小次郎3
「武蔵、聞こえるか。お前、ここの台を見るのは初めてなのか」
チャネル越しに小次郎が尋ねる。
「ええ。何度も来るとこじゃないでしょう、こんなとこ」
武蔵の返事はおどけている。小次郎はもう怒る素振りも見せなかった。
「まあな。こんなところに何度も来るのはロクでなしだ。だが台を知らにゃあお前に不利だろ。三分眺めろ。ハンデをやるよ。ブレジンスキー、それでいいかね」
「いいですよ。オッズ変更はなしですが、あなたのファンは気にしないでしょう」司会者がチャネル越しに同意する。
「要らないわよ、そんな――」武蔵が不満げな声を上げると、小次郎はインカムのミュートボタンを押した。「勝負を嘗めすぎだ、ガキが」悪態をついて、またスイッチを入れる。ブレジンスキーの冷たい声が、小次郎のかわりに返事をした。
「武蔵選手、よろしいんですか? よろしいなら時間は取りませんよ。じゃあ三十秒後に開始します。両者準備いかがですか」
「いつでも来いよ」の声に、「大丈夫よ」が混じり合う。
「それでは、カウントダウン開始します」
地上の一点から光の束が打ち上げられ、真上に浮かぶ別の小惑星の表面に、緑色の小洒落た文字を照射する。十、九、八……
会場のBGMチャネルを通して、舞台を盛り上げるドラムの音が始まった。小次郎は慣れた手つきでそれを切る。
七、六、五……
深呼吸をする。
四、三、二、一、ゼロ!
激しい振動とともに、二台のボールシップがピンボール台の中に打ち出された。
「ナガミツ、神経ブースト!」
「――アイ。既に開始しています。ブースト順調」
小次郎の神経回路をナガミツが補完して、反射神経を強化する。コックピットのスクリーン上に697%、854%、1018%……と順に数字が表示される。数が大きくなるごとに、小次郎にはシップのスピードが減速するように感じられた。オサフネ号はシューターの溝の中を滑るように上昇していく。小次郎が横を見ると、武蔵のヤスツナ号はすでに玉三個分くらいオサフネ号の前に出ていた。
「ナガミツ、初速で負けてるぞ」
「――向こうは軽いですもん。あ、ここで神経ブースト打ち止めです。2377%、今日は調子いいですね。張り切っていきましょうか」
「あっちの加速状態が分かるか」
「――推定で2100%前後です。ここ数番の相手ではかなり速いほうですね。なかなかやるというか何というか」
「フン、一芸に秀でた奴はいるもんさ」
まずはヤスツナ号、一瞬置いてオサフネ号の順で、二隻のボールシップがプレイフィールドに飛び込んだ。