令嬢第五事例 報告2
早速客である富豪はアニーサに依頼をする。
「私に今後起こる災いを占ってくれ」
お、早速占いの様子が見られそうだ。私達はそのまま見物客を装って様子を見守った。
「かしこまりました」
アニーサはそう言うと、目の前にあった水晶玉に向かって何やらつぶやき始める。
「ウーラウーラウラウーラ……」
占いの儀式用の呪文か何かだろうか? ずっとウラウラ言っている。
しばらくすると、アニーサの手が止まった。
「ウ、ラナーイ!!!!」
アニーサが唐突に叫ぶ。何かが見えたらしい。宝石を覗き込んだ。
「貴方は、この館を出た後、そこの道の角にある石で足の小指をぶつけるでしょう!」
「なんと、それは痛い。早めに覚悟をしておきます」
「それがいいでしょう」
ーーえ?
それだけ? 占いって結構壮大なこと語ったりしないのですか?
何? 石で小指をぶつけるって? そんなの占うこと?
何かこうスパーンと自分の頭がはたかれたような感覚に陥った。
いや、しかもさっきの呪文って、ウラナイを片言に言ってるだけやーーん。
今のやり取りを見た私は一瞬にして猛烈な胡散臭さを感じてしまった。違和感ではない。胡散臭さだ。
横にいたタロウも同じことを思ったらしく、とても苦々しい顔をしていた。ローリンは既に知っているからだろう。もはや呆れた様子で私達の反応を見ていた。
「驚きはこの後よ」
ローリンが富豪の後を尾行するよう促す。私達は言われるがまま、さっきの富豪の後をつけてみることに。
すると、テントを後にした富豪が目の前で叫び出した。
「痛い!」
慌てて私たちは富豪に駆け寄る。
「どうされたんですか?!」
思わず声をかけると、足の小指をさする富豪の姿が。
「いやはや、占いで足の小指を石にぶつけて怪我をすると聞いてはいたのだが、本当にぶつけたよ……心積もりしていたんだが痛いものは痛いな」
見ると、足元に丁度小指をぶつけれられる程度の石が落ちている。
「あの占いはやはり当たるようですな。君たちもしてもらうといい」
そう言うと富豪は足を引きずりながら帰っていった。
「……どうやら、本当に当たるというのは確かな情報なのですね」
信じられないと思いながら呟く私に、ローリンは呆れつつも同意するように頷いた。
「そうなの。実際に当たってはいるのよね。少し占いの程度が微妙な感じではあるのだけど……」
確かに当たる。それはこの目で今見た。しかし何かが引っかかる。物凄く胡散臭い。
探りを入れた方がいいかもしれないと強く感じた。
「これは探りを入れるべきですね」
「ええ、やっぱりそう思うよね」
ローリンも同じことを考えていたらしい。少しでも情報を集めた方が良いだろう。そこで私は提案する。
「探りを入れるために、占いを実際に経験してみましょう。何か分かるかもしれません」
実際、客目線だと分かることもある。暗示をかけられるとか、変な物を用意されるとか。
「確かに一理あるが……探るって誰が行くんだ……」
タロウが考えつつ、ふと呟いたところで……
私とローリンはタロウをガン見した。それはもう息ピッタリで。
「……俺か?」
あからさまに嫌そうな顔をするタロウ。
ローリンがズイッとタロウの前に出る。
「だって考えてみて? 私は担当者だし顔バレしたくないもの。今回のサーラ様担当のエミリーだって今後のためにも顔バレは防いだ方がいいじゃない。となると、残りは部外者の貴方しかいないもの」
「部外者って……」
「それに、話を聞く限りアニーサはイケメンが好きよ。貴方、多分顔だけは良いと思うからアニーサは喜んで心を開いてくれると思うわ」
私は同意するようにウンウンと大きく頷いた。
「顔だけって余計な……」
「大丈夫、精一杯イケメンを演じてくれたらいいから」
「そんな無理難題を……」
悩みまくったらしい。頭を掻きむしりつつ、呆れたように天を見上げたタロウだったが、肩を落とした。
「分かった、俺が行きます」
ついに折れたようだ。
◇◇◇◇◇◇
ここはアニーサの占いの館。私達は再び館を訪れて中の様子を伺う。
「さあ、次は誰がやるんだい?」
アニーサが見物客に向かって問いかける。
その問いに答えたのは1人の男性。
「……俺だよ」
少しお洒落にしたタロウが前に出た。
直後、タロウを目にしたアニーサの目が光る。
「おや、色男じゃないか。いいね。少しお安くしておくよ」
一瞬で気に入られたらしい。しかしすごいのはこれからだ。
「ありがとう、優しい人。美しいワインレッドの髪と相まって、まるで女神のような方だ」
ーーこの発言をしたのは紛れもなく目の前にいる男性タロウだ。
タロウはキラキラとした笑みを浮かべ、躊躇なく口説きにかかる。イケメンオーラ全開で臨むタロウ。
ーーブッ
あ、思わず吹いてしまった。
横のローリンも笑いをこらえて肩をプルプルとさせている。
あのタロウが、女性を口説いている。しかもキラキラ笑顔で。
一つだけ言っておこう。これはタロウによる演技である。世渡り方法の一環で、時と場合によっては演じ分けることが出来るのである。多分彼なりにこのキャラが今回最適な方法だと思ったんだろう。精一杯イケメンを演じれば良いとのローリンの意見もあった。
彼なりの精一杯のイケメンキャラらしい。
いつもの姿からは考えられないような言動に、私とローリンは違和感しか覚えられず、つい心の中で盛大に笑ってしまった。周りにばれぬよう、顔は真顔をキープしている私は偉いと思う。
ここで再度言う。わざとイケメンを演じている。
タロウ自身も恥ずかしさと戦っているらしい。
私達の様子を感じ取ったであろうタロウは、一瞬だがものすごい剣幕で睨んできた。
背筋が凍るような気がして、一瞬でシャキッと背筋を伸ばし、何事もなかったかのように見物客を装い戻す私達。
アニーサはタロウの演技とは知らず、ご機嫌だ。
「いいね……あんた気に入ったよ。ここは占いの館、悩める者に救いの手を差し伸べる場所。あんたのことを占ってみせよう」
そう言うと、アニーサはタロウに水晶の前に座るよう促した。
さあ、どこまで聞き出せるかタロウの腕試しだ。




