令嬢第七事例 報告3
新キャラ登場です。
しばらくして、サブリナを見守っているある日のこと。
シェリーとサブリナが廊下で互いにすれ違った。恐らく私が任務に就いて、これが初めてのサブリナとシェリーの顔合わせになるだろう。
しかし互いにペコリと会釈しただけで特に会話も無くすれ違う。余程仲が悪いのだなと思う。
ーーここで事件は起こった。
すれ違ってシェリーの姿が消えた直後、急にサブリナがその場で蹲み込んだのだ。
「い、痛いですわ」
「どうなされました?!」
私が慌てて駆け寄ると、サブリナがなにやら手を押さえているのが見えた。
「すれ違い様に軽い魔力攻撃を受けたみたいです。幸い見た目では分かる傷は無いのですが、少し手が痛みます」
なんと、すれ違い様にシェリーは魔法を使ったらしい。
私の目では単にすれ違ったようにしか見えなかったが、その間にサブリナに攻撃が当たったらしい。私の動体視力が仕事をしなかったことにとても落胆する。
にしても、一瞬で魔法を放ったシェリー。相当なやり手であると心得る。
シェリーが見た目によらず、強者であることを知った私は、私1人の力で対応出来ないとしてリンデンを召喚し、フォローを頼むことにした。
◇◇◇◇◇◇
この世界での担当になってしばらくしたある日、私はリンデンにシェリーの監視を任せつつ1人屋根の上で作戦を立てていた。
記録媒体で記録したものをスローで流して、攻撃している所を捉える。そして証拠として叩きつけて今回の案件はサクッと終わらせるのだ。
うむ、我ながら完璧な作戦だ、などと思って立ち上がろうとしたら……
リンデンが血相を変えて私の前に現れた。
「エミリー、おぬし、大変なことが起こったかもしらぬ!」
「へ?」
私がリンデンの言葉に反応した瞬間、何故か目の前に虹色の異世界の扉が現れた。
これには報告しようとしていたリンデンも驚いたらしい。思わず扉に振り向いた。
ーー突然現れた扉からは……見慣れぬ人物が。
赤く長めの髪。その髪は後ろ手に一つにまとめられており女性かと思われたが……背が高くガッシリとしているから男性だろう。
服装は白が基調となった制服を着ているので、察するに異世界統制省の者だと思われる。
黄緑色の瞳がキョロキョロと動きながら扉の周りの様子を伺っている。
そして、その肩には妖精と思われる姿があった。
その男性は扉を出ると私に気付いていない様子で、妖精に話しかけ始めた。
「君が落としたのは、間違い無くこの世界?」
「そうなのでしゅ、ごめんなさいでしゅ」
ーー誰?
ポカーンとしてその様子を見ていたら、やっと私達に気づいたらしい。男性は私の姿を見て驚いたように声を上げた。
「おや、先客ですか! その姿は……魔法省かな? 君たちも仕事でこの世界にきたの?」
「は、はい。私、魔法省悪役局、悪役救済部悪役令嬢おたすけ課のエミリーと言います。その制服、異世界統制省の方ですか?」
「これはこれは、自己紹介が遅れました。俺は異世界統制省の世界管理局、総務部、備品管理課のミハエルだよ。その感じだと新人さんかな?よろしくね」
ミハエルと名乗るその人物は人懐っこい感じの笑顔で笑ってきた。先輩らしいが、親しみ易そうな人だと分かり少し安心した。
ーーすると、さっと私の前に薔薇が現れる。
ん?と思って顔を上げると、目の前には一つ結びにしているはずの髪を解き、サラッと髪をかき上げるミハエルの姿が。
「可愛らしいお嬢さんだ。仲良くしてくれるかい?」
ーー前言撤回。めんどくさそうな人だった。
思わず私は先輩だということを忘れ、引いてしまった。私が引いて突っ立っていると、不思議そうな表情をしてきたミハエル。
「あれ? 大体の女性は僕のこの姿を見るときゃーって喜ぶんだけど……」
ごめんなさい、申し訳ないけど何とも思わない。
私は多分他の女性よりも、仕事柄ミハエルのような口説くタイプの男性をよく目にしている。が、故に甘い言葉には耐性があるのだ。
「私、悪役令嬢おたすけ課なので、男性のそう言った発言はよく聞かされておりまして……特になんとも思わなくなりました」
するとすごく残念そう、いや可哀想なものをみる目でミハエルは見てきた。
「なんて可哀想な……トキメキを感じられ無いなんて」
「男女の現実を見過ぎたせいですね。」
「ああ、なんてことだ!」
ーーそろそろ相手が面倒になってきた。私はサラッと流して質問をする。
「ところで、どうしてこの世界に?」
「いや実はね、この子が落とし物をしたらしくて。君も何か気付いたら教えてほしいんだ」
何やら、ミハエルの肩に乗っている妖精が落とし物をしたらしい。
この妖精は、異世界統制省や魔法省でも一般的に目にする妖精である。リンデンなどとは違い、服を纏って人に近い見た目をしている。
仕事内容は、主に異世界とゼロバンの各省を繋ぐ物資の運搬や、異世界での人物の監視接触など多岐にわたる。リンデンが私個人の妖精であるのに対して、この妖精達はゼロバン自体を支えている者達だと思ってほしい。
その妖精が、この世界で仕事をした際に落とし物をしたとのこと。
「落としたのは『契約ペン』でしゅ」
「契約ペン?」
「はい、契約の際に必要になるペンでしゅ。魔法省で使うペンが、依頼完了後見当たらなかったのでしゅ」
魔法省への依頼を出す際に依頼主は契約書を書くのだが、その際に使用する特別なペンが無くなったらしい。契約書は記入されているのが確認できたので回収し、無事依頼として提出出来たが、ペンだけ見つからなかったそうなのだ。
「ミハエルさんがここに来たということは、もしかしてその契約書を書いた依頼主はここに住む令嬢ってことですか?」
「正しくその通りなんだ。もしや、その令嬢の依頼をまさに担当しているところかい?」
「そうです」
「それは奇遇だね。よかったら私も備品探しのため、少し関わらせてもらえないかい?」
「はい、大丈夫ですよ」
新しい仕事仲間が増えたみたいだ。ミハエルのキャラに不安しか無いが、1人でやるより何か先輩の意見を貰えるかもしれない。少しガッツポーズをした。
ーーすると、横のリンデンは何か思うことがあったらしい。
「エミリー、我は一旦魔法省に戻る。依頼書を確認する」
そう言うと私が止める間も無く帰って行った。そういえば、リンデンは先程何が言いたかったのだろうか。
変な人出てきました。




