令嬢第八事例 報告2
セリカは科学繊維を扱う会社の社長令嬢だ。幼少の頃から御曹司ジュンとの婚約が決まっていた。
ジュンは機械いじりの趣味がある青年で、以前は機械以外に興味を示さなかったのだが、最近性格に変化が現れたらしい。
「どうやら、とある令嬢にご執心のようでして……」
機械オタクだったジュンが一人の女性に惚れ込み、今ではセリカへの対応がおざなりになってきているとのこと。
しかも、酷いのはその令嬢が最近セリカのいないところで悪い噂をジュンに吹き込んでいるとのことだった。
さらに、直接会っては「私のことをいじめないでください」など、噓八百の言葉で被害者面をして、ジュンに助けを求める。しかし、言い返そうにもジュンはセリカの言葉に聞く耳を持たないのだ。
このままでは、婚約者の位置を退くことになるそうだ。
「いっそ、幸せになるために、身を引くことも考えたのだけれども、私の立場が危うくなるのです」
「立場で済むなら受け渡してもいかがですか?」
「普通の令嬢ならそうしたでしょう。……ですが、彼女……アイラは……そう簡単に引く訳に行かないのです」
「普通とは違うのですか?」
「説明をするには長くなりそうですので、実際にお会いされるのが手っ早いかと思います」
セリカは少し気乗りしない様子だが、私をアイラと呼ばれる令嬢の所に案内してくれるそうだ。
直接見せなければならない事情がありそうだと分かるので、素直について行った。
連れていかれたのは同じ敷地内にあるジュンの館。もしや、アイラと呼ばれる女性は、セリカを差し置いて同じ建物に住んでいるのか?けしからん存在である。
すると、セリカは一つの部屋の前に止まると、私をドアの前に待機させた。ドアを開けると、大切なものを隠すように奥にカーテンが掛けられている。
「この奥にいるのがアイラです」
セリカは一歩部屋に入ると、アイラに声を掛けた。
「アイラ、セリカです。貴女に紹介したい方がいます」
「……はい、只今向かいます」
奥から声が聞こえた後、カーテンが開き、一人の女性が現れた。私はそっとドアの陰から様子を窺う。
「セリカ様、私に合わせたい人とは誰でしょうか。……もしかして、私に何かするおつもりですか?」
「そんなことするわけないでしょう!?」
会って早々に、被害者面をし始めるアイラらしき女性。黒髪のストレートヘアに黒い瞳。白いワンピースを着ていた。とても清楚で一見害の無さそうな見た目だ。
でもなんだろう。どこか違和感を感じる。とても清楚そうに見える姿が逆に警戒感を煽るからだろうか?
すると、セリカが私に入室を求めてきた。
「貴方に会わせたいのはエミリーさんです。エミリーさん、どうぞこちらにいらしてください」
おっと、私の出番だそうだ。進められるまま私は入室する。
「初めまして、私はエミリーと申しま……「ピーーー」す……?」
私が挨拶をしようとアイラと顔を合わすと、挨拶もそこそこに何処からか、けたたましい音が聞こえてきた。
お辞儀をしようとしていた頭を上げると、目の前にいたアイラの目が赤くなっていた。そしてアイラは一人何かを呟き始めた。
「エミリー……エミリー……金髪……」
「ア、アイラ……様?!」
「エミリー……該当無し。顔認証該当無し……、本部コンピュータにて再検索……」
一体どうしたのか。
急に私を観察するように、アイラは足から頭にかけてじっと見てくる。さらに、額には回路のような赤い柄が現れた。
「しまった。そうよね。普通に考えればこの結果になるわよね。私としたことがこんな単純なことに気付かないなんて……」
横のセリカが焦りの混じった声で呟いたのが聞こえた。
「セリカ様、何が起こったのかお分かりなのですか?」
私は思わずセリカに助けを求めるように見た。すると、セリカは申し訳なさそうに私に言った。
「結論から申しますと……アイラはアンドロイドなのです」
「ア、アンドロイド?!」
アンドロイド。それは即ち人型のロボットだということだ。
ーーってことは、アイラはロボットなのか?!
急展開に驚きすぎてキョトンとしてしまう私。
「詳しい説明は後で。今は時間が無いわ。彼女、この家のセキュリティにも携わっているから貴女のようにこの街に登録されていない人物が現れると、警戒を始めるの。最悪、不法侵入者とみなされて攻撃される可能性があるわ」
冷静なセリカの声で、止まっていた私の冷静な思考が帰ってきた。恐らく、今は本人確認の真最中だ。
「私が登録されているか、アイラは名前や見た目からメインセキュリティシステムに検索をかけているのですね」
「そうね、あれを止めたいのは山々だけれども、登録されていないはずの貴女を救うことは難しいかもしれない。今は一旦逃げて、身を隠す方が先決かもしれません」
「そんなことで対処できますか?」
「私が連れてきたということで、私の周りの監視が強化されるくらいはあるでしょうが……」
ただでさえ、セキュリティが厳しいとのにこれ以上対策をしなければならないのは、正直面倒だ。たまったもんじゃない。
「それはセリカ様と接触できなくなるので困ります! 他の手はないのでしょうか?」
「アイラのメインコンピューターを修正できれば問題ないですが、あいにく私はその技術を持ち合わせてはおりません……」
「そんな……」
メインコンピューターを調整しなければ対応は難しいと聞いて落胆する私。
しかし、次の瞬間ふと思い出した。
私には課長から預かったカードがあったのだ。
「セリカ様、もしかしたら何とかなるかもしれません」
「え?」
検索が終わったらしいアイラ。警戒を現すかのように目の赤い光りが強くなった。
「該当無し……不法侵入の可能性あり……」
アイラが攻撃態勢を取りそうなので、急いでカードを取り出す。私は勢い良く飛び出すとアイラに駆け寄り、カードをアイラの額に押し当てた。
「いっけーーー!」
カードがアイラの額に触れた途端、カードは白く光りを放ち、アイラの額に吸収されていく。
ーー直後、アイラの額の赤い光がぴたりと止まった。そして、1人で何かを呟き始める。
「メインコンピューター、応答。新規追加。住民登録済み」
ーー成功したか?
ブツブツと呟くアイラの様子を固唾を飲んで見ているしかない。しばらくして、アイラはニコリと微笑むと、私に向かいこう述べた。
「エミリー様、籍の登録あり。警戒を解除します」
どうやら、無事登録処理は行われたらしい。
私とセリカは安堵のため息をついたのだった。




