令嬢第七事例 報告1
久しぶりのイレギュラーの無い、ただの令嬢を相手にする案件だ。課長の優しさに感謝しつつ、肩の力を抜いて資料を開いた。
ノン悪事案 No.7
場所:世界番号786
救済対象:令嬢サブリナ
真悪役疑惑: 令嬢シェリー
依頼主:令嬢本人(接触可否:可)
魔法の存在:有(認知度:低)
備考:依頼主は真悪役疑惑の令嬢より、虚偽の嫌がらせ行為の犯人だと申告されている模様。冤罪の恐れあり。同時に意中の相手から失望されているとのこと。
虚偽の嫌がらせ報告をされている令嬢を救う類の案件らしい。嫌がらせを全て自分のせいにされているようだ。
さっさと終わらせてやろうと意気込み、私は依頼主のサブリナ令嬢の所に向かう。
私が屋敷に向かうと、丁度中庭を歩いている様子だった。
私は1人で歩くサブリナと思われる令嬢の、背後から声をかけてみることに。
「ごきげんよう、サブリナ様」
令嬢は振り向いて私を見た。
「私、エミリーと言いまして、まほう……」
「きゃーーーーーーー!!!」
私が自己紹介をしようとするや否や、令嬢は悲鳴を上げた。
「誰かーー! 侵入者が!!!」
ーーどうやらこの令嬢は稀に見る、魔法省職員に対して驚き騒ぐタイプの人間だったらしい。
そういえば、悪役令嬢おたすけ課が面倒だと言われていた所以に、令嬢が初見の私達異世界の者を見て驚いて騒ぎ出すということがあったのを思い出した。
なるほど初めて遭遇したが確かに面倒だ。よく、今まで素直に受け入れられる人に担当できたなと思う。ただ、騒ぐのは令嬢としての自衛能力の高さの現れなのでどっちが正解とも言い難いが……
取り急ぎ、このタイプの令嬢への接し方マニュアルを荷物から出し検索をかける。
内容には、令嬢を落ち着かせるなどあるが、正直物凄い数の護衛が迫っているため、そんな余裕はない。むしろ今は自分の保身の方が大事そうだ。
ついに護衛に取り囲まれてしまった私。これは、マニュアル想定外の事態だ。
ーーええーい!マニュアルが役に立たん!!
もうこの際、令嬢に私が不審者でないことを知ってもらうしかない。きっと魔法省と言えば、依頼主であれば察してくれる。
「私は魔法省の者です!」
私は力一杯叫ぶ。
魔法省と聞いて、令嬢は一度ぴくりとした。
お、聞こえたか?
しかし、令嬢の態度は変わらなかった。むしろ焦るように衛兵に指示を出し始めた。
「あの物を捕らえなさい!」
もしやちゃんと聞こえなかったのだろうか?
令嬢はパニックを起こしているようにも見えた。多分私の声自体は聞こえても、内容を冷静に判断することができなかったのだろう。私が魔法省職員とまだ認識していない様子。
「あ、あのー、もしもーし!」
「早く捕らえ……ぐずぐすしないで!」
私の言葉は聞こえてないようだ。
これは、一度冷静になってもらおう。
私がうーんと考えていると、私を囲んでいた衛兵は私が怖くて固まっていると勝手に判断したらしい。
「怖いのか? 今なら降伏すれば手荒にはしないぞ?」などと不敵な笑みを浮かべて近づいてくる。
うーん、怖いのではなくてどうすれば話を聞いて貰えるかを考えているのだ。正直普通の衛兵よりも私は強い。でも保身はしておいた方がいいので魔法のステッキを取り出し、一応衛兵達に向けた。
すると、私の可愛らしいステッキを見た衛兵達は、小馬鹿にするように笑い始めた。
「お嬢ちゃん1人に何が出来るんだ。しかもそんなちっこい棒で。この芋娘」
芋……娘?……カッチーン。
頭の中で何かがプチンと切れたような感覚。
もういいや、交渉で平和的にパニックを沈めようとしたが、やーめた。
私は握ったステッキを大きく振り、前へ突き出す。
「マジカル ストーム!」
直後、私を囲むように複数の竜巻が現れ、一瞬にして私と衛兵の間に風の壁を作り出す。
竜巻が私の周りを旋回し始めると、砂煙と共に周りの衛兵達が飛ばされていくのが見えた。
ゴオオと音が轟き、私の周囲には衛兵がいなくなった。飛ばされた衛兵は数メートル先で皆尻餅をついていく。
そして、風が吹き荒れる中央に私は留まり、そのままサブリナと思われる令嬢や衛兵を見た。私は極力真顔をキープする。私の金髪の髪がなびき、制服のスカートがバッサバッサと揺れるがお構いなしだ。
しばらくして、威圧感を敢えて出しつつ攻撃の手を止めた。
今回は申し訳ないが、圧倒的な力の差を示して黙ってもらうことにする。私はニッコリと笑った。
「……私の話聞いてます?」
正直ここまでしなくてもいいかもしれないが、私の話を一旦聞いてもらえるように、強制的に静かにしてもらう。そのためには、最初に圧倒的な魔力差を見せて、衛兵が近寄らないようにしなければならないと判断した。
でないと、令嬢と話ができない。
何よりなんかカチンときた。
これでも力加減をして、人が怪我しないような最低限の魔法で対応をさせてもらったので許してもらいたい。
そして当の令嬢や衛兵だが……とても恐ろしい者をみるような目でこちらを見ている。令嬢は心持ち悔しそうにもしている。きっと衛兵が使えなかった苛立ちも混じっているのだろう。
このままでは令嬢が次の指示を出してしまいそうなので、私は早めに話題を切り出した。
「少し手荒な真似をしてしまい、失礼しました。わたくしは、魔法省悪役局、悪役救済部悪役令嬢おたすけ課のエミリーと申します。依頼の件、お忘れですか? サブリナ様」
それを聞いて、目の前にいた令嬢は急に態度を変えた。
「あ、ああ! 魔法省の方!! すみません取り乱してしまいまして」
魔法省に聞き覚えがあるらしい。そしてサブリナの名前に反応したことから、依頼主のサブリナに間違いないようだ。
ニッコリと私は笑いかけると、直ぐに周りの衛兵に聞こえるように言った。
「私はこの世界を、そして他の世界をも管理する世界番号0番の魔法省の人間です。故に、私はこの世界の王をも制御可能な力を持ちます。今回はこちらの説明不足のため目を瞑りますが、以降の私への攻撃は業務妨害とみなされ魔法省による厳しい罰則が与えられる恐れがあります。邪魔はされないよう、お願いいたします。なお守れない場合は……どうなるかお分かりですよね?」
私がギロリとにらみを利かせると、周りの衛兵は恐怖で声が出なくなったらしく、必死にうなずいていた。
「付け加えて、今回私が現れたことは口外禁止となります。今から皆さんには魔法省の規則に則り、箝口令を敷きます。これについても違反した場合は罰則があるのでご注意を」
ここまで脅しておけば、私や今から行う案件への邪魔は入らないので大丈夫だろう。
やっとサブリナと話ができる。私はサブリナに向き直った。
「サブリナ様、改めましてお初にお目にかかります。魔法省のエミリーと申します。この度は貴女様の依頼を受けてこちらにやって参りました。つきましては詳しい話をしたく存じます」




