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小次郎7

 だがそれも一瞬だけだ。小次郎は短く嘆息すると、構えた銃口を下に降ろした。

「今のでお前は死んだ。普通ならな。まったく、つまらねえことをしてくれたぜ。勘違いすんなよ。俺はこう見えても武芸者だ。今さらこんなオモチャを使って、勝敗を覆そうとは思わねえ。だがこのままじゃ同じことだ。お前はシンジケートに殺されて、自動的に俺の勝ちになっちまう。そうなりゃ俺も生き恥を晒すことになる。ところが、お前は俺にとどめを刺す気はないらしい。そもそも武器を持ってねえときたもんだ。どうしろってんだ」

 武蔵は黙りこくっている。

「面白くねえ話だが、ほかに手がねえ。これを使えよ」小次郎は自身の質量銃を、武蔵に向かって放り投げた。娘は慌ててそれを掴む。

「さあ、ひと思いにやってくれ。ナガミツ、世話になったな。AIにもあの世があるなら、向こうで会おうぜ」

「――残念です、小次郎」合成音声も嘆息する。

 だが武蔵は両手で銃を抱えたまま、いっかな狙いをつけようとしない。やがてぽつりと呟いた。

「……あたし、殺しをするためにここに来たんじゃないわ」

 小次郎がまた目を怒らせた。

「まだ言うのか。さっさとやれ。死にてえのか」

「でも――」

「つべこべ言うな。俺を武芸者として死なせるのが嫌なのかよ」

「違う。あなたは立派な武芸者よ。ただ――ただ、」

「ただ、何だ」

「あたしにはできないわ。殺せない。だって、ここであなたを撃ったって、真剣勝負で倒したことにはならないもの。勝負の最中に落命するなら、あたしだって納得するわ。でも、こんなの辻褄合わせよ。あなたは勝負に負けたから死ぬんじゃなくて、単に撃たれて死ぬだけよ。殺しのための殺し。そんなの意味ない」

「じゃあ、なんでデスマッチをやろうなんて気になったんだ」

「言ったでしょ。初めから殺す気なんてなかったの。負けるつもりもなかったけど」

「――最初から勝ったときのことしか考えてないとか、若いですねえ」ナガミツが呟く。

「だから、こんなことになるなんて思わなかったのよ。ごめんなさい、認識が甘かった」

「じゃあ、どうすればいいってんだ?」

「わからない、わ」武蔵の声が鼻にかかりだす。

 と、緊張したナガミツの声がそれにかぶさった。

「――ビークル二台、接近します。運営のものです」

「来たな」

 シンジケートのビークルは砂煙をたてて走っているはずだったが、星明かりだけの夜半球では、肉眼で見ることは難しかった。ヤスツナ号が警告したのか、武蔵もはっとした様子であたりを見まわす。

 トークチャネルのアラームが鳴って、陽気な男の声が割り込んだ。

「小次郎? 無事か? 生きてたら返事をくれ」

「アンドレーエフか。生きてるぜ。だが、残念ながら俺の負けだ」

「知ってるよ。俺たちを舐めちゃいかん。ま、審議ってことにしてあるけどな」

 ロシア星人の声が途切れ、今度は武蔵がヘルメットに手を当てて唇を動かし始めた。運営と通信を始めたらしい。武蔵はちらりと小次郎を見たが、すぐに目を上げ、黒々とした星空の下端を見まわした。

「――ヤスツナ号、動き出しました。抜き足差し足でこちらへ向かっています」ナガミツがいう。

 アンドレーエフの声が、再度トークチャネルに響きわたる。

「よかったな、小次郎。お前の勝ちにしてやるよ。挑戦者は勝利を放棄したいそうだ」

「馬鹿にすんな。じゃあこの娘はどうなるんだよ。客の前に引っ立てていって、そこで華々しくぶっ殺すのか? 俺のプライドはどうなる?」

 ロシア星人が笑い出した。

「敗者の命乞いも見せ物のうちだ。プレーヤーのおまえが口を出すことじゃない。だが安心しろ、小娘の屠殺ショーは中止だよ。この上なく面白い舞台になるはずだったが、仕方ない。チャネルを開放したままこの娘に喋らせたら、何をいいだすかわからないからな。万一勝ちを譲ったと観客にばれたりしたら、賭けが成立しなくなる。要するにだ、挑戦者には今ここで死んでもらうしかない。そら、」

 言い終わらぬうちに、どこからか照射された赤い照準レーザーが、武蔵の腰のあたりに落ちるのが小次郎の目に映った。照準はするすると宇宙服の上を滑ると、みぞおちの辺りでぴたりと停止する。武蔵はその照準には気づいていない。

 小次郎の首筋が粟だった。

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