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サヨナラの挨拶  作者: 秋元常夏
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サヨナラの挨拶

今日も美しいな…

出水は、隣を歩く女性、雪乃の横顔を見つめていた。切れの長い目、すっと通った鼻筋、肉感的な赤い唇。横から見ても、その美しさはよく分かる。二人は、月明かりに照らされた夜道を並んで歩いていた。

「出水くんってさ、好きな子とかいないの?」

「え?」

急に訊かれ、出水は気の抜けた声をあげた。

まさか、雪乃からそんなことを訊かれるとは…少し冷静になりながら、出水は考える。

「いるよ。」

少し間をおいて、出水は答えた。

「え?だれ?!」

「言うわけないじゃん!」

つい反射的に答えてしまった。せっかくのチャンスだったというのに…

「そりゃそうだよね〜」

雪乃は納得したように言った。もう少し食い下がってくれてもよかったのにな…そんなことを考えながら、雪乃がはじめた世間話に曖昧に相槌をうつ。

ふと、出水は空を見上げた。今夜は雲ひとつ無い晴天だった。出水は昔文豪がつかったフレーズを思い出した。

「月が綺麗ですね。」

声にもならない声で言った。

「え?」

雪乃が聞き返してくる。

「月が、綺麗ですね。」

今度は、はっきりと言った。雪乃が空を見上げる。

「ええ…そうですね。」

雪乃はあっさりと答えた。まさか…知らないのか。出水の胸に不安が走る。

「あの…いまのは…」

確かめたくてしかたがなかった。

「ん?」

雪乃が不思議そうな顔をする。ほんとに、知らなかったんだな…出水は肩を落とした。

「あの、『月が綺麗』っていうのは…」

そこまで言って舌が止まった。なかなか先が言い出せない。

「やっぱりいいです……あの、明日、明日デートしてください!!」

出水は頭を下げて右手を出した。

返事は無かった。ダメか…出水が諦めて手を引こうとした瞬間、右手に柔らかい感触がした。出水は驚いて顔を上げると、雪乃が手を握り返していた。

「ええ。よろこんで。」

出水はその笑顔に頬を赤らめた。


「じゃ、また明日。」

雪乃の声がした。いつの間にか、出水の家の前まで来ていたのだ。雪乃にOKの返事をもらってから、出水はずっと上の空で歩いていた。

「あ、うん。それじゃ。」

出水は返事をする。

「またね。」

雪乃はそう言うと去っていった。



もう夜か…出水は昨夜のことを思い出す。結局、「月が綺麗」は分かってもらえなかったが、デートは楽しかった。まあいいか…雪乃とデートできたしな…

「出水くん!」

名前を呼ばれ、はっと我に返る。

そこには、悲しげの表情をした雪乃が立っていた。帰りたくなくなったのか…今日はすごく楽しそうだったもんな…出水はそう思った。

雪乃は決心したのか、出水を見上げて口を開いた。

「私ね、昨日のこと家で調べたの。『月が綺麗』ってやつ。あれ、ああいう意味だったんだ…だけどごめんね。私たちの関係でそれが無理なの、出水くんも分かってるでしょ?」

…やはりそうか…そりゃそうだよな…昨日の笑顔も、そういう意味じゃなかったんだよな…わかっていたはずなのに…出水は泣きそうになるのをぐっとこらえた。ここで涙を見せるわけにはいかない。

出水は何も言うことができなかった。

「それじゃ。」

雪乃はもう、『またね』とは言わなかった。


出水は去っていく雪乃の後ろ姿を目で追いながら、1枚の名刺をとりだした。雪乃とはじめて会ったとき、もらった名刺を。そこには、こうかかれていた。

−レンタル彼女・柊雪乃−


〜fin〜

私の処女作でした。

今となっては黒歴史です。

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