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幽霊屋敷記録帳  作者: 藤野
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女子高校生の日記 一

 __五月二日__

 ここが私の新しい家。凄く古いらしい。らしいとは書いたものの、どう考えたって古い見た目だ。この家は空襲の被害を受けなかったとお父さんが言っていた。こんな広ーい洋館を安く借りれるなんて。しかもとっても綺麗。でも、なんでこんなに安いんだろう?

(この前から記述はありますが、家とは関係無いので省きます)


 __五月三日__

 前の家と家具もほとんど変えてないし、学校もギリギリ変わってないからなんか変な気分。なんだか急に、お金持ちになったみたい。いつか正一も呼んでみたいなあ。


 __五月四日__

 今日は優衣を呼んだ。大きな家だねって褒めてくれた。

 私は気づかないけど、カビの臭いがするらしい。優衣は絶対に嘘でそんな事を言う子じゃないのは分かってる。家にいる間中、なぜかずっと怯えているようだった。あれは演技じゃない。


 __五月五日__

 お母さんが、今日はいつにも増して酒を飲んでいた。

 三階建ての広い我が家を散策するのは楽しい。あちこち造形に凝っていて、見ているだけでうっとりする。でもなんとなく感覚的に、一階の横の長さが二階よりも短い気がする。測っていないから分からないけど……。


 __五月六日__

 私の部屋を見ていると、床の隅に、四角く床が途切れたような箇所があった。私の部屋は二階の隅っこだ。もしかしたらここから階段があって、一階に隠し部屋があるのかもしれない。だから廊下が短く感じられたのかもしれない。

 そう思ってわくわくしたけど、押しても引いてもどうにかなる気配は無かった。


 __五月七日__

 今日学校から帰ってくると、カビの臭いがしてきた。優衣の言うことはやっぱり本当だったんだ。

 お母さんにもお父さんにも言っていないけど、今日足を誰かにぴたっと触られた。……気がする。冷たかった。

 あれは、なんだったんだろう。


 __五月八日__

 今日も優衣と遊んだ。優衣は家の敷地に入るなり、またちょっと不安そうな顔をしていたけれど、私の部屋では普通に二人で漫画を読んでいた。一月に出たやつだ。優衣が持ってきてくれた。でも、優衣が帰り際に変なことを聞いてきた。

「和子(日記の記述者の女子高生)のお母さんって、私のお母さんと同い年だったよね?」

「うん。そうだったよ」

「じゃあ、親戚に赤ちゃんとかっている……?」

 私は首を横に振った。優衣は何とも言えない表情をする。突っ込んで聞いてみたかったけど、そのまま何も聞くことなく帰してしまった。

 赤ちゃん……?


 __五月九日__

 昨日の夜のことだ。また床の四角く途切れた箇所を動かそうと悪戦苦闘していると、すぽっと外れた。覗けば子供一人立つのが精一杯に見える横幅の階段が、下に伸びている。そこはねっとりとへばりつくような濃厚な暗闇だった。

 ぽっかりと口を開ける穴が、なんだかとても怖い。いや、怖いと言うよりも、何とも悍しい。下が暗くてとても底が見えないこともある気がするけれど、何か別の理由が……。


 そう思って、私は考えることをやめた。この家のカビの臭い、家賃の安さがここにある気がしたのだ。

 でも、ここを降りなければ、もしかしたら後から理由も分からず怖い思いをするかもしれない。

 元凶がこの下にあるのなら……。

 恐ろしいことに、私は懐中電灯を手にして階段を降りていた。普段は怖がりでなんの行動力もない私が嘘みたいだった。でもそれでいて、頭の中では延々と言い訳を考えている。


 もしかしたら最初の住人が、ここを物置として使っていたのかもしれない。それとも、タコ部屋のようなものだったか……。後者ならば、とても喜べたものではない。

 でもいくらこの辺りでよく行われていたからって、流石にタコ部屋はないか。


 そんなことを考えて緊張しながら、私は懐中電灯で足元を照らし、とにかく慎重に降りていった。普段二階から一階まで降りるのと変わらないくらいの段数で、一番下と思われる床にたどり着いた。若干カビの臭いがするものの、不思議なことに少しも埃が無い。床も綺麗で腐敗した様子も無かった。

 そこで私は一安心して、懐中電灯でその隠し部屋全体を照らしてみた。そんなに大きくはないようだ。床も照らすと、床に何か落ちているのが見える。

 近寄って見てみると、お地蔵様がつけているような赤い前掛けが落ちていた。かなり汚い。

 なぜか、その部屋から戻ったときのことは覚えていない。いつのまにか私は布団で朝を迎えていた。また今日入れるか試そうとしたけれど、びくともしなかった。

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