STEP0-3B 突入・高天原~梓の場合~
アユーラ製小型飛行機のガラス越し、月色の牙城が浮かんでいるのが見えた。
かつて自分が作らせたものとはいえ、改めてこう見ると、威圧感がパねえ。
まあ、そうでないとヤバいのだから、いいとしよう。
そんなことを考えていると助手席からユーが振り返り、ニコニコしながら言った。
「さて、設計図によれば『御座の間』は、正面入り口からまっすぐ50mの地点ですね。
じゃ、いったん力を解除してください皆さん。行きますよ」
「いや、マジだいじょぶなのかそれで。」
「理論上はいけるはずです♪」
「かんっぜんにフラグじゃねーかそれ……」
「わざわざ毒の沼地を徒歩で突っ切るなんてあほらしいでしょ?
お宝のところまで来てから『浮上』すればいいんですよ」
「そりゃーそーだけどよー……」
だが、その表現に『ツイブレ』マニアのおにーちゃんが食いついた。
「うんうん、まったくその通りだよ!
さ、梓。いい子で解除しよう、ね?」
解説すると『ツイブレ』――『ツインブレイブ』にはこんなエピソードがある。
勇者一行が重要アイテム『女神のたてごと』を手に入れようとするのだが、先回りした毒使いの四天王の手によって、『たてごとのほこら』のまわりは広大な毒の沼地とされていたのだ。
さらにはその上空を、巨大な飛竜が巡回しているという無理ゲー状態。
勇者たちは幼馴染の発明家が作り上げた潜水艇にのりこみ、飛竜の目を盗んで沼地にもぐる。
そのまま水中をつっきって、無事にたてごとのほこらにたどりついた。
だが。
「んでもって、帰り道には飛竜に見つかって襲われるっつーパターンじゃねーのかえっ、おにーちゃんたちよ?」
するとユーはあっけらかんと笑った。
「はっはっは、これは一本取られましたね。
確かに我らは『竜』樹ですが、そんなことはしませんよ。
……これは、君たちへのお詫びなんです。
奈々緒くんには我々も、しあわせになってもらいたいですからね」
運転席で、今日は着ぐるみを着てないジゥが、前を向いたままぽりぽりとほっぺたをかいているのが見えた。
あの調査の間に知ったのだが、これは奴が照れくさいときにやるクセだ。
まあ、信用していいだろう。何だかんだ言って、こいつらも奈々緒のことは大好きなのだ。
「『高天原』についてのデータも取れますしね♪」
「結局そこかいっ!」
突っ込みつつも、これはわかっていたこと。前提を覆すに足ることでもない。
「っじゃーとっとと行くぞ、ホレ」
軽く言いつつ能力の準備を解除すれば、すっと目の前の景色が消え去った。
残ったのは空の向こう、こうこうと輝く満月だけ。
いや……なんつーか、わかっていてもシュールなものだ。
「はーい、それじゃいいって言ったらまた準備お願いしまーす」
一方ユーは平然。ちびっ子を引率する先生のようにのたまわる。
脱力しつつも、俺は深呼吸を繰り返し、自分のテンションを調整した。
心の中で繰り返す。
俺はなんとしても、ナナをしあわせにする。
そのために、愚かだった過去を殺す。
ナナを救ってやれるなら、何だって改変してやる。世界だろうが、俺の存在だろうが。