STEP1-2B 突入・高天原2~梓の場合~
滑らかな石のステップを、三つのぼってたどり着く玉座。その上に浮かぶ、白い光輪。
『御座の間』は、当時とほぼ同じ静謐を保っていた。
ほぼ、というのは、そこにその頃なかったものがあった――いや、いたからだ。
先日とほぼ同じ、シルバーベージュのスーツを着こなしたそいつは、ものっすごく覚えのある口調で声をかけてきた。
「やあ、来たね。
なに大口開けて見てるのさ。これはかりそめの写し身だよ。
この状況を制すに当たり、頼りになるナビがほしいという、君たちの願望の反映だ。
ま、一人ばっかり頭おかしいのがいるみたいだけどさ。
……で、名前は『うさぎ』でいいんだね?」
似てる。似ている。うさぎちゃんと激似だ。
ただし、ちっちゃい。見た目としては5、6歳程度か。
そしてなんと、もふもふの白のうさみみしっぽつき――それもつくりものなんかじゃない、血の通ったホンモノだ!
おいおい、どんなごほうびだこれ。
生意気な目つきと口調も、こうなっちまうと可愛く思える。
ちょっといじってモフってホンワカした俺たちは、さっそく過去の改変に取り掛かった。
と、言いたいところだったが、超有能なナビ様は言った。
『直操作でやらかしたら超疲れるよ?』
それもそうだ。
ゆえに、まずは歴史シミュレーター機能――ぶっちゃけて言やちょーリアルなVRゲームだそうな――で試行、いける道筋を見つけてから、それを実世界に適用することにする。という作戦で、俺たちは始めたのだった。
俺たち、といっても、『プレイヤー』資格を持つのは俺だけ。
おにーちゃんたちはこの時代に生まれてなかったから、ヒトとして参加は出来ない。
ただ、プレーの様子は見れるし、助言も出来るということなので、まあいけるだろう。
そう思っていたのだが、はじめてみたらとんでもねえ。
俺の野郎め、何回やりなおしてもグレちまう。
そしてグレたが最後、ノリノリで工作活動を進め、悪の覇王に一直線だ。
どんだけ俺がイカレ馬鹿かを、シミュレーションとはいえ嫌というほど見せ付けられ、さしもの俺もうんざりだ。
かといってへたに手を抜かせれば、騎士長に始末されちまう。
いっそ、そのほうがいいんじゃないかとも思ったが、今度はナナがグレちまった。
俺のために嘆き、すさんでいる姿をみると忍びなく、この道はやはり取れなかった。
つか、これって小規模だけど公開処刑だよな……
うまくやれたら、次はおにーちゃんたちの記憶を飛ばさなきゃならない。
さもなきゃ俺はもうとても、おにーちゃんと一緒には帰れない。
ふかふかの玉座の上、全身の血が煮えはじめるような。できるなら身体ごと消えてしまいたいと思わしめるような、嫌な嫌な感じをかみ殺しつつ、俺はそう思った。