STEP1-2A 突入・高天原2~朔夜の場合~
2019/08/02
翼持つに正しくルビがついていなかったため、修正いたしました
綺麗な石のステップを、三つのぼってたどり着く玉座。その上に浮かぶ、白い光輪。
『御座の間』は、あの頃とほぼ同じ静謐を保っていた。
ほぼ、というのは、そこに当時はなかったものがあった――いや、いたからだ。
「貴様……なのか」
「そう思ってもらって構わない」
玉座の前には、見覚えのある男が立っていた。
年のころ25位か。なぜか俺に似ているが、髪はほぼ完全に金色にみえる。
白の装いはぴしりと詰まった立ち襟ゆえか、軍服めいた硬い印象。
立ち姿も堂々と正しく、うちから輝くような、気高く静謐な雰囲気をたたえている。
そう、あの時と同じように。
「……天、使……?」
イザークが呟けば、奴の背でばさり、純白の翼がはためいた。
「なるほど。お前にとり、この者はそのように見えているのか、イザークよ。
『我』はこの者の鏡写しとして形成されし存在。
たった今お前により、翼持つモノとされてしまったが。
……まあ、あながち的外れでもないのだがな」
『天使』はシニカルにうそぶき、くつりと笑った。
いけ好かない。
だがイザークは気にした様子もなく問いを発する。
「“されてしまった”って……んじゃ俺が“猫耳美少女”って言えばそうなってくれんのか?」
「残念だが、既に我が有り様は固定された。このセッションの間は少なくともこのままだ。
責任は取ってもらうぞ、わが写し身の輩よ」
「何がいいたい、貴様?」
こいつらをほっとくと話が進まなくなりそうだ。すかさず口を挟んだ。
「我に問い、問われよ。
しかして我が存在意義を全うさせよ。
それが『トロン』を喚びしお前たちの、権利にして義務だ」
「おお、そいつはつまり『ご注文をどうぞ』ってやつだな?
よかったなサク、言い草ややこしいがめっちゃ協力的だぜ、奴さん」
「気をつけろ。こいつはとんでもない性悪だ」
イザークは楽観的だ、しかし油断は禁物だ。
『天使』はというと、読めない顔でさらにうそぶく。
「願いに応えて逆恨みを受けるとは――御使いというのも因果なモノだ。
ならば気をつけろ、小さきものよ。細部に細心の注意を払うがよい。
しわぶきひとつで世界は変わる。
挑め。そして選べ。お前たちの『限界』を」
「俺の『限界』は、サクレアの幸せだ。
サクレアが過去から未来全てにおいて、幸せであることが俺の望みだ!
そのために俺はここに来た。過去を変え、未来までもをつかむために!!」
「ならば座せ、写し身よ。
これなるは全能の『御座』。
意のままに駆り、編むがよい。
己の選択で、過去の写しを。
『御座』はそれが真実の過去とされることを否定しない。
……お前がそれを、選べばな」
「……わかった」
やはりなんとなくいけ好かないが、ここで奴を睨んでいたところで仕方ない。
俺は奴の導きを受け入れ、『御座』のもとへ歩を進めた。
俺の後ろでイザークが問う。
「えっと、天使? さっそくよっつばっか質問いいか?」
「ああ。まとめて聞こう」
「ありがとう。
まず、俺たちはお前をなんて呼べばいい?
つぎに。サクが今からすることは、ガチに過去を変える前の下準備、あるべきベストな展開をさぐるための試行、てことでいいんだよな?
だとしたら、ぶっちゃけこの席増えないの?
だめでもなにか、サクを手伝いたいんだけど可能か?」
「答えは『常識の範囲内で好きに呼べ』『YES』『NO』『可能』、だ。
問い34について補足しておこう。
お前はサクスの時代には受肉していなかった。ゆえに、この歴史に席を得ることは不可能だ。
だが、モノの次元を超越した存在としてなら、すなわちやつの伴霊としてともに見、考えることならば可能だ。
その同じ台におれば、情報が共有される。心の声で語り合い、助言を与えてやるがいい」
「わかった、ありがとう。
あいさつが遅くなったが、よろしくな、天使。
俺はイザーク、こいつの友だ。
ここからしばらく、よろしく頼む」
「……ああ」
イザークが屈託ない笑みを向ければ、『天使』の顔がすこし緩んだ。
影響されてか、俺の緊張もすこしほぐれていた。
ああ、やはり、こいつと来て正解だった。
心の中で礼をいい、俺は玉座に身を沈めた。