令嬢第五事例 報告6(後に極秘取扱へ移行)
コホンと咳払いをしたタロウは真面目な顔に戻った。
「で、俺が持ってきた大事な話というのはだが……アニーサは……」
「「「魔法が使える」」」
3人の声が被った。
「……なんだ、2人も把握済み?」
タロウが驚いたように聞いたので、私はタロウ不在時の調査報告を行った。
報告を聞いたタロウは納得するように頷く。
「……なるほど、それで魔法が使われている現場を見て確証を得たということか。それならば、俺の持ってきた情報は更なる証拠になってくれるかもしれない」
「と、いいますと?」
「アニーサは魔法が存在する世界からの違法転移者だ」
私とローリンがきょとんとして聞いていると、タロウが説明を始めた。
「元の世界に戻った俺は、転生・転移課のデータベースを調べた。そして、アニーサは世界番号150から転移した魔女であることが判明したんだ。
世界番号150は魔法が存在し、広く認知もされているどころか全員が魔法を使える環境だ。そこから、アニーサは魔法が使える能力を引き継いだままこの世界に転移したんだ」
「じゃあ、アニーサはやはり魔法が使えるのね。魔法ならば占いが当たるのも説明がつくわ」
ローリンが納得する。
ただ、アニーサがこの世界でも魔法が使えると聞いて、ふと私の中で疑問が出てきた。
「あれ?待ってください。課の資料にはこの世界に魔法は存在しないと記載されてましたよね。資料は都度最新に更新されるので、アニーサが魔法を使えるのであれば存在"有"に表示変更になってもいいはずです」
「お、いいところに気が付いたな。
問題はそこなんだ。
本来、異世界のデータは異世界統制省内にある世界管理局、情報更新課で年一回のペースで各世界の情報を確認し、更新をすることになっている。さらに、他の部署などから魔法の存在報告があった場合は即情報が更新されるんだ」
「定期的に情報更新を行っているのですね」
「で、ここからだ。この世界のデータ更新は、俺たちの世界基準の時期感覚だと凡そ半年前。アニーサがこの世界に来たのはその直後だ。データ更新がされた後に転移したことになる」
「では、更新データが古かったのですね」
「と、思うだろ? 世界間で転移をする際は必ず転生・転移課の者が同行することになっている。もし仮に能力を維持しながら転移した場合、転移を担当した職員が随時報告するため、本来は更新遅れということが起こらないはずなんだ」
「今回は報告がなされていなかったってことですか?」
「その通り。報告がされていなかった、いや、俺の推測では意図的に報告がされなかったと表現する方が妥当だろう」
「意図的に……?」
「本来、転移するためには事前承認が必要だ。ただ、本人の記憶などが残るため、転移の必要の可否は審査が難しい。ましてや、魔法の存在しない世界に魔法を使用できる人物を送るなんてことは、影響が絶大でほとんど承認されないんだ。
今回はおそらくだが、承認を得られないことを端から知っていた者が、事故を偽って後から魔法が発見されたことにするため、時期を見計らい、隠密にアニーサをこの世界に送ったのだろう」
「でも、何故そこまでしてアニーサを送る必要があったんでしょうか? 魔法能力を奪えば良かったのに」
「それは、魔法という異能の影響力が入る必要があったのかもしれない」
「……ねえ、もしかしてだけど」
何かにローリンが気付いたらしい。深刻そうな表情に変わる。その雰囲気を察してか、話してもいないのに同意するようにタロウが頷いた。
私は何も分からなくてきょとんとしている。
「あ、あの? もしかしてとは?」
「……君は、魔法省含む現省庁内の、二大派閥を知っているか?」
「派閥……?」
勿論そんなものは知らない。初耳だ。
ローリンとタロウは顔を見合わせ、困ったような表情をした。ローリンが説明しようとしたのだろう、それをタロウが止めた。
その目は私の胸元のバッジを見ている。
「エミリー、その胸の報告バッジは些細なことも記録し報告できるそうだな。悪役救済局のみ対応だとはいえ、記録される恐れがあるため、今安易に説明をするのは君や俺達にとって危険だ。今回の案件が解決し、無事報告が済んでから説明することを約束する。だから今は知らないでいてくれ」
どうやら、私の報告処理バッジのことを気にしているらしい。胸のバッジは案件対応中の内容を細かく記録する。それ故にこのバッジの前では話せないようなことなのだろう。
「そうね、誰に情報が洩れるか分からないもの。今は中立の立場をとるよう行動をしましょう」
ローリンも警戒をしつつ頷く。
「世界番号0でまた話す」
世界番号0とは魔法省のある、私達の元の世界のことを示す。
今は迂闊に話すことが出来ないらしい。それくらい、重大なことなのだろう。タロウが機転を利かして遠回しな話し方をしていることは容易に想像できた。
これは私の推測でしかないが……バッジにより下手な会話をすると記録されてしまう。内容によっては報告時にどちらかの派閥であると誤認される恐れがあるのだろう。きっと、この会話だけでタロウの今後の立ち位置などにも影響が出るだろうことを察してしまった。
あの世界にある大きな闇を知り、恐ろしさから迂闊なことはしない方が良いと自己防衛本能が働く。今は先輩に従っておこう。
「分かりました。これについては深追いしません」
聞き訳がよろしいと、タロウは頷いた。
「では、アニーサをどうしましょう」
ローリンの問いに、タロウが答える。
「今、ある案としては、アニーサを元の世界に戻すことを考えています。実は転生・転移課でもアニーサの案件は隠すように保管されていたんです。ならばまだ公になっていないことを理由に、手違いだったということにして、何事もなく元の世界戻す。これが一番の安全策だと思います」
「確かに、安全かもしれないわ」
ローリンは同意するよう頷く。私もとりあえずは頷いておいた。
これは後から聞いた話だが、異物な存在が発見されたとして、存在を消すか他世界に飛ばす処置も考えたそうだ。だが大事になりかねないとのことで、転生・転移課のミスで元に戻した風を装うことにしたらしい。
「でも……あれだけ知名度の高い人、いきなり世界から存在が消えたら騒ぎになりませんか?」
「そんなの、失脚させればいい」
サラッと言ってのけるタロウ。
え?と私が固まるのを気にも留めず、何も迷うことなく説明する。
「失脚すれば、身を隠すように生活することになるだろう。異世界に消えたことなんて、誰も気付かないさ」
「な、なんてことを……」
「何を言ってるんだ? サーラ姫を救うことを考えると最適な手じゃないか」
「まぁ、ギャフンと言わせたいとな思ってたから丁度いいんじゃない?」
ローリンも別に反対はしていない。サラッと言うこの先輩達怖い。
「確かにそうですけど」
「何より、サーラ姫を救い出すにはアニーサの占いが不正であるのを証明する必要がある」
タロウの案は合理的だ。故に否定する理由はなく……私は同意をした。
「分かりました。では、具体的にどうしましょうか」
「まずはアニーサの占いの信憑性を下げる必要があるな」
「確かに、占いが当たらない証明が欲しいですね」
「あとは……アニーサ以上の占い師が現れるっていうのもいいかもしれないわね。アニーサは占えるものに限りがありそうだし」
「じゃあ、二つとも満たせばいいのでは?」
「そうね、それが最強かもしれないわ」
ローリンとタロウの中では結論が出たらしい。
私は1人話について行けないため、説明を求める。
「2つとも満たすなんてことできますか?」
「君、俺たちは魔法が使えるのを忘れたのか?」
「え……?」
「目には目をだ」
クスッと笑うローリン。
「占いを事実にする能力は、私達の方が勝っているものね」




