令嬢第六事例 報告2
「ただ、条件があります。」
危ない、課長からの条件を忘れるところだった。希望が出たところで申し訳ないが、一応条件を伝えておく。
「この案件を解決するのは、即ちこの物語の結末を変更するということになるのです。元々違う話だったという認識になるので、影響力はさほど気にしなくてもいいのですが……さすがに物語の流れ上、綺麗な結末で終わる必要があるのです。なので、アレグロ様の運命を変える以外に、この物語のストーリー変更、そして綺麗な結末を代わりに用意することが求められます」
素直に喜んでいたアレグロの顔が少し濁る。
「と、いうことは私が助けられただけだったら、物語が進まないので、代わりに主人公に相応しい結末を用意しなくてはならないというわけね」
「その通りです」
「厄介ね」
本当に厄介だ。以前も運命が決められた乙女ゲームの悪役令嬢の案件を対応したが、あの時はいくつか運命のルートが用意されていた。しかし、今回ストーリーは今の所一つしかない。いかに物語らしさを残しつつ、運命を変えるか、私達の手腕に関わってくるのだ。
私は一層気を引き締めた。
アレグロも気を引き締めたのか、少し焦ったようにこう述べた。
「今回何故、この時期にあなたを呼んだのかというと、以前から丘から歌声が聞こえ始めていたことに加え、ついに物語に出てくる仮面舞踏会のお知らせが入ってきたのよ。物語が始まる予感がするわ」
なんと、既に物語は進み始めているのか、それは対応しなければ。
「分かりました。早急に対応しましよう」
◇◇◇◇◇◇
私達は物語の中で、アリアが日々歌っていると噂される丘にやってきた。
いつも早朝になると歌いにやって来るらしい。
しばらく待っていると、茶色の髪に水色の目をした質素な服装の少女が現れた。
「あの少女が主人公のアリアよ」
プリンセス系の物語に出てきそうな、儚げな美しさのある少女だった。確かに主人公っぽい。
するとアリアは丘の上でお城を見つめつつ、慣れたように歌を歌い始めた。
その歌声はまさに美声である。
「ラララ 歌いましょう
ラララ お城に思いを込めて
いつの日か私にも 王子様が現れると信じて 」
ん? あの歌聞いたことがあるぞ。
物語自体は知らなくても歌は聞いたことがあったらしい。この物語発祥の歌だったことを今更知る。
これはもしや、有名な物語の結末を変更するということになるのでは……と、今更ながらプレッシャーを感じ始めた。
すると横にいたアレグロが何かに気づいたらしい。一ヶ所を指差した。
「まあ、大変。王子様と出会う日だったようよ」
指差す方を見ると、物影で歌を聞いている男性の姿がある。明らかにお忍びで来ているような貴族の服装をしていた。
ーー本当だ、あのゴテゴテした服装は絶対王子だ。
すると、王子は隠れるどころか、なんとアリアの歌に堂々とかぶせるように歌いながら近づいてきた。
「ラララ あなたは歌の妖精
ラララ 美しい声
さあこちらを見て あなたの王子はここにいます 」
ーーいやあなたも歌うんかい、と心の中でツッコミを入れたのは内緒である。
ついに二人の出会いのシーンだ。手を取り合い2人で歌い出した。
「ラララ ついに出会った
ラララ あなたと私
共に手を取り合い 同じ歌を口ずさむ
いつかこの思い通じるまで」
す、すごい……
初対面にしてはめっちゃハモるじゃん。それに周りを動物達がダンスするようにクルクルと回っている。まるでミュージカルを聞いているような息の合い具合だった。
さすがミュージカルアニメにもなった物語。ばっちり再現されている。
言ってる内容はいきなり2人とも一目ぼれしましたみたいな砂糖の砂糖漬けのような歌詞なのだが、歌のせいか美しく感じてしまう。これがプリンセス系の物語の力なのかと思うと感心だ。
そして、2人とも初対面なのに一切警戒しない所にもビックリした。普通一国の王子が来たら腰を抜かすだろうし、なんなら王子は正体を明かしてはならんだろう。
私が色んな意味で感動をしていると横でアレグロが私を注意する。
「エミリーさん、何を感動しているのですか! ついに2人とも出会ってしまいましたよ。出会いの阻止が出来なかったのです。どうしますか?」
た、確かに2人が出会ってしまった。ということは物語のスタートである。
しかも、2人は惹かれ合ってしまったのでアレグロはどうしても悪役になってしまう流れになりつつある。
ーーこれは早急に対応が必要だ。
危ない、見惚れてしまうところだった。気持ちを切り替えて作戦を練り始めなければ。
◇◇◇◇◇
早速アレグロと作戦会議だ。
「この後の流れで、変更の余地がありそうな機会はどこですか?」
「仮面舞踏会かしらね。あの場面が物語の大きな鍵となる部分だもの。私が悪役にならずに済む可能性もあるわ」
「では……舞踏会に招待をしなければいいのでは?」
「無理よ。彼女は私からの招待ではなく、王子に会いたいが故に勝手に舞踏会に忍び込むの。むしろそこで私がバレないように貴族の服装を着せてコッソリ帰らせるつもりが、アリアの後先考えない行動で仮面がはがれて正体がばれてしまうのよ」
「あれ、結構自業自得な感じの結末なのですね」
「貴方が読んだのはきっと児童向けの簡易版よ。原作はこうなっているから気を付けてね」
なんということか。本当にアレグロは不幸でしかない。
「おそらくだけど、私達が何をしても会場に来るとは思うのよね。だから追い出すのが一つ。あとは仮面を外して王子にばれた時に周りに騒がれるのを避ける必要があるわね」
現地でアリアを誘導する必要があるのか。
「誰か、追い出すよう声を掛けてくれたり、騒ぎから目を晒してくれたらいいのだけど」
「そう言ったことに協力してくださる方はいますか?」
「互いに上げ足を取りたがるものばかりよ。それに私は役柄上味方がいなくて……」
「なるほど、協力するような貴族がいないのですね。誰かを雇うのはいかがですか?」
「だめよ、作法などですぐばれてしまうわ」
うーんと、頭を捻る私達。
「一番いいのは私エミリーが貴族に成りすまして、対処するべきなんでしょうね」
「それが心強いわ」
実際、私は令嬢関連の対応部署なので最低限の令嬢の作法はできる。ここの世界の常識は叩き込む必要がありはするのだが。
「でも、あの会場は男性と常に行動する必要があるわ。1人でいたら声をかけられて面倒ごとになりそうだもの」
「え、そうなのですか。うーん、どなたか事情を把握して協力してくださるような男性はいますか?」
「私では貴族レベルの方は用意できないわね……」
アレグロは申し訳なさそうに言う。
アレグロ側で用意出来ないとなると、私側で用意する必要がある。私の身近で、事情をしっていて共に行動してくれそうで、知識作法の面からも安心できるような男性……ぐぬぬ、私には友達が少ないため頼れそうにない。
しかし、次の瞬間誰かの顔が思い浮かんだ。
非常に迷ったが、他の手がない。
連絡先を貰ったところで即使うのは気が引けるが……




