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幽霊屋敷記録帳  作者: 藤野
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雨宮努への依頼

話の構成や文章についてご助言を頂ければ幸いです。

最後の二話が解決編となっております。

 目の前の男は、名前も名乗らずに厚い封筒と現金を差し出した。


「あのー……、まずお名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 俺が遠慮がちに言うと、男はハッとしたような顔をして頭を下げた。


「申し訳ありません。少々気持ちが先走ってしまいました。私は飯塚と申します。__諸事情で下の名前を言えないのですが、よろしいでしょうか」

「はい。大丈夫です。看板を見たと思いますが、私が雨宮努と申します」


 何を隠そう、ここは探偵事務所なのだ。そう、俺が探偵の雨宮探偵事務所。


「先程の封筒が依頼内容ですか?」

 彼は頷く。

「この封筒には、ある家の記録が入っております。この記録を読んで、雨宮先生に解釈をして欲しいのです」

 飯塚さんは再び俺に封筒と現金を差し出した。

「解釈ですか。その家では、解釈が必要な現象が起きていたんですか? ……あ、あとその、先生と呼ばれるのは……ちょっと」

「では雨宮さん。ええ、確かにその家では解釈が必要な現象が起きていました。ですから、解釈をお願いしたいのです」


 彼は至って真剣な表情で俺を見つめる。俺は少し戸惑っていた。

 このような依頼を受け付けない訳では無い。ただやったことがないのだ。多少のことなら解釈はつけれるだろうが、全くのお手上げになる可能性もある。そもそも依頼内容が曖昧なので、飯塚さんが俺の解釈が不十分、または不満に思うことがあるかもしれない。トラブルにならなければいいんだが。


「この金額では足りませんかね?」


 飯塚さんが手元の現金を引っ込めかけた。

「い、いえっ! むしろ多すぎます」

「ですが__」

 飯塚さんは何かを言いかけて止めた。


「あまりにも未知な事ですので、まず詳しいことをお聞かせ願えませんか? 料金のことは詳細を聞いてから検討させていただきます」

「勿論です」

 すると彼は封筒の中身を取り出した。

「内容は四つに分かれております。まず一つ目が、その家に住んだ女子高校生の日記です。二つ目がその家に纏わる噂、近所の人達の話です。三つ目がその家で過去に起きた事件の記録、そして最後にそこに忍び込んだ空き巣の話です」


 俺は驚いた。同じ家のことを、こんなにも集めたのか。


「全て同じ家に纏わる物ですか……。凄いですね。そんなに沢山、どう集めたんです?」


 彼は少し嬉しそうな顔をして、俺に真剣に向けていた眼差しを初めて逸らした。集めるのに相当苦労したのだろうか。


「そう言っていただけると、とても有り難いです。……あまり詳しくは言えないのですが、しらみつぶしに心当たりのある場所に行き、話を聞きました。

 それを私の言葉で纏め直した物なので、特に最初の日記に関しては全く関係の無い部分を省き、また言及が必要だと思われる部分には私が括弧をつけて説明を入れております。それ以外は原文のままにしております」


 俺は差し出された紙束をパラパラとめくった。


「飯塚さん。料金の事ですが、私の解釈の質を聞いてからの後払いでもよろしいでしょうか」


 彼はぽかんとした顔でこちらを見た。


「このような依頼は初めてなんです。私には飯塚さんが満足できる解釈をする自信がありません。……料金は私の解釈を飯塚さんが聞いてから決めてください」

 飯塚さんは腰を浮かせて俺に詰め寄る。

「で、ですがそれでは__」

「なら初回サービスということにしましょう。いくら安くても構いません。期限はありますか?」


 彼は我に帰ったように腰を下ろした。

「……再来月の終わりまでにお願いします」

「そんなに長くていいんですか?」

 彼は神妙な面持ちをして、重たそうに口を開いた。


「もし、この資料を読んで何か異変を感じたらすぐに読むのを止めてください。これ……私のメールアドレスです。何か異変がありましたら、お手数かとは思いますが連絡をしてください。どうしても話を読み進められないと判断した場合も、私に連絡をしてください。その場合は期限の延長か、起きたことの程度によっては止めてもらうこともあるかもしれません」


 飯塚さんは俺にメールアドレスを差し出した。相当心配している風に見える。この人の性格故か、それ程危険なことなのか……。

「注文が多くて、本当にすみません。これが最後ですので」

 彼は気分を入れ替えるようにふぅっと息を吐いた。

「この家のことは絶対にネットで検索したり、場所が分かったとしても絶対に行かないでください。私の用意した資料のみで解釈してください。勿論他の人に少しでも言うのも駄目ですよ。すみません……。それ程危険なんです」


 その後詳しい話をして、彼は事務所を去った。俺はあの人と話していて、久しぶりに背筋にぞくりとくる物を感じた。ほんの数回だけれど、俺も殺人事件の調査をしたことがある。多少の勘はあるはずだ。その勘が俺に告げている。……これは本物だ、と。

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