令嬢第八事例 報告1
こんな世界もいかがです?
私はこの世界に到着するにあたって、すぐに目隠しの魔法を開始した。
何故ならこの世界はセキュリティが厳しいからだ。
私は魔法省にて確認した新しい案内の資料内容、そして課長とのやり取りを思い出した。
ノン悪事案 No.8
場所:世界番号040
救済対象:令嬢セリカ
真悪役疑惑:アイラ
依頼主:令嬢本人(接触可否:可)
魔法の存在:無し(認知度:皆無)
備考:依頼主は富豪の令嬢。婚約者である御曹司のジュンはアイラに陶酔の模様。アイラによって、婚約破棄の危機に。なお、アイラとの接触には、記録が残るため注意が必要。
「ふむ。今回の案件だが……君の立場を考慮した結果この案件しかなかったわけだが……」
「課長、この資料の最後に書いてある、"記録に残る"とはなんのことでしょうか?」
「文字通り記録が残るんだ」
「……はい?」
全く分からない。首を傾げると、課長は淡々と説明を始めた。
「実はこの世界はな、魔法が一切無い。その上に科学技術が大幅に発展している世界なんだ」
「科学の世界……ですか?」
「そう、それでだ、気を付けてほしい点があるんだ」
課長曰く、今回の案件の対象となる世界は魔法が一切通用しないらしい。
全て科学によって管理された世界ともいえる。中でも気を付けてなければならないのは、人物認識機能だそうだ。常に記録された個人情報と、監視カメラで個人の識別をされ、監視されている。
本人確認が取れれば問題ないが、記録に入っていない人物であれば、即不法侵入として取り締まりをされるらしい。記録が残るとは、つまり私の不法侵入が記録される恐れがあることだ。
「そんなの、私は登録されてないので、一発でアウトではないですか!」
「まあ落ち着け。手がない訳ではない」
課長が取り出したのは小さな銀色の金属製のカードだ。
「これは?」
「これは登録用の機械だ」
このカードは、文化省内にある科学局、情報通信部、システム開発研究課のものだ。科学局は魔法省とは正反対で、魔法と干渉しない科学だけの珍しいチームだ。魔法の無い世界での対抗策として作られた。そんな科学チームが作った対科学文明世界での機械が今回は使用されるらしい。
一見ただのカードに見えるが、実はコンピューターウイルスが仕込まれていて、システムに入り込んでハックする危険な機械である。人物認識を行うような関連機械にこのカードを当てると勝手にこの世界の情報を解析してくれるのだ。
さらに、解析内容を基に、システム開発研究課が管理する類似性の機械言語を使用し、遠隔で私の個人情報を元々この世界に存在したかのように登録する手順らしい。
カードが機械の回線に繋ぐ過程や、遠隔でのプログラミングに関しては魔法を使用するが、基本的には科学は科学を以って対処するようで、今回の世界に向かうにはこのようなカードが必要になるそうだ。
「基本的に外を動く時は目隠しの魔法を使用し、もしセキュリティ関連で感づかれた時はこのカードを機械にかざせ」
「いざという時のお守りという訳ですね」
私は渡されたカードを丁寧に受け取り、ポシェットに入れた。
「では、このカードをお預かりして、向かいたいと思います!」
ーーそして、今に至る。
課長に借りたカードを使うような状況には出来れば遭遇したくない。そう思いながら私は令嬢の家に向かった。
令嬢の住む家は、豪邸だった。今まで相手は貴族令嬢が主ではあったが、今回は金持ちの令嬢だそうだ。
さすがの財力、豪邸はセキュリティが厳しいのが一目で分かるほど、沢山のドローンが飛んでいた。私は身隠しの魔法使用したまま転移魔法を使い、屋敷の中に入った。どんなセキュリティも、転移魔法には太刀打ちできないだろうと思ったからだ。
案の定、潜入は容易にできた。ここはまだ魔法が通じるらしい。
屋敷に入ると、可愛らしい部屋があった、その中を覗くと濃い青色の髪をした令嬢が座っていた。資料にあった令嬢だと思われるため、私は部屋にそっと侵入。
そして、安全を確保した上で身隠しの魔法を解いた。
ーー私の姿が可視できる状態となる。
すると、突然現れた私を見て、令嬢は思わず腰を抜かしてしまったのか、「ひえっ」と声を上げると、座っていた椅子から落ちてしまった。
「だ、大丈夫ですか? わたくし、魔法省から参りました、悪役令嬢おたすけ課のエミリーと申します。依頼主のセリカ様でらっしゃいますか?」
すると、ゆっくりと起き上がった令嬢は飛び出さんと思うくらいの大きな瞳で私を見てきた。
「あなた、どうやってここまできたの? セキュリティは万全のはず。生体反応で見つかってしまうはずなのに、何故通知も無くここにいるの?」
どうやら、厳重なセキュリティで、絶対に踏み込むことが出来ないエリアだったらしい所に、私がいることが信じられないようだ。
「転移魔法を使用してこちらに侵入させていただきました。突然のご訪問で驚かせてしまい、誠に失礼しました。」
「ま、魔法?! ……魔法は存在しないはず……でも、この方は現に実際にこの部屋に入れてしまっているわ……」
まだ、私や魔法の存在を受け入れられないらしい。混乱しているのかぶつぶつと何か呟いている。無理も無い。全て科学で証明できてしまう世界で、私は異端なのだ。
「あの、宜しければ魔法であることを証明できるよう。何か魔法を使いましょうか?」
魔法だという証明があれば、信じてもらえるかも知れない。そうすれば話が上手く進むかもと考え、自ら魔法を使う提案をしてみた。
「証明……ええ、そうですね、まだ信じられませんが……何か確たる証拠があれば……できれば科学では証明できないような魔法だと素直に認められるかもしれません」
「お安い御用です! では!」
私はステッキを取り出して一振りした。
「マジカルチェンジ!」
私は一瞬で猫の姿に変わる。
再び驚いて令嬢は尻餅をついた。
「ね、猫に変わった?!」
「どうぞ、触ってみて下さい。幻覚でも無いことがお分かりいただけると思います」
驚いて見ている令嬢は恐る恐る手を伸ばし、私を触る。
モフ……モフモフモフ。柔らかい。ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
「ね?」と言いながら私は令嬢を見上げると、感心したかの如く神妙な顔をしていた。
モフ……モフモフ……モフ。
そして触り続ける令嬢。無言である。
「あ、あの?」
「し、失礼しました! 骨格や毛並みまで正確に表現されていますね……こんな変わり身、科学では通用しません。」
「では、信じてくださいますか?」
「にわかに信じ難いですが、これが真実なのでしょう。何よりこのモフモフとした上質な毛並みを短時間で再現できるなんて考えられません。つい触り続けてしまいましたもの」
あ、つい気持ち良くて触ってたんだ……
「では、信じていただいたところで、本題に移りましょう。あなたはセリカ様で間違いないですね? 依頼を確認したく存じます」
「はい。私はセリカです。半信半疑でしたが、依頼を本当に受けていただけるとは……私の婚約者の件で困っているのですが聞いていただけますか?」




