令嬢第三事例 報告7
状況を察し始めたクリスに相反して、アンジェラは状況が飲み込めない、いや飲み込みたくないと言わんばかりに呟いた。
「仕組まれていたなんて……そんな……」
アンジェラの顔が見る見るうちに真っ青になる。戸惑いが隠せておらず、これ以上言葉が出ないようだ。
「アンジェラ嬢、どういうことなんだ?」
クリスがアンジェラを睨む。
しかし、アンジェラがその後何も言わなくなったものなので、痺れを切らしてクリスはジェシカに説明を求めるように見た。ジェシカが仕方なく、代わりに口を開く。
「クリス殿下は、アンジェラ様に騙されていたのですわ。私がナタリーさんをいじめているように話を捏造したのです。実際は、アンジェラ様自らナタリーさんをいじめ、いじめた本人がさも目撃者を装ってクリス殿下に報告をしてらしたのです。今回はそれを知っていただきたく、ナタリーさんとエミリーさんにご協力いただいたのです」
「本当なのか? アンジェラ嬢、君は私に虚偽の報告を行っていたのか?」
「……」
沈黙を貫いているアンジェラ。
アンジェラが説明をしないので、今度は私が口を挟んだ。
「うえぇぇん……アンジェラ様は毎回いじめを計画し実行までされています。成功後は必ずクリス様にご報告に行かれていました。うううひっくひっく。私はジェシカ様のために、アンジェラ様の取り巻きになりすまして、アンジェラ様の悪事をこうしてクリス様に暴露するべく隠密に行動しておりました。びぇぇえん」
痛がり泣いている演技も忘れずに行ったため、多少聞き取りにくいかもしれないが、仕方ない。
クリスはやや引き気味だが、私の話を聞いてくれた。
内容は一応伝わったらしく、確認を取るようにジェシカを見るクリス。ジェシカはクリスと目が合うと、同意するように頷いた。
アンジェラは目を白黒としており、すでにもう反論をする思考さえ止まっているようだ。
私はさらに追い打ちをかけるように、話した。
「えーーん、アンジェラ様はジェシカ様の立場を羨んで、このようなことを行ったのでございます。うびえぇぇぇぇえええん」
「な、なるほど、そういう訳か」
激しく泣く私に引きながらも、クリスは納得したように頷く。
「そうなんでございますうぇぇぇえええん」
「……君、少しウザくなってきたからだまりたまえ」
「あ、はい」
少し演技をやりすぎたらしい。ついにクリスにウザいと怒られた。真面目な雰囲気をぶち壊してごめんなさい。……少し黙ります。
「ナタリーくん、君は今回の作戦に参加していたのは事実か?」
「はい、わたくしは今回の作戦に加担しております。ジェシカ様とエミリー様のおっしゃることは事実でございます。被害に遭う私にお2人は救いの手を差し伸べて下さいました」
「なるほど、被害者の君が言うなら間違いないだろう」
「恐れ入ります」
二人の取り巻き令嬢も捕まえられ、連れてこられた。二人とも観念したようにクリスの前に跪いた。
遂に、追い詰められたアンジェラ。
「アンジェラ様、わたくしとナタリーさんのへの悪事の数々、認めますよね?」
怒ることが滅多になさそうなジェシカが、顔に怒りを露わにして、アンジェラに告げる。
クリスも冷たい視線をアンジェラに向け、告げた。
「君には呆れたぞ。ジェシカ嬢やナタリーくんへの嫌がらせの数々、見過ごせるものではない。今後2人との一切の関わりを禁ずる。後程事情聴取し、処罰については以後伝える」
アンジェラは観念したように首を垂れた。
◇◇◇◇◇◇
アンジェラが連れていかれた後、クリスはジェシカに向き直ると頭を思いっきり下げた。
「ジェシカ嬢、君のことを疑って本当にすまなかった。私は調査し、事実を確認することを怠った。これは私の失態だ」
クリスはアンジェラの言葉に踊らされていた、自分の愚かさにようやく気づいたらしい。
「事実を知るよう、今後は努めてくださいませ」
「大事な君を悪役にしてしまうところだった。それに無関係の生徒まで巻き込むなんて……以後気をつける」
「そうして下さいませ」
クリスは改めてジェシカの前に向き直ると、跪き見上げる。そして、そっと手を差し伸べた。
「今後は君を傷つけないような男になってみせるよ……ついてきてくれるかい?」
少し躊躇したジェシカだったが、改心したようなクリスの真剣な表情に少し安心をしたらしい。
「……はい、期待しております」
ジェシカは嬉しそうに手を差し出した。
◇◇◇◇◇◇
「エミリーさん、ありがとうございました。お陰で私の疑いが晴れましたわ」
「お力になれて嬉しい限りです」
あの後、私はクリスによる事情聴取に対応し、アンジェラの悪事をすべて公にした。
クリスには、私のことはジェシカからの特別な任務で貴族のフリをした雇われの身であると伝えてある。その為、身分の偽称など複雑なことは特に問われることなく解放された。
「あとは、ジェシカ様が頑張る番です。クリス様のことをサポートしてあげてください」
「ええ、そうしますわ。エミリーさん、本当にお世話になりました」
今回も無事、ノン悪疑惑の令嬢を救うことができた。
魔法が無い世界でどこまでやれるか、正直不安ではあったが、ここまでできたことに自分でも驚きだ。
我ながら頑張ったと思う。
ジェシカに別れを伝えると、私は報告のため本部に帰るのだった。
ーー私へのお客様が来ているとは知らずに。
ジェシカ編終わります!




