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咲也・此花STEPS!! 4~もと・訳ありフリーターの俺が花いっぱいの国でにゃんこな王様になるまで~  作者: 日向 るきあ
STEP7.俺たちの結論

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STEP7-3 ちゃぶ台返しどころか床下からひっくり返し、さらに地球ごと叩き割るかのごとき解決法(こたえ)~咲也の場合~

「いま、よ――く確認したわよね。

 みんなのがんばり。みんなの想い。

 あんたたち、これっだけみんなに踏ん張らせといて、何もかもあきらめるつもりなの?」

「そ、れは……」


 スノーは怒っていた。

 ほんとのホンキで、怒っていた。


 その気持ちは、よくわかる。

 あんなかっこいいこと言っちまった俺だって、心のそこから納得してるといえば嘘になる。

 けれど。


「ほんというなら、悔しいさ。

 なんとかできるなら、したい気持ちはあるよ」

「だが、どうすればいいんだ。

 不死の重みに、サクレアの心が耐え切れないのははっきりしている。サクレアは、不死を喪い、死なねばならない。そして、そのためには……」


 それは、隣に立つサクも同じ。

 沈痛な顔で、そう繰り返す。

 だがスノーは、はあっとため息をついた。


「もう、あんたたちは……

 しょうがないから、大ヒントあげる。

 その一。サクレアが死んだホントの原因は、神の力を使い果たしたからじゃない。

 サクレアが、『自分は弱って、もう駄目なんだ』って思い込んだからよ!」

「……え?」


 俺はぽかんとした。まさか、ここにきて驚きのスポ根展開でしょうか。

 人差し指を立てたスノーは、いったんスルーを決め込むことにしたらしい。さくさくと話し出す。


「証拠はあるわ。

 最初の転生を果たしてサクレアを助け出した後、サクスとルナおねえちゃんがあの村で『天寿を全う』したことよ。

 もうわかってるとおり、ふたりも神。本来ならば老いることなく、ずっとずっと生きるはずだったわ。

 けれどアズールたちに一度殺されて、自分たちは弱い、ただの人間だ。そうである以上いずれ老いや病で死んでいくんだ、と思い込んだからそうなったの。

 いうなれば、自分で自分を殺してしまったのね」

「えーと、それってただ単に、転生したから人間になったってだけじゃ……?」

「もしそうなるとしたら、あたしもサキもとっくにただの人間でしょ。

 転生したって、神は神。もってうまれたチカラは、そうそう変動はしないもんなの。

 そこんとこは『そういうもん』だから、そういうもんと思っといて」

「ほえー……」


 そういうもんなのか。俺たちがため息を漏らしていると、スノーは人差し指に続いてそのとなり、中指を立てて話を続ける。


「で、ヒントその二。

 サクスはサクレアを『神の子』として生み出すことができた。

 神がデフォルトで持つ、ほぼ無限の寿命、不老不死、高ポテンシャルの異能。さらには記憶を代償に蘇生する能力、自分好み全部のせの特徴まで無意識のままに『与えて』。

 つまり、神は自分のつくったものに、自分の力の範囲で望む性質を付与することができるの。

 ……いいかげんもう、わかったわね?」


 俺たちはおもわず顔を見合わせた。


「いや、ちょっとまて……」

「いやまじ、それでいいの……」


 たどり着いたのはひとつの、ちゃぶ台返しどころか床下からひっくり返し、さらに地球ごと叩き割るかのごときこたえ。


「俺がサクレアを、定命のものとして作り出すか……」

「俺が不老不死じゃないって、固く信じればぜんぶいけちゃうってこと?!」

「はいご名答。

 そうすれば、サキは幸せなまんま、無事に『天寿を全う』できる。

 そしたらこれまでのシミュレーション結果、全部適用しても何一つ問題ない。

 奈々緒兄さまもおと……っおやじも、あんたたちも全員無事にハッピーエンドにたどり着けるようになるわ!」

「なんでいきなり降格っ?!」

「こっちむいてニヤニヤしてるからよっ! もうっ恥ずかしい!」

「ひどっ!!」


『おとうさん』認定がきっかけで親ばか発症していたアズールが、さっそくの降格処分を食らって半泣きになっていた。

 だが、悪いが俺たちは、いまそれどころじゃなかった。


「わたしとお兄さまもそのようにすれば、サクレアさまと自然におなじ道を歩むことができるのですわね……?」

「しかしそうなると俺たちは、こんどは自然の成り行きで、サクレアを置き去りにしてしまうかもしれない……」

「いや、そのくらいは俺、がまん……がま、ん、……」


 あの頃、そしてシミュレーションの中で、みんなを失ったときを思い出すと、あのつらさがこみ上げた。

 けれど、それ以上のわがままはいえないだろう。だって、みんな通る道だ。

 おもわず半泣きになるけど、必死に我慢する。

 だが、自称よくばりのルナさんは、最高の答えを見つけてくれた。


「でしたら、こうすればいいわ。

 サクレアさまとサクスお兄さま。サキさんとお兄さま。

 ふたりのいのちを、ひとつにつなげばいい。

 お兄さまの力を持ってすれば、たやすいことですわ」

「ルナ、おまえは?」

「わたしは大丈夫。

 もしもわたしが、母になったなら……

 万一いとしい方に先立たれたとしても、ふたりの子を守らなくっちゃいけないもの。

 もっともこれは、お母さまの受け売りですけど!」


 いたずらっぽく笑うルナさんだが、俺の涙腺は爆発してしまった。

 みっともないとは思いつつ、どうやっても涙が止まらない。

 袖を目元に押し当て、必死にこれだけ言った。


「あり、が、と……でも俺ぜったいっ、先だたないからねっ!

 ぜったいぜったいっ、最強無敵になってっ、ルナさんを、まもるからっ……!!」


 すると背中にばしっと、結構痛い感触。振り返らないでもわかる、スノーだ。

 ちなみにルナさんのほうは叩き方が優しかったようだ。ちょっとずるい。


「じゃっ、それまではあたしが二人を守ってあげるわ!

 頼ってちょうだい、こうみえて神サマ歴はいちばんながいんだから!」

「おい、俺の立場は。」

「あんたもおとなしく守られときなさい、サク。

 あんたはサキと命一つにするんでしょ。サキはあたしの半身よ。あんたが無茶して、サキになんかあったら、あたしだって地味にただじゃすまないんだから!」

「あら、でもそれって、スノーさんになにかあったら、サキさんも、お兄さまも大変なことになるってことよね?」

「あ、えーと、それは……」

「ふふっ。

 でしたら、みんなで守りあえばいいですわ!

 この四人だけじゃない、みんな、みんなで。

 いいかしら、みなさん?」


 さすがなルナさんのことばに、次々賛成の声が上がる。

 やさしく、力強い、友と恋人たちの声。

 そのさなかで俺はますます、涙がこみ上げてしまうのだった。


 ふとふりかえれば、アレクとるーちゃん、こうさぎちゃんと奈々希、サクそっくりの天使……俺たちを導いてくれたナビたちが、光の中微笑んでこちらを見ていた。



 * * * * *


 その日、世界中で『大中小の三連流れ星が目撃された』とニュースになっていた。

 吉祥の証として、多くの人たちに喜ばれたそれの正体はというと、実は俺たちのエアビークルだったようだ。

 しかし俺たちは、特にそれに対してつっこんだ発信を行うことはなかった。

 逆に、なにをどう発信すればいいのだろう。

 そのときすでに、歴史は変わってしまっていた。

 つまり、かわってしまった後の“いま”からみれば、何もおきていないのと同じなのだから。


 ――それでも、俺たちは“知って”いる。

 俺たちは悲しい歴史を潜り抜け、争い、そして手を取り合い、いまの幸せを編み上げたことを。

 俺はもう、非業の前世を持つ神の子ではない。

 サクも、それを隠すために必死になっていた“裏切り者”の騎士じゃない。

 アズールも、俺をひどい目に合わせてなんかいないし、そうである以上、ナナっちもその業を背負わなくてよくなった。


 ただ、ほんの少しの違和感を訴える人は、まだちらほらといる。

 それに、イメイ宮遺跡の探索は、やっぱりしておきたいものだ。

 それよりもなによりも……


 暖かな気候に、美しい大きな海。

 そして、ユーリさんとホークさんをはじめとした、おおらかな人たちとの日々は、“人知れず”苦難のみちを歩んできた二人を、きっと癒してくれるはずだ。


 そんなわけでナナっちとアズールは、またしばらくセンティオにお世話になることになった。

 双方の都合もあり、出発は一ヵ月後。

 今度の調査は、短くて数ヶ月。もしかしたら年単位になるかもしれない。またしても離れ離れとなる俺たちは、その間に一通り、遊んでおこうと約束したのだった。

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