令嬢第七事例 報告7
「そう泣かれても真実は変わりません。この依頼捏造事件、犯人は……サブリナ様ですね」
「……証拠はあるのですか?」
泣いているサブリナだが、自衛能力には長けているらしい。すぐさま証拠を求めてきた。しかし、私もこの手の令嬢相手は慣れ始めている。
私は余裕たっぷりと言わんばかり、にっこりとほほ笑んだ。サブリナが軽くこわばったのが分かる。
「あるからこうして席を共にしていただいているのですよ。」
流さないよ? という思いを込めて私はさらにニッコリと笑った。そしてミハエルに話を振る。
「さて、ミハエルさん。妖精さんは今回どんな落し物をされたのでしょうか?」
待ってましたと言わんばかりに、一歩前に出たミハエル。
「今回はペンの落し物をしたんだ。大事な備品だから探しに来たんだけどなぁ」
そう言うと、悲しそうにし始めた。
ーー誠にわざとらしい寸劇の始まりだ。
ペンと言う言葉にサブリナの目元がピクリと動いたのを私は見逃さない。
しょんぼりとするミハエルに私はこう告げた。
「それなら、一緒に探しに行きませんか? 手始めにサブリナ様の部屋から!」
「え?! 何を勝手に決めているの?!」
私の突拍子も無い提案に驚き、声を上げたのはサブリナだ。ペンを探すと聞いて静観出来なくなってきたらしい。
「ダメですか? シェリーの依頼書に関わっていなければ、サブリナ様の部屋からペンが出てくることは無いはずですよね? 出なければあなたの証言を証明する良い情報になりますよ? まあ、仮にあったら、ペンを持っていたことになりますから……」
どういうことか分かりますよね? と微笑む。
なお、昨日捜索した時にどこに隠しているかは把握済みである。なんなら持ち出し禁止のため結界まで張らせていただく用意周到ぶりだ。ペンの場所は移動してないだろう。
私達全員はサブリナが文句を垂れているのを気にもせず、勝手に部屋に行くと、捜索を開始した。そんな私達の様子をサブリナは終始不安そうな顔で見ている。
そして、私は机の引き出しを開けるとわざとらしく声を上げた。
「あれ~~~ミハエルさん、こんなペンが出てきましたよ? もしやこれではないですかー?」
「おおーー! まさしくそれではないかー!」
私とミハエルはすかさず、くるりとサブリナの方へ顔を向けた。
「サブリナ様、これはどういうことか説明していただきましょうか?」
シェリーの依頼に使うはずだったペンがサブリナの部屋から出てきたのだ。これはつまりシェリーの部屋の備品を触ったということになる。
するとサブリナはすっとぼけるような表情をしてこう言った。
「私が依頼した時の物だったかしら?」
慌てているがこういうときの頭は回るらしい。自分の依頼の時の物だと主張し逃げる気だ。そうはさせるか。
「ご安心ください。先程も申しましたよね? この世界の依頼は一件しか届いていなかったことが分かっております。そのため、お二人分の依頼書が存在することはないのです。したがって、どちらかの依頼しかないのです。」
「で、ではシェリーの依頼書が間違っていたのです! 私は自分の依頼書のペンを貰っただけですわ!」
この後に及んでまだシラを切るつもりらしい。
「シェリー様の依頼をしたと妖精が言うのであれば、そもそもあなたに依頼はいっていないはずです」
サブリナはウッと言葉を詰まらせる。
すると、横のオズワルドが呆れたように前に出た。そして冷ややかな目をしてこう述べた。
「サブリナ、もうよいではないか。罪をみとめよ」
思わぬ方向からの言葉についサブリナは黙ってしまった。恐らくサブリナはオズワルドが今回の件について把握していないと思っていたのだろう。
オズワルドが全ての情報を把握している素振りを見せたので、焦りからか急にサブリナの動きがたどたどしくなった。
「其方が依頼書を横取りし、自作自演をしたのではないか?」
オズワルドが話を振ってくれたので、私は推理される内容を語った。
「私が推測するに……サブリナ様はシェリー様に依頼が届いたことを何かのはずみで気づいた。そう、廊下に会話が聞こえてきたなど。そして会話を聞いていて、自分の身が危ないことを察したのでしょうね。まあ、普段から嫌がらせをしていたので自業自得な所ではありますが。
そして、シェリーが依頼書一式を部屋に置いたまま出たことをいいことに、その間に自分の都合の良い内容に捏造した。ペンは……偶然持ってきてしまったか、造りが美しいので盗ったかというところでしょうか?」
私は追い討ちをかけるようにニコリと微笑みながらこう告げた。
「ちがいますか? サブリナ様?」
サブリナは逃げ場を求めるように、周りを見た。しかしここに集まる者は全て私の協力者である。最後はオズワルドの厳しい眼光に恐れ慄いたらしい。
サブリナはガクッと力なくその場に崩れ落ちると、諦めたかのように「はい」と小さく頷いた。
◇◇◇◇◇◇
「では、僕は備品の盗難事件、そして魔法省への報告をするために、先に帰るよ。証人として、君の妖精のリンデンを借りていくね」
「ものみたいに言うではない!」
「大丈夫だよ、可愛いエミリーちゃんのパートナー妖精をそんな無碍に扱うはずないじゃないか」
そう言うと髪をかき上げて、薔薇を私の方に向けるミハエル。
「エミリーちゃん、今回は助かったよ。互いの案件が無事解決して一安心だね。今回の件で案件の取り扱いについてはこちらから上に提言しておくよ。ありがとう。……君との出会いは運命だったんだね」
「いえいえ、私もミハエルさんに助けていただきました、ありがとうございます」
ミハエルの言葉と薔薇を完全にスルーしてお礼を伝えた。このキャラにも慣れてきたぞ。
すると、最後に私にカッコイイと言わせようとしているのか、引かぬとばかりにミハエルは、薔薇を私の顔に刺さるかと思うくらいの距離に近づけてきた。
うざいので避けたいが、先輩なので雑なことも出来ない。
すると、私の代わりにリンデンが薔薇を掴むと、邪魔と言わんばかりにポイッと後ろに投げてくれた。さすが私のパートナー妖精、分かってる。
ミハエルは少し悲しそうな顔をしたが、「君は珍しいタイプの女の子だね。そんなタイプの女の子も嫌いじゃないよ」と言うと手を振り、去って行った。
いやあなたが珍しいタイプの男性です。というツッコミを、言わずに飲み込んだ私は偉いと思う。
ミハエルは最後まであのキャラを貫いていたので逆にビックリだ。
サブリナは一度魔法省に出向き、取り調べを受けることになった。そこで案件の一部始終が明らかになる。




