と目が合ってしまったと思ったが、後悔は時すでに遅し。
ミハエルがバラを持ってとても嬉しそうにこちらに向かってきた。
周りの職員に助けを求めて目を泳がせたが、見事に全員目を逸らしてくる。どうやらミハエルは部署内でも手に負えないキャラのようだ。
「なんだい、僕に会いに来てくれたのかい? 僕のことをそんなに気に入ってもらえたなん「違います」」
あ、つい被せて否定しまった。失礼な態度を取ってしまい思わず口を塞いだが、ミハエルは気にしていない様子。むしろバラをクルクル回しながら嬉しそうに微笑んでいた。
ちょっとキモいな。先輩にキモいとか言っちゃいけないんだろうけど。
あと、一部の職員がよく言ったと言わんばかり、私に向けて凄くガッツポーズをしているが気にしないでおこう。
時間が無いので色々口説き文句を言い出したミハエルを置いて、私は本題に移ることにした。ギルから預かった紹介状を手渡す。
「あの、備品の在庫を確認したくてこちらに来ました。もしあれば、そのまま私のポシェットに追加したいんです」
「なんだ、僕に用があるんじゃないのか……」
少ししょんぼりとしたミハエル。でも、しっかりと在庫確認の検索をし始めてくれた。性格に難ありなんだけど、仕事はしっかりとする人なんだよなぁ。
「在庫はあったよ。君の鞄に連携しておく……ちなみに今回はどこの世界へ?」
ミハエルが私の今回の任務先をサラッと聞いてきた。私はニコリと微笑んで「秘密です」と答えた。
前回の課長やタロウとの会話を思い出して、ミハエルには迂闊に情報を流してはいけないと思ったからだ。
ミハエルも私の考えが分かったのか、笑顔を深めてきた。しかし、直後何かを思いついたようにポンと手を叩いてちょっと無邪気な顔をし始める。そして私にこう言った。
「あ、そうだ。鞄と連携するついでだし、いいところに連れてってあげよう!」
「連れて……え?! いや結構です!」
とても嫌な予感がしたので、速攻で抵抗をした。……が、ミハエルは聞いていない。私はそのまま腕をガッシリと掴まれ、半強制的にとある場所へと連れていかれることに……
ちなみにその様子を、後ろの職員達は私を哀れんだような顔をして見ていた。見ているなら助けてほしいものだ。
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連れて行かれた先は広大な倉庫のような場所だった。積み上げられた大小様々な箱が並び、その間を忙しなく妖精たちが行き来している。
「ミハエルさん、ここは?」
「ここは、備品輸送課。簡単に言うと、君たちの鞄の中身を管理している場さ。大きな備品は各地に持ち歩けないだろう? 現地にいる職員の鞄とこちらのロッカーを連携させて、すぐに荷物が出せるようになっているんだ」
ここは職員のロッカー置き場だったらしい。聞いたことはあるが、初めて来た。
一つ一つの箱が個人のロッカーで、いわば宅配便の受け取りボックスと、保管庫を担っているのだろう。
では、私のポシェットもこのどこかのロッカーと連携されているのかな?
なんて、空間を見渡していると、奥にある事務所らしき一角に向かってミハエルが勝手に駆け出した。
「あ、いたいた! イチロウさーん!」
ミハエルの声に、少し大柄な男性がこちらに振り向く。そして、ミハエルの顔を見るなり豪快に手を振ってきた。
ーー誰だ?
「紹介するよ、この方はこの備品輸送課の課長、イチロウさんだ」
ミハエルが紹介すると、男性が前に一歩出てきくる。
銀髪に茶色の目をしたイチロウと呼ばれる男性は、じっと私を見下ろした。背が高いので、まるで壁のようだ。ただ、私と目が合うとニコニコと微笑み始めたので、怖い人ではないらしい。名前に一癖あるなと思っていると、ズイッと握手を求めるように手が伸びてきた。
「こんにちは、私はイチロウ・ヴィンセンティアだ。ここの管理をしているしがないおじ様だ」
自分でおじ様って自分で言うんだ……というツッコミを入れる前に、違うところで引っかかった。
「ヴィ……ヴィンセンティア?」
私が思わず疑問を声に出すと、イチロウではなくミハエルから返事がきた。
「あ、エミリーちゃん気づいた? そうだよ、このお方はタロウのお父さんだよ!」
「……え? ええええええ!?」
ミハエルがドヤ顔で教えてくれた事実に、私は驚き思わず大きな声をあげてしまった。
ーータロウのお父様?!
タロウの親がゼロバンの職員であるのは何となく知っていたが、まさかこんな所にいたとは。驚いて固まっていると、イチロウは私のことを面白そうに見てきた。
「お、君はタロウのことを知っているのかい?これはたまげたな。こんな可愛い子と知り合いとは、あいつも隅に置けんな」
そう言うと、イチロウは豪快に笑いだした。豪快さはタロウと似ていないが、よく見れば顔の特徴が似ている。まぁ、名前の独特さからタロウとの繋がりは容易に連想できそうだが。
「ね、すごいでしょう? 世界って狭いでしょう?」
私があんぐりとしている一方で、ミハエルはとても楽しそうにしている。
「驚きを通り越してます。でも名前ですべて納得してしまえる感じはあるので、自分でも理解の速さが怖いです」
「ああー、名前で納得いくのは否定出来ないかなぁ」
うんうんと頷くミハエルに、あなたの名前もよっぽど特徴的だけどねと心の中で思いながら苦笑いをした。
「タロウのことをよく知ってくれているようだな。あいつと仲良くできる子がいるとは……君とは仲良くなれそうだ」
そう言うとイチロウは私の肩をバンバンと叩いた。正直痛いが第一印象同様、悪い人ではないらしい。豪放磊落という感じだろうか。少し慎重派のタロウとは性格の違いを感じた。
「あ、そういえば自己紹介がまだでした! 私は魔法省、悪役救済部、悪役令嬢おたすけ課のエミリーと申します。タロウさんは命の恩人のような方で……」
「悪役救済部……?」
私が自己紹介を始めると、イチロウが悪役救済部という言葉に反応し、呟いたのが聞こえた。
「え?」
「いや、何もない」
私が首を傾げると、何故か話題を変えるかのようにイチロウはミハエルに向き、こう言った。
「ところでミハエル、今回は何の用だ? まさか紹介だけじゃあるまい」
しまった、イチロウのことですっかり忘れていたが、本題は備品の補充だ。私が慌てていると、横のミハエルは「さすがイチロウさん、察しが良い!」と髪の毛をかき上げながら仕事の話を始めた。でも、口元がヒクヒクしてるから、多分ミハエルも本題を忘れていたんだろうな。黙ってあげるけどね。
一通り事情を聞いたイチロウは、ポシェットに補充したい備品を私から預かると、早速私のロッカーに入れてくれた。
ちょっと豪快さなど、謎な感じはあるものの、仕事の早さはタロウと似てるなと思ったのだった。
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