大臣秘書官
「こんにちはエミリー君。私は、異世界統制省の大臣秘書官、ランドムという」
そう名乗る人物は、深い青の髪に黒い目の男性。その瞳は怪しげな光を放ちつつ、こちらを見ていた。笑っているのに何処か不気味さを覚える。
て、え?! 大臣秘書官?! 自己紹介を聞いて思わず飛び上がりそうになった。
そんな人物に直接呼び出されるなんて余程のことをしでかしたのではないだろうか。急に冷や汗が出てくるのが分かる。
すると、ランドムと呼ばれるその男性は私の様子に気づいたのか、少しにっこりと目を細めた。
「そんなに緊張しなくても良い。今回、君をここに呼び出したのは他でもない、以前の扉の接続障害の件なのだよ」
ーーあの件か。
「実は、あの障害が発生した時に異世界に飛ばされていた職員は君だけだったのだよ。ついては、今後の為にその時の様子を詳しく教えて欲しいんだ」
原因究明と、現場の様子を確認したいがための呼び出しだったのか。私が何かしでかしたことではなくて、少しホッとした。
しかし、ホッとしつつもどこか安心できないような、気を抜いてはならない気がした。
というのも、ランドムの目は私のことを観察するように見ており、何か不穏な感じがしたからだ。私の野生の勘だろうか、この人は信用してはいけないと言っている。
私は警戒しつつも、当たり障りないようにニコリと微笑み誠実さを出しながらこう答えた。
「扉を召喚すると、黒い膜が現れました。硬く、叩いても割れないような物です。しばらく叩くと黒い宝石が現れました。」
「黒い宝石?」
ランドムの目がギラリと光ったのを感じた。
「はい、特にそれ以外は変化なく、ずっと扉は黒いままでした」
「なるほど、その後は救助が入ったと聞いたが、君が無事この世界に戻れたようで何よりだ」
それ以上は質問されたことに淡々と答えていった。なお、助けに来たのがタロウだったことは聞かれ無かったので触れていない。
最後にランドムは私に再びにっこりと微笑むとこう言った。
「君の話で状況を把握することができた。しかしながら……今回の内容は一部極秘事項に触る部分がある。今後のセキュリティを考えると今回のことは口外禁止だ。これを守れないとどうなるか……分かるね……?」
ランドムの目の奥から光が消えた。怖くて思わず同意すると、ランドムは「よろしい」と呟く。
そして、ずっとゾワゾワした感覚を覚えつつ、この話の集まりは無事終わったのだった。
私がホッとして部屋を後にすると、帰りの廊下で偶然タロウに会った。いや、偶然というよりは出待ちされていたに近いかもしれない。声を掛けようとしてきた。
しかし、その時……別の所からタロウを呼び止める声がした。そこには、先程のランドム率いる集団が。
「おや、君はヴィンセンティアのところの……奇遇だね」
「ご無沙汰しております、大臣秘書官」
タロウは私に声をかけるのを止め、何事も無かったかのように気をつけをして姿勢良くお辞儀をする。
「君とは例の件以来だね。親御さんは元気かい?」
「あの時は、ご迷惑をお掛けしました」
タロウは謝っているのだが、何処か悔しさが滲み出ているような言い方だ。それにずっとお辞儀をしたままなので表情は見えないが、凄く作り笑いをしているように感じた。
そんなタロウの様子を満足げに見て、ランドムは鼻で笑うようにこう言った。
「君は目立つことはせず、黙って周りと同じことをしていればいいのだよ。有望株なのだから期待しているよ」
「はい……激励……感謝致します」
見下すような笑い方をしてランドム大臣秘書官は取り巻きと共に去って行った。取り巻きも、少し馬鹿にしたような雰囲気で通り過ぎていく。
全員が去った所でタロウが顔を上げた。その顔はやはり悔しさが滲み出ていて、手を強く握っていた。
思わず心配になって私の方から声を掛けた。
「た、タロウさん? 大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ、それよりも早くここを出るぞ」
そういうとグイッと腕を掴まれ、建物を後にする。
そのままタロウは魔法省に向かって歩き出した。どうしたんだろうと思いつつも、スタスタと無言で歩くタロウの後ろをアヒルのようについていく。
途中、タロウの同期や仕事仲間と思われる人と挨拶する様子があったが、いつものタロウではなく、割とクールで毅然とした態度を見せていた。
私の知らないタロウ。他の職員と話す様子はいい意味では仕事ができそうだが、隙がないような感じだった。いつもこんな感じで仕事をしているのかと思うと、大変そうだなと思った。
異世界統制省の建物を出たくらいからだろう、やっとタロウが口を開いた。
「何を聞かれた?」
「え?」
「奴らに何を聞かれた?」
私がキョトンとしていると、タロウは髪の毛を掻きむしってため息をつくとこう言った。
「何か危害を加えられたりしなかったか?」
思い浮かべてみたが、特に危害を加えられるようなことは無かった。私はあの部屋で特に質問以外何もなかったことを伝える。
すると、タロウからは安心したかのように大きくため息をつかれた。
何故こんなにもタロウが不安そうにしているのか疑問に思い、首を傾げて見ていると……タロウは苦々しい顔をしながら話し出した。
「気付いてないのかもしれないが、さっき君を取り調べしていたのはウルフ派の奴らだ。しかも中心に限りなく近い」
ーーえ、そんなことは一つも分からなかった。
ただ少し、笑っていても瞳の奥に冷酷さが残る、何処か不気味な人達だと思っていたが、まさかあの集団がウルフ派だとは……
私が驚いて口を開けていると、タロウはやはりかと言わんばかりのトーンで話を続けた。
「特にランドム。奴は、ウルフ派の幹部だ。今の異世界統制省の大臣はウルフ派のボスだ。それの右腕とも言って良い存在だ。そんな奴から直々に呼び出しがかかったと知って、静観できる訳が無いだろう」
どうやら心配して様子を見にきてくれたらしい。
「以前のアニーサの件かと思ってヒヤリとしたんだが、あれはバレていないようだな。それ以外は……秘書官が直接問うくらいには大事な件らしいが検討がつかない。何か企んでいるのか?」
1人で考えるようにブツブツと呟きだした。
私は慌てて話題を振る。
「心配していただかなくても大丈夫ですよ!この通り無事でしたし!それに後は魔法省に帰るだけです!1人で帰れます!」
しかしタロウは引く様子もない。首を横に振った。
「今から行くのは魔法省のとある所だ」




