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咲也・此花STEPS!! 4~もと・訳ありフリーターの俺が花いっぱいの国でにゃんこな王様になるまで~  作者: 日向 るきあ
STEP2.大馬鹿野郎と新たな盟友

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STEP2-4B シミュレーション結果:アズールが悪党にならないルートはあるか[プレイヤー:アズール]

 目が覚めた。夜明け前だった。

 また思った。飽きた。

 毎日毎日テストテストテスト。それも簡単すぎるやつばかり。

 仲良しこよしのあいつらにはなじめない。研究員どもも大したことない。

『やめろ』という声が聞こえた気がした。それも何度も。

 しかし、退屈ももう限界だ。

 こんな面白くもない場所に、俺の明日はない。

 振り切るように炎をぶつければ、部屋の壁はアッサリと破れた。

 あいた穴をくぐって、向こう側へ歩を進める。

 警報が鳴り出した。うるさい。スピーカーも壊す。

 二回それを繰り返すと、庭に出た。

 足裏に微妙な感触が伝わる。土だ。歩行に支障があるほどではない。

 そのまま庭を突っ切り、塀も同じように壊した。

 足元は石になり、感触が変わる。

 ……すこしだけ面白い。

 まだ後ろで警報が鳴っていた。血相かえてすっ飛んできた男が肩をつかんできた。うるさい。痛い。

 面倒なのでぶん投げて、前に進んだ。


 * * * * *


 奴らをまいたころには夜が明けていた。眠い。

 記憶している地図によればこのあたりは倉庫街。王都のはずれに近い場所だ。

 適当に寝ようと物陰を物色していると、後ろから呼ばれた。

「ミー」

 高く、甘い、愛くるしい声。見れば猫。初めて拝む、本物の猫がいた。

 生後二ヶ月程度の、黒い子猫。目は金色。しっぽを立ててこっちにくる。

 なんだこいつ。かわいいなおい。

 すりよってきたもふもふ野郎を撫でれば、ふわふわすべすべあたたかい。

 あ、これ最高。俺、猫好きだわ!

 眠気も忘れ戯れていると、ガラガラとうるせえ音がした。猫ちゃんが逃げた。

 チッ、なんてこったちくしょう。

 舌打ちをして振り返れば少し離れた場所に、馬車が停まった。


 中からは、貴族の服を着たガキが二人。引きずられ、押し出されて可憐な美少女が一人。こいつも貴族の服を着ているが男物だ。サラサラした茶髪も短い。男装の美少女というやつだ。

 最後に、美少女を押し出したガキが一人、やはり貴族の格好で降りてきた。

 全員同じような年頃、整った容姿をしている。貴族学校の同級生とかだろう。

 しかし嫌な感じだ。というか俺のにゃんこタイムを邪魔した罪をどう償わせようあいつらめ。

 とりあえず睨んでいるとガキどもはこちらに気付いた。

 俺を見るなり、顔をしかめた――よくある反応だ。

 俺の目が、左右で色を違えられたこれが、気持ち悪いというのだろう。

「なに見てんだよ。金ならやるからとっとと失せろ」

 中の一人がしっしっ、と手を振り、なにかを投げてきた。

 足元に転がったものは、王都で使われている銅貨だ。

 まあ、拾っておくか。軽く投げるには手ごろなサイズ感だ。

 うるせえ馬車もどっか行ったので、俺はやつらのほうに歩いていった。


 三人のガキどもはすでに美少女を壁際で取り囲み、なんやら罵声を上げていた。

 なるほど、難癖つけてお楽しみをはじめようというわけか。

 完全に理解した俺は一番声のうるさい奴に、さっきの銅貨を投げつけた。

 そして言った。

「うっせえ。失せろ、クソガキ」


 銅貨が後頭部に当たったガキはその場に倒れた。

 殴りかかってきた奴らは蹴ったら倒れた。

「え……えっ?!」

 美少女はおどろいた様子で俺を見た。

 綺麗な青の大きな瞳が、そのまま、一秒、二秒、三秒。

 これはあれか。惚れられたパターンというやつか。

 はたして彼女はぱっと頭を下げると俺を口説いてきた。

「あ、ありがとうございますっ!

 その、……も、もうちょっとだけ、優しく助けてほしかったですけど、……でも、ありがとうございます!

 あの、よろしければ僕のうちにいらっしゃいませんか? その……お礼を……あっ、僕、奈々希です。七瀬家の七男の奈々希と申します!」

「………………しち、なん」

「はい。うち、男ばっか七人兄弟なんです。……よかった、命に別状なさそうだ」


 男だと。男だと。こんな可憐な美少女が、男だと。

 俺は奴を凝視していた。

 ブラウンの髪はサラサラで、ブルーの瞳は澄みきって。

 きめの細かな肌もしっとりすべすべとして、思わず触れたくなる質感。

 白地にほんのりと朱を上らせた優美な顔立ち、きゃしゃな身体つき、細い指先。これは間違いなく、ドレスを着るべき造作だ。

 確かに、胸はない。完っ全につるぺただ。だが、そんなもんはむしろ邪魔だ。あってもいいがなくていい。

 そんっなにも可愛らしいのに、猫ちゃんなみに可愛いのに、男?!

 詐欺だろうこれは。どういうことだよ。


 俺が呆然としていると、その美少……年? は、地面にひざをついて、三ガキの介抱をしてやっていた。

 楽な姿勢で寝かせ、襟元を緩め、軽く治癒さえかけてやっている。

「こいつらは……」

「あ、同級生です。貴族学校の。

 いつも、舞踏会にちゃんと来いって言ってくれるんだけど、僕すっぽかしてばっかで。……悪いことしちゃったな。あとで謝らなくっちゃ」

「おいおいおい……」

 襲われかけて謝る馬鹿がどこにいるのか。ここにいた。

 その馬鹿はニコニコ笑って俺の手を取った。

「それより、あなたですよ!

 その格好ではお寒いでしょう? うちにいらして、あったかいお風呂であったまっていってください。それに、よろしければ服と靴も……」


 一瞬ぐらっとした。それは確かだ。

 だが、貴族んちなんて、確定的につまんなそうだ!

 つかこいつ絶対、俺を飼う気だ。冗談じゃねえ、せっかく外に出たっつうに、座敷猫になんかなってられるか!!


 ……と、思ったの、だが……


『いいだろいっちまえ、かわいこちゃんだぞ!』『ってかこれは運命だろ、絶対!』とかいう寝ぼけた声がやけにしつこく頭の中から聞こえてくる。

 しかたがないので、とりあえず一度ついていってみることにした。


「飽きたら出てくけど」

「それは、無理強いなんてできませんし。

 でももし、居たかったらずっといてくれても……いえっ、なんでもないです!」

 えへへ、と笑うヤツ。思わず聞いていた。

「お前さ。なんともおもわねえの。俺の目とか」

「え? カッコイイと思いますけど?」

「気持ち悪いとかは」

「とんでもない!

 だって、あなたは僕のヒーローだもの!」

「そんなじゃねーよ。

 俺はただ、あいつらウザかっただけだし……」

「じゃあ、ダークヒーロー!

 それなら恥ずかしくないでしょ、ねっ?」

「……よせやい」

 笑うその顔がまぶしくて、俺はおもわずそっぽむいていた。


 * * * * *


 七瀬の家のやつらはどこかのほほんとしたお人よしばかりだった。

 どこの馬の骨かもわからねえ俺を、ニコニコと迎えてくれた。

 俺は奈々希の武術の師匠として、七瀬の屋敷で暮らすことになった。

 思ったより悪くなかった。メシはうまいし、七瀬の奴らは名門というだけあってバトルしても歯ごたえがあったし、なによりそこには、奈々希がいた。

 明るく優しく、屈託のない笑顔で俺を慕ってくる奴。

『なじめない』なんて感覚を抱くヒマさえなくして、俺たちは友になっていた。

 奈々希は俺をアズと、俺はやつをナナと呼ぶようになり、兄弟のように毎日をともに過ごした。


 ナナは、貧民救済の活動をしていた。

 貴族のクセに舞踏会をサボるのも、そのためだった。

 演説もすれば、治安の良くない場所にも臆せず行く。

 そうした活動がそもそもウザいというやつらは少なくなかった。

 そしてナナは可愛い。みためも声も仕草も性格もなにかもが可愛い。

 となれば、狙われないわけがない。

 つか、もう馬鹿みたいに狙われまくる。

 ひどいときには往路と復路で別の奴らに襲撃された。

 もっとも俺としては、この状況はありがたかった。刺客どもはどいつもこいつもハエのようなもんだったし、ボディーガードのシゴトがあれば、いつも奈々希のそばにいられる。

 だが、そんな日々も長くは続かなかった。


 王立研究院は俺を『脱走した、危険な実験体』として指名手配。

 捜索の手はすぐに七瀬屋敷にも及んだ。

 やつらは政治力を使ってまで俺を差し出させようとしてきた。

 このままではナナたちがやばい。俺は、七瀬屋敷を飛び出した。

 押しかけた官憲の目の前で一芝居うち、姿をくらませた。


 とはいえ、疑いの目は七瀬に向けられたままだった。

 とくにナナには影に日向に監視が付きまとっていた。俺と接触するのではないかと思われていたのだ。

 確かに、俺はナナに会いたかった。手伝いをしてやりたかった。

 正直いうと、七瀬家の援助もほしかった――たとえ指名手配がなかったとしても、この見た目では『まっとうな』仕事につくことはできないのだ。

 一番手っ取り早いのはカツアゲか、身体を売ることとわかっていた。が、ナナの顔を思い出すとなぜかそれはできなかった。

 スラムにねぐらをおいて暮らしつつも、ポケットの金はあっという間に尽きていった。


 そんなある日、俺は見てしまった。

 またしても、ムカつく光景を。

 町を歩く俺の耳に、高い泣き声が飛び込んできた。

 みればまだ小さなガキども。薄汚れた身なりのやせっぽちが、でかい商店のまえから乱暴に追い払われるところだった。

 店からすれば当然の行動だったかもしれない。金も持たない浮浪児など、商売の邪魔でしかないことだろう。

 だが俺は、ムカついた。

 だからそのままその店に、笑顔でつかつか入っていき――


 その日、王都に札の雨がふり、俺の肩書きは脱走犯から義賊になった。


 これならいける。

 貧民たちにメシを食わせてやれて、ナナの手伝いができて、そうして俺も、メシが食える。

 これでいいのだ。俺は大満足だった。


 なのに、そのたった半年後。

 俺は、悪党を志すようになっていた。

 反乱者の濡れ衣を着せられ、騎士や兵士を相手に暴れる間に、俺はすっかりと暴力の味を覚えてしまったのだ。


 王の身代わりとして説得に来た奈々希は、俺のためにと、何もかもを差し出してくれた。

 だが、俺にはもう、戻ることなどできなかった。



 ――最期に見たものは、奈々希の悲しい、悲しい顔だった。




 * * * * *


 リザルト:失敗

 シミュレーションを終了します。

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[一言] 痛いすね……心が。 アズール(T_T)
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