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小次郎8

 小次郎はウェイトの操作レバーを倒すと、砂上で瞬間的にボールシップを据え切った。丸い船体が斜めに回転し、開いたハッチが横倒しになる。と、真空中を飛来した数十発の質量弾が、激しい音を立ててハッチに着弾した。堅固なキャノピーが一瞬で砕け散った。衝撃で閉じかかったハッチに横ざまに弾かれ、武蔵の体が砂の上に投げ出される。武蔵は両手をついて起き上がろうとしたが、膝を地面につけたまま、一度大きく咳き込んだ。間髪をおかず、ハッチの下の隙間を通して、赤い照準が武蔵の尻に落ちる。小次郎はシートベルトを外した。同時に、巨大な黒い影がオサフネ号の上を飛び越えた。ヤスツナ号だ。コックピットから身を乗り出した小次郎は、四つん這いになった武蔵の腰に腕を回すと、ぐいと引いて船内に引き入れた。次に飛来した質量弾はヤスツナ号がブロックし、跳弾が雹のように砂の地面に突き刺さった。

 小次郎はどっかとシートに座ると、かき抱いた武蔵もまとめてシートベルトで固定した。武蔵は激しく咳き込んでいる。キャノピーの砕けたハッチを閉じると、船内に大量の砂が入り込んだ。

「神経ブースト!」

「――アイ!」

 ナガミツの声よりも早く、世界が減速し、船の動きが重くなりだす。オサフネ号はウェイトを回し、地面を叩いてジャンプした。が、ピンボール台と違ってエネルギーロスが大きい砂の上では、高性能のボールシップでも高機動は不可能だ。

 質量弾が連続音を立てて船体に命中した。だが所詮は軽火器だ。ボール同士の衝突を想定して作られた外殻はびくともしない。オサフネ号は地面の上を跳ねながら、蛙や蚤のようにアステロイドの上を走り出した。

「ナガミツ、ヤスツナ号とコンタクト。アステロイドの岩場のマップを送信してやれ」

「――アイ」

「とりあえず岩場を使って加速するんだ。砂地に落ちると運動エネルギーを失っちまう。加速しながら逃げ回るよう、ヤスツナ号にも言ってくれ」

「――アイ、諒解」

「武蔵、大丈夫か? ナガミツ、音声ピッチを調節してくれ。22分の1だ」

「――アイ、この際ですから、存分にこき使って下さいよ」

「おう。武蔵? おい?」

 ぜいぜい言う息の下で、武蔵がうめく。

「――ああっ、おえ、苦しっ、」

「おい? 聞こえるか? ヤスツナ号はどのくらい燃料を積んでるんだ?」

「おえっ」

「おえっじゃねえよ。燃料はあるのか? それ次第で、作戦が変わってくる」

 武蔵は懸命に息を整えると、唾を切るような声で質問に答えた。

「ブースト二回分だけよ。往路の予備分しかないわ」

 小次郎はちぇっと舌を鳴らした。

「少なすぎる。加減速したら終わりじゃねえか。なんでそんだけしか積んでないんだ」

「ヤスツナは軽さが武器なのよ。いっつもギリギリしか積まないの。燃料で身動きが取れなくなったら馬鹿らしいじゃない」

 小次郎は呆れたように溜息をつく。

「アホが。こういう商売はな、いつでも尻をからげて逃げられるようにしとく、それがポイントだ。一旦状況がヤバくなったら、給油してる暇はないんだ。今度から試合前に必ず入れるようにしとけ。ナガミツ、ナガミツ?」

「――アイアイ」

「舟島離脱パターンの中から、今の時刻に最適なものを検討してくれ。このガキの受け渡し位置もだ。決まったら、それをヤスツナ号に連絡してやれ」

「――アイ」

 武蔵がごほごほと数回咳き込んだ。

「大丈夫か?」

「脇腹が痛いわ。いきなり何かにぶつかって――」

「ハッチにしこたまぶん殴られたんだ。肋骨をやってるかもな。まともな星に帰ったら、医療ポッドでよく調べとけ」

 そのとき、武蔵はようやく小次郎に抱きかかえられていることに気がついた。

「ちょっと! 離して――、痛、痛っ」

「我慢しろよ。俺だって、人生最後の日に抱くならもっといい女の方がよかった」

「失礼、ね」いいながら、武蔵はまた咳き込んだ。そのたびに脇が痛むのか、すぼめた肩が小さく震える。

「武蔵よ。ひとつ、聞いていいか」

「……何よ」怒った目つきで小次郎を見上げる。

「お前、親父さんから免許皆伝貰ってねえだろ」

「……」

「お前には確かに才能がある。それもとんでもなくいい才能がな。だが実戦の礼法も常識もわきまえちゃいねえ。完全な道場ピンボールだ。先代はお前が跡継ぎになることを望まなかった。違うか」

「よく、わかるわね」

「親父さんは元気なのかい」

 武蔵は答えに詰まった風だった。小次郎から目をそらし、コックピットのパネルの一隅をぼんやりと見つめた。

「……死んだわ」

「そうか。すまんことを聞いた。さぞや立派な武芸者だったんだろうな」

「うん、凄い人だった」小さく溜息をついた。

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