令嬢第八事例 報告4
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私は文化省科学局、情報通信部の前に来ていた。
ここは原則魔法使用を禁止している珍しいエリアだ。魔法が存在しない科学のみで作り上げられた世界でも対応できるよう整備されている。科学には科学でしか対応できないこともあるらしい。
様々な科学レベルの世界に対処できるよう、日々最先端の研究がなされている。職員も例外を除いて魔法を使用せず、科学に特化させたメンバーとなっているそうだ。
その中の情報技術に特化したチームへと私は足を運ぶ。
リンデンと課長経由で面会の許可を得たため、私は許可証のブレスレットを持って部屋の中に入る。名前では許可証としているが、正確には魔法封じの魔術具である。魔法を使用して不正をするものが多いため、基本的に入室時は魔法を封じることになっている。
科学局の中は、紺色を基調とした制服の男女が慌ただしく歩いており、中には白衣を纏っている者もいた。さすが科学局。研究所感があって、普段の魔法省との違いに私は少しワクワクとしながら建物内を歩いていった。
システム開発研究所の扉を見つけ、ノックをしてみる。
「あのぅ、私事前にご連絡していた、魔法省のエミリーと申します」
ゆっくりとドアを開けると、壁一面に様々な言語のプログラム編集画面が広がる空間が現れた。その隅には職員達がおり、各々が物凄い勢いでキーボードやボタンを叩いている。
その光景に圧倒されていると、一人の男性が声をかけてくれた。
「君は面会予約を入れてきた子かい?」
「あ、はい! 魔法省から参りました!」
「ちょっと待ってね」
そう言うと男性は一人の男性に声をかけてくれる。
「おーい、ギル。お客様だ!」
ギルと呼ばれた男性は不機嫌そうにこちらをチラッと見た。そして私の顔を見るなり、思い出したと言わんばかり眉間をつまんで空を仰ぐと、ため息混じりに私を手招きした。
ーー恐らく約束を忘れてたんだろうな。
他の省への面会依頼は魔法省を通しているので、結構時間や手間がかかる。仕事に熱中してたら面会予約なんて忘れそうなので、ちょっと同情してしまう。
男性は紺を基調とした制服に、紫の髪をしていた。目の下の大きなクマと無駄にギラギラと光る金色の目で、ものすごく集中していただろうことだけは分かった。そして忙しそうだということも。
忙しいところ申し訳ないなと思いながらもヒントを得るために私は近寄った。
「こんにちは、面会依頼を出したエミリーと申します」
「うん、君のことはそちらの課長の依頼で聞いているよ。俺はギル。君たちに渡したカードは俺が作ったんだ。……で、要件はなんだって?」
少し不機嫌な感じはあるものの、約束はちゃんと守ってくれる人らしい。
私は早速アイラのことを説明した。……手短に。
「……というわけで。製作元も対応してくれないんです」
「そりゃあ使用停止などの措置は、今後の優良顧客が減る懸念から避けるだろう。既存顧客、それも大口の顧客の不興を買うことは恐らく回避したいと思っている筈だ。ジュン側とセリカ側どちら立場のバックになるべきか判断できず、今は迂闊に対応できないのだろう」
すごい、先ほどの私の粗末な説明から瞬時にここまで察するとは。余程頭が良いのだろう。さすが私を救ったカードの作成人。
私が感心していると、ギルは横にある画面を操作し始めた。そして、画面に目を凝らしつつ私に見えるように一か所を指差した。
「君に渡したカードを頼りに遠隔で今メインコンピューター上に探りをいれたが……アイラ型の人工知能は恐らく初期設定の段階での選択がやはり大きいみたいだな。ほらここ」
ギルが指差しているのが、おそらく該当の箇所なのは分かる。分かるが……読めぬ。
私には科学がさっぱり分からない。思わず黙って画面を睨みつけていたら、「そうか、君はこのチームではないから読めないよな。ごめん」と言われた。
ーーなんかごめんなさい。
でも、分からないなりに意見を言ってみる。
「じゃあいっそのこと、今からモード変更できませんか? 家事担当のロボットなどに設定できるかもしれないですね。ジュンの行動パターンなどを既に知っていますし優秀ですよ」
「それは困難だ。このタイプの人工知能は初期設定からデータを蓄積し現行の行動パターンに至っていると推測される」
「と、言いますと?」
「要するに、今のままではデータを強制的にリセットしてアイラを別のロボットとするしかない」
新品状態に戻すことは可能らしい。ただ、代償にアイラの蓄積データが同時にすべて消えてしまうとのこと。
そうなると今まで関係を築いたアイラとしての価値は下がってしまうことになる。この場合、ジュンはせっかく自分好みに育てた存在を失ってしまう。それに、もし今回の件にセリカが関与していると分かった場合、セリカへの信頼は急激になくなるだろう。
「じゃあどうしたら……」
私が頭を抱えていると、少し考えたギルがボソッと呟いた。
「いっそ学習段階で、小細工を入れてみるのも良いかもしれないな」
「小細工……ですか?」
「そうだ。丁度良い物がある」
少し面白そうにニヤリと笑ったギル。目の下のクマのせいで物凄く怖く見えたが、背に腹は代えられない。私は一通りの案を聞くことにした。
説明が一通り終わると、ギルは紹介状のような物を描き始める。
「今言った計画に必要な物は……備品管理課の所に行けば、在庫があるだろう」
次回、超重要な人物が登場します。




