STEP0-4 『シミュレーション結果:蒼馬梓が日記をつけていたなら(3)』より抜粋-2
俺は何をやっているんだ……
ガチにナナ狙いできたお嬢を見た瞬間、モーションをかけていた。
ナナを幸せにしてやりたいんじゃなかったのか、俺は。
うさぎちゃんにはそのまま演技を続けろ、そして調査終了直前に振られろと命令された。
報酬はなんだと聞いたら君の命だと返された。シスコンこええ。
みーにゃんは癒し。
七瀬の塔の探索はちょろかった。
それよりあのオリエンタルイケメン野郎だ。ナナへの態度が怪しい。
亜貴と連携して、万一がないようにしなければならない。
つか、エリカちんもなんだか怪しい気がするんだな……つかこいつエリカ・エトワールに激似。目赤くしたら完全に本人だろこれ。
ホークちんのプチマフィンがゲキウマだった。ダークホースすぎ。
うさぎちゃんに壁ドンされた。
お嬢の水着姿を見た、さらにはお姫様だっこしたって……
俺はまじめに人命救助しただけなのに!!
おにーちゃんによると、気に入られてるからだそうだ。嫌っ!
ナナと此花たちは相変わらず仲がいい。
ナナは、俺もその一員だといってくれる。
でもそれが事実ではなく、願いであることは俺にだってわかっている。
今日もまた痛感した。おふくろさんは苦しんでいる。
なんとか、俺をナナの友として、受け入れようとして。
旦那に傷を負わせ、息子たちを病院送りにし、家を荒らしたクソヤロウを。
あのひとは、そんな気持ちをすてきれずとも、歩み寄ろうとしてくれている。
やはり、俺はナナから離れよう。
この調査が終わったら、離れる方策を考えよう。
これではおふくろさんが不憫すぎる。そしてナナも。
大事なやつや、そいつの大切な人にあんな笑い方させてまで、でかいツラなんかできない。
ナナがしあわせで、何の心配もなく笑っていられるなら、それさえわかるなら俺はいい。
明日はナナと思い切り遊ぼう。
これからの、一生の思い出にできるように。
ナナがどんぶりプリンつくってくれた! 俺のためにって!!
そうして言ってくれた。俺のためにビーチパーティー企画してるって。無理になってもフォローしてくれるって。
ダークヒーローじゃない、ほんとのヒーローにしてやるから、ずっと一緒にがんばろうって。
嬉しかった。
そうできたら、どんなにいいか。
家族に無理ない範囲でと答えた。つまり、時限式の断り文句だ。
だまくらかしてすまない、ナナ。
でもここで泣かれるのは耐え難かったし、せめていまはまだ、ナナの笑顔を見ていたかった。
この笑顔が嬉しい。それは、本気で本当なのだ。
これはどういうきもちなのだろう。俺にはわからない。
でも、明日なんかこなきゃいい。
エリカ・エトワールとオリエンタル野郎どもにクーデターをくらいかけた。
ナナは全てを知ったうえで、全てを許してやった。
ほんとにもう、あいかわらず聖人すぎだろ。
だから、ほっとけなかったんだが。
どうしよう。これじゃ、離れられなくなっちまう。
打ち上げで酔っ払ったユーのやつめがナナを抱えて「明日から会えなくなるなんてさびしいですー!! もうホンキでうちの子になってくれませんかー?!」とのたまっていた。
完全に通報案件だ。とりあえず軽く後頭部どついておいた。
ともあれやつらは『真面目に、竜樹に移ってはいかがか』と言ってくる。
“俺にとっては”願ってもない話だ。俺は首輪ナシで大手を振って外を歩ける。そうすればナナの悲しそうな顔も減る。
でもナナは、家族とほとんど会えなくなる。YESは言えなかった。
だが、ジゥはアドレスをよこしてきた。
お詫びのしるしです、困ったときには連絡してください、なんでもひとつ願いをかなえて差し上げますと。
いや、まずそのなぞの青だぬきの着ぐるみの理由を教えろ。よっぽどそういいたかったが、んなことを言えばそれが願いと取られるのだろう。
へたにこいつを使えば付け込まれる気しかしないが、まあそこはやりようだろう。
俺とナナはけんかした。
ナナは、七瀬と此花の顔合わせの席に俺も連れて行くといったのだ。
馬鹿言うな、めちゃくちゃになるぞ。だいじょうぶ、めでたい席だもの。
そんな押し問答の末におふくろさんに電話して、俺の予測どおりの答えを聞いて、案の定しょんぼりしていた。
此花心配するぞ。まずは祝ってやれよ。俺は外で待ってるからと説得したら、笑顔を作って出て行った。
でも、宴会が始まってすぐ飛び出してきた。
俺の胸に飛び込んで、声を殺して泣いていた。ひたすらに自分を責めて、泣いていた。
もう、だめだ。もう、耐えられない。
こんなにも優しいやつの、こんな顔をもう見たくない。
いますぐ殺したい。愚かな俺の過去を。悪魔の取引だろうがなんだろうが利用して。
例のアドレスに連絡すると、奴はすぐに現れた。
そして思い起こさせてくれた。神の御座『高天原』の存在を。その持つ可能性を。
『高天原』は上空数千メートルにあるが、そこまでの足もやつらは都合してくれた。
というか、俺と亜貴と一緒に来てくれた。
もちろん都合も好奇心もあるのはわかっている。
かまわない。俺はなんとしても、ナナをしあわせにする。
そのために、愚かだった過去を殺すのだ。
ナナを救ってやれるなら、何だって改変してやる。世界だろうが、俺の存在だろうが。