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武蔵2

  * サムデイ *


 春の日にぬくまった石畳の道を、菫色のスカートの娘が歩いている。武蔵だ。かけた眼鏡は伊達だろうか、いかにも使い慣れぬといった様子で、数秒おきにテンプルを押し上げている。豊かな髪を頭上に結わえ、いかにもちょっとできる女、を装った小娘といったいでたちだ。小脇に紙袋を抱え、軽い足取りで街並みを抜けて、巨大な門扉のあるなにかの建物の前に立った。そこで一瞬足を止めたが、両足が揃ったと思うまもなく、すいとふたたび歩き出して脇の通用門を抜けようとする。

「もし、レディ、」

 門扉の影の詰め所から、警備ロボットが顔を出した。大小のドラム缶を繋ぎ合わせたようなドンガラで、お世辞にもショールームでライトアップされるようなモデルとは言えない。武蔵ははたと立ち止まる。

「こちらにお名前を。本日はどんな御用ですか?」

 武蔵は落ちついた様子でロボットの傍まで行くと、詰め所の窓の前に置いてある来訪者一覧に署名した。

「ご面会ですか。えーと、これは何と読みますか……」

「ぶしゅうよ。武州。変わった名前って言われるわ」

「いえいえそんな。ブシュー! 格好いい。データベースに追加します。面会希望は、ほう、あの悪党――。失礼ですが、どういったご関係の方ですか?」

「犯罪心理学の演習なんです。アポはもうとってあります。そんなに悪い人なんですか? その佐々木さんって」

「アポ、……あああった、失礼、引き継ぎメモリーにありました。ええ、悪党も悪党、大悪党です。生命を賭けた違法ギャンブルで大儲けしていた男でして、下品きわまりない無頼漢、聞くところによると、小惑星帯でやりたい放題だったとか」

「――そうなんですか。やだなあ。たかが2単位のために、なんであたしがこんなこと」

「ご安心ください、警備は万全です。あなたに無法は働けません。ここはこの宙域一の民営刑務所です。面会者と囚人のトラブルなんて、もう何十年も起こっていないんですから」合金の胸を反り返らせたロボットからは、自信と得意があふれ出さんばかりだ。

 武蔵が案内された面会室は、ひたすら殺風景だった。窓のない大部屋を透明なパネルで二つに区切り、会話用の穴を開けただけの簡単な設備だ。パネルの両側にはパイプ椅子が置かれ、向こう側の椅子には、髭の伸びた大男が不機嫌そうに座っている。囚人と面会者の後ろには、それぞれ見張りの衛士ロボットが一台ずつ設置されていた。

 武蔵はパイプ椅子に腰を下ろし、全くの無表情で小次郎と正対した。相手もむすりとしたままだ。

「……初めまして、武州と申します。インタビューの件、ご快諾いただきましてありがとうございます」抑揚のない声で挨拶しながら、武蔵は紙袋の中から小さなペンとノートを取り出した。

「フン、まだまだだな」小次郎が呟く。

「何がです? なにか、お気に障ることでも」

「いいや、続けてくれ」

「ではよろしいでしょうか。えっと、じゃああなたがアステロイド巌流で起こした事件について――」

「アステロイド巌流? どこだいそりゃ」

「昔のアステロイド船島です。伝説のチャンピオン、巌流の佐々木小次郎を記念して、あの星のギャンブル場が潰れたあとに、名称が変わったんです。もっとも、宇宙地理院がつける正式名称ではありませんが」

「そいつは知らなかった。名誉なこったな。だがそんな俺様も、今じゃこうして檻の中だ。払う年貢は千年分ときた。もったいねえ話だよ、実際」

「それは――そうですね」武蔵は半分うわの空だ。

 そのとき、建物の壁がびりびりと震えだした。小さな地震のような、それでいて抑揚に乏しい、平板な揺れだ。どこかで工事でも始まったのだろうか。衛士ロボットがきょろきょろとあたりを見まわした。だが二人は動じない。


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