令嬢第四事例 報告6
文化祭当日、ゲーム内イベントが開始されるとのことで私は一般客を装い潜入した。
文化祭ではそれぞれで攻略者達との細かいイベントが逐次開催される。例えばエドウィンとは共に露店の運営をしたり、騎士イアンとは展示を見て回ったり。オールドは前夜祭で会話をするらしい。ちなみに私達が早々に摘んでしまったセドリックの場合は舞台鑑賞だったそうだ。
その他にも、出会う度に小さなイベントが頻発するとのこと。攻略者のポイント稼ぎにはもってこいの期間である。
ただ、私達にとっては地獄である。エドウィンをさらに監視すべき期間とも受け取れるためだ。これ以上ポイントを挙げてはならない。
今回は幸いにも、エドウィンとリゼットの運営しているクラス内でイベントが行われることが多い。ダリアは同じクラスなので、常に会場にいることで二人を監視することが出来るのが強みだ。このことを活かし、監視強化をする他無い。
今回はダリアもいる手前、何か動きがあった場合はすぐに対応できることを願い、私はダリアのクラスにピョッコリと顔をだした。
ーー直後、私と目が合うやいなやダリアは焦った顔で駆け寄ってきた。
「大変なの!私が嫌がらせをするイベントが勝手に始まってしまったの!」
大変……?! 私の願いは早々に届かなかったらしい。
「エドウィンのぬいぐるみイベントが発生しました!」
ダリアが説明するエドウィンイベントの内容は以下の通り。
リゼットの担当するクラス内での露店は『射的』だ。的である”ぬいぐるみ”を撃っていくゲームである。弾はスポンジのような柔らかいもので出来ている偽物で、安全には考慮されているが、日々の狩の腕を試されるゲームらしい。
射的のリーダーになっていたリゼットが、設営の完了報告をするため、完璧な状態を委員長であるエドウィンに見せる手筈のだが、ゲームではここでダリアの嫌がらせが行われる。
自分の設営を見せようとリゼットがエドウィンを連れて戻った時、完璧であるはずの設営が一部崩されていることに気付く。実は、設営が完璧でないように見せるため、ダリアが的になっているぬいぐるみを意図的に外何体か隠してしまったのだ。
未完成の状態に戻ってしまっているのにショックを受けて泣き出すリゼット。不憫に思ったエドウィンは、ダリアの嫌がらせだと言い出しダリアを酷く罵るのだ。
その後、リゼットを落ち着かせるために自ら露店の店番をし、フォローするカッコイイ姿を見せてイベントを盛り上げていく。もちろん王子キャラ全開で。
ーーというように、別の捉え方をするとダリアが完全に悪者になってしまうイベントでもあるのだ。
不安そうに、ダリアはある方向を指差しながら私に訴えた。
「エミリーさんどうしましょう。何もしていないのにぬいぐるみが消えたのです……」
射的の棚にはずらりと並ぶぬいぐるみ。
ーーしかし、右端に目立つ空間ができていた。
おそらくあの場にぬいぐるみが設置されていたのだろう。すっぽりと抜けている。
ダリアの意図しない形でイベントの始まりを告げているように思えてしまう。
「一つ足りませんね。誰かが持って行ってしまったのでしょうか?」
「……おそらく、私を悪役にするために運命のいたずらがまた行われたようです。いくら探しても見つからないのですもの」
嫌がらせイベントを事前に知っていたダリアは、ぬいぐるみを抜かないようにしていたのだが……運命の強制力なのだろうか。勝手にぬいぐるみが抜かれていたらしい。
今回のイベントは、助けられたことにより、リゼットの中でエドウィンの印象が非常に上がる回となるのだが、一方でダリアの印象も大幅に下がることになる。非常に回避したかったイベントであるともダリアは言う。
また運命のいたずらか……、どうにか逆らいたいものである。
私は頭を悩ませた。
解決方法は……リゼットがエドウィンを連れて戻る前に、ぬいぐるみ全てが揃うこと。これ一択だろう。
これはなんとしても、替えのぬいぐるみを探す必要がある。しかし、時間が無い上に、ぬいぐるみなんて気楽に見つけられない。
「替えのぬいぐるみはありますかね?」
「特に用意して無くて……」
「そうですか……」
「その辺に落ちてたりするはずもないものね……」
どうすればぬいぐるみを入手できるのか、真剣に考える。
「いっそぬいぐるみに見えるようなものでもあれば……」
そう、モフモフとした姿でぬいぐるみの代わりになるもの。
「あ……!」
いた。
私の周りにいるモフモフの存在。心苦しいがこれしか方法が思い浮かばない。叱られるのを覚悟で呼び出した。
「リンちゃーん!」
ーー妖精リンデンが召喚される。
「なんじゃこの若輩者が! 急に呼び出して、恥を知れ!!」
ツンデレのツンが働くリンデンが、プリプリと怒りながら登場した。
モフモフでクリっとした目、口の悪さがなければ可愛らしい姿で、リンデンは一見動くぬいぐるみである。
誠に申し訳ないが……私はリンちゃんで埋め合わせにする案を思いついてしまった。
「ぬいぐるみが喋った!」
いきなり現れた口の悪い妖精リンデンに驚くダリア。第一印象でぬいぐるみと言われる程度にはリンデンはぬいぐるみに見えるらしい。
「ぬいぐるみではありません。こちらは私のパートナー妖精、リンデンです。仕事仲間なのです」
紹介され、横でふんぞり返るリンデン。仲間と言われて少し得意げだ。そんなリンデンに私はサクッとお願いする。
「リンちゃん、訳あって埋め合わせが必要なの。ちょっとそこの空いた所に座ってもらえるかな?」
「我に命令とは生意気な! ……ふむ、ここに座っていれば良いのだな!」
おー、ツンデレが働いてるが聞き分けがよろしい。抜けてしまった場所にちょこんと座ってくれたリンデン。サイズもぴったりだ。
「して、このまま座ってどうすればいいのだ?」
「私がオッケーって言うまでぬいぐるみのふりをして動かないでね」
「な! 我をぬいぐるみなんぞの代えにするつもりか!」
「ここだけ足りなくて困ってるの、お願い!」
周りを見渡すと、ぬいぐるみに囲まれている状況。
私の気持ちが届いたのか、ため息混じりにリンデンは答えた。
「なるほど、そういうことならば仕方ない。我はぬいぐるみのように可愛いからな。頼みとあらばぬいぐるみに化けてやろう。我を舐めるでない」
「ありがとう……!」
なんだかんだ、ツンデレが働きながらもちゃんとお願いを聞いてくれるリンデンは大好きだ。
ぬいぐるみさながらの座り方、もはやぬいぐるみになりきるリンデン。可愛い。
ーーしかし、リンデンは知らなかった。自分が射的の的になるなんてことを……




