STEP1-1 ~神王とその仲間たちは天空の島への出発を決意するようです!~
2019/06/30
いくつかの誤字、改行、かっこなどを修正しました。
(内容はそのままです)
毎回ごめんなさい……orz
夜明けの円卓会議室に、俺たちは集まっていた。
俺の両脇にルナさんと、大人の姿のスノー。
イサとシャサさん、ゆきさんとロク兄さん、渡辺さんとクロウがそれぞれ席を並べ……。
メイ夫妻、ナナっちとティアさんはもちろん、カイルさんとしあな、唯も出席していた。
みんなすぐに動ける格好、眠気のねの字もない顔をしていた。
それはそうだろう。
サクはここ、ユキマイの真の王と言っていいほどの重要人物。
やつに付き添っていったイザークも、婿入り前の大事な公賓。
さらに、ユキマイ一の頭脳と力のゴールデンコンビ・蒼馬兄弟まで行方不明とか、ヤバいやつが知れば一方的に宣戦布告してくる恐れがある状態だ。
なにより四人は運命を共にする仲間。とても寝てなんかいられない。
そんなわけで即座に対策会議を開いたところ、ルナさんがずばりの情報をくれた。
「お聞き下さいませ、みなさま。兄から言伝を預かっております。
もしも夜明けまでに戻れねば、救援をよこしてくれと。
行く先は『高天原』。天にしろしめす、神の御座ですわ」
白のブラウスもまぶしい姿で、冷静に気丈に彼女が言えば、会議室はざわめきにつつまれた。
『高天原』とは、唯名帝国の最大の遺産にして、失われた遺跡。
人の世界にありながら、神の次元に最も近くあり、その力に触れ、世界を変えることすらできる聖なる場所。
その正体は、かつて俺たちユキマイの民が、守り、祀ってきた社のなれの果てだ。
ティアさんの顔から、血の気が引いた。
「『高天原』は実在したのですか?!
『弱き者これに近づけば、心食らわれる』至聖の社。
ご無事なのでしょうか。強き<力>をお持ちのサクヤさまはまだしも、イザークさまは……」
「だいじょぶだよ、ティアっち。
イザっちくらい強くてフリーダムなココロのもちぬしだったら、神の次元だって充分、笑ってやってけるよ。
しゃちょーもついてるしね!」
「それなら、いいのですけど、……
そうですね、わたくしの力量ではおそらく、足手まといなのです。
いまは国民のひとりとして、できることを――イザークさまのうしろをお守りしなければ」
いつもの最強装備、えんじの制服姿のシャサさんがウインクを飛ばすが、ティアさんの表情はいまいち晴れない。
顔色も、ブルーを基調としたパンツスーツ姿のせいか、青ざめて見えるまま。
そこへ追い討ちをかけたのは、硬い表情をしたスノーの言葉だった。
「ティアちゃんはちゃんと強いわよ。
でも今回のことは、マジでヤバいの。
あのスパルタドSのサクが、サキに知らせるの完全拒否るような情報なんて、どう考えたってヤバいでしょ。ひとことでいうと、完っ全に有害情報だわ」
「っ……!」
ティアさんが動揺している。
情けないが俺も、動揺してしまう。
だがそんなヤバい件にサクは、イザークだけ連れて立ち向かおうとしている。
そして、約束の時間までに戻れなかった。
そうなれば、こたえはひとつ。
「俺が行く。かならず、みんなを助けて戻ってくる。
俺は一応、成人した男だ。それに、神で王なんだ。
それでやれなかったらそれこそ神の名折れだろ?
ナナっち、一緒に行くか。
あの書置きの内容とタイミングからして、亜貴とアズールも……」
「そうだね。
ふたりは俺のために神の領域に行ってくれたんだ。
俺が馬鹿だったって泣いてたから……そんな過去を変えるために。
俺が助けに行かなくちゃ。
その過程でどんなひどいものを見たとしても、きっとのりこえる。
だって、俺だって王だったもの。俺だって、やってみせる!」
ジーンズにパーカー姿のナナっちが、それでも勇ましく決意を示せば、シャサさんも思い切りよく立ち上がる。
「よっしゃ。あたしも行く。
しゃちょーがてこずるくらい強い奴だったら、あたしが行かなきゃだからね!
だいじょーぶ、あたしだって戦士だし、二度死んでるし、ふたりよりもおねーさんだよ。
……それにあの過去は、あたしも後悔してるから」
「シィちゃん……」
「あっとと、ちがうよルナっち。
さっくんに失恋したことはもう諦めついてる。
イサがいてくれる今を手放す気はないんだ。そこは安心して?」
「わっ、わたしは、……もうっ」
いつもひかえめで冷静なルナさんが、顔を赤くしてあわててる。
なんだかうれしい、なんて思った瞬間、もう俺はスノーさんに詰め寄られていた。
「サキ~? な~にニヤニヤしてんのっ?
なによー、あたしのときはひたすらこまってたくせにー!」
「いっいいいいやだってほらスノーさんははかいりょくがはんぱないですからっ!! あそこで銭湯ぶっ飛ばされたら俺もうフォローできなかったしー!!」
「はいはい、ご馳走様。
今回はわたしも行くわ。あそこをつくったのは夜天族。その末裔であるわたしは役に立つわ。
それに、わたしのチカラならイザってときの防波堤になってあげられるわよ?」
「え……?」
いまは大人の姿なのに、子供姿のときのノリなので、せまりくる迫力が半端ない。
っていうか、パールベージュのパンツスーツもさらりと着こなす、おとなの女性どこいった。
半泣きで抗弁していると、ゆきさんがさらりとフォローしてくれた。
しかし、問題は最後の一文。
ゆきさんの笑いにルナさんを見ると、ルナさんは固くこぶしを握っていた。
「ま、まさか、ルナさん……」
「わたしも行きます」
「ちょ?!」
「ル、ルナっち!!
だめだよルナっちは! 有害情報だってハナっちいってたじゃん!」
「わたしは、アユーラで成人しておりますわ。
そしてわたしは、国主の妻となる女です」
俺を含めたほぼ全員がよせ、と声をかけるが、ルナさんの決意は固いようす。
どうしよう、とメイ夫妻を見れば、ふたりはうなずいた。
「ルナがそこまでいうなら、行っていらっしゃい。
サクは、15のときに通った道よ。
でもそのとき、わたしたちは荒れ狂うサクの力で死にかけた。
サキくんたちに、同じ思いをさせないと。約束できるなら、いってらっしゃい」
「……はい」
震える声でこたえるルナさんを、おばさんがぎゅっと抱きしめた。
ふたりとも、白のブラウスに紺のスカート。それをみる俺は失礼ながら、大小ふたりのルナさんがそろっているような、不思議な感覚に見舞われる。
大小ふたりの、といえばおじさん――メイ博士だ。
サクを穏和なおじさまにして、白のポロを着せたかのようなその姿に既視感を覚えつつ、俺は博士に問いかける。
「えっと……サクは、一体何を見て……」
「『キオク』だよ。
サクレアの死後、墓前で祈り、手に入れたものらしい。
……悪いけれどこれ以上は、僕から無断で伝えることはできない。
一番肝心なところは、僕たちも聞かせてもらってはいないんだけれど。
どうか、自分の目で確かめてくれ。そして、救ってやってくれ。
あとのことは任せて」
「はいっ!」
その言葉に意気込んで答えると、他のメンツがつぎつぎ声をあげた。
「では、私……俺も行きます。
守らなければならない人が行くのです。俺も、命を懸けます!」
「ロクさん……」
いつもの穏やかさはどこへやら、黒スーツのロク兄さんが熱血する。
となりで白衣のゆきさんがほんのりと頬を染める。ごちそうさまです。
「ほいほいごっそさん。
てわけで俺も今回は行くわ。
情報の氾濫する高天原を制するには、俺の『最適化』が役立つはずだ」
次に手を挙げたのはなんと、いつも本部詰のイサ。
しかも、遺跡探索用の装備に身を固め、顔は真面目。
イサの『最適化』は、『カリスマ』と真逆のチート。
『接した情報が常に、関連する情報ともども最適の位置づけに収まる』――たとえば、適当に書類をそろえただけでそれが思った順にソートされ、書店で適当に手に取ったはずの雑誌にほしい情報がずばりと載っており、文字並べ替えクイズなんかは一瞥すれば答えがわかる。そんなかんじのトンデモスキルだ。
そのイサが乗り出すのだ、どれだけやばいかがわかろうってものだ。
「神の領域に近く触れることは、システムYUIにはオーバースペックと考えられます。
通信等を通じて、フォローします」
「ボクも残る。困ったときは連絡をくれ、フォローするから。
ああ、飛行艇とかは用意してある。体調を整えたら格納庫に来てくれ」
「うむ、しあなが残るのであれば、わしがいくかのう」
白黒のフリフリ少女たちの冷静な声を聞きつつも、俺はにわかに緊張がぶり返すのを感じていた。
……が、すぐにそんなのふっとんだ。
なんとまさかのカイルさんが腰を上げたのだ!
しかも、着流しの腰にはなんか業物っぽいのが差してある。ええええ。
「えっ?! だ、だいじょうぶなんですかカイルさん!」
「そうよ、おじいさま。おじいさまが有害情報なんか見たら、召されてしまうわ!」
「う、うむ……だめかのう……」
カイルさんはちょっとしょんぼり。でも俺も思う。それはぜったいダメなのだと。
なぜって、大丈夫ならサクが連れて行っていただろうからだ。
カイルさんは、ゆきさん同様の夜天族。そして今なお、御年85にして長を務めるだけの知力、体力、精神力をもっている。
そのカイルさんを外す理由として一番有力なのは、カイルさんが立ち直れないほどに傷つくであろうというものだ。
唯聖殿でのカイルさんは、離宮の下働きの子供だった。
友達になった俺にとてもなついて、俺のためにといつも全力でがんばってくれていた。
というのに、実際は守りきれていなかった、なんて場面をその目で見たりしたら。
確かに『神の子サクレアのサーガ』には、豊穣神のチカラを得るため血や涙をうんぬん、とか書かれているけれど――
それには触れずに『ご高齢だから!』という理由でさくっと撃墜するゆきさんは鮮やかで、俺は心の中で賛辞を送らずにはいられなかった。
しかし、ちょっといじけぎみの相棒を見るやクロウは、がっと立ち上がった。
「よしっ、ならかわりに俺が行くっ!!
俺ならっ、そ、そんなもんま、ま、まるでへ、平気だからなっ!!」
「クロウ、涙目で噛みながら言っても説得力ありませんよ?
今回はおとなしくお留守番しましょ、ね?」
しかしこちらもさわやかに撃墜された――緑の制服もさわやかな渡辺さんに。
いつもなら黒の制服でかっこよく決めてるクロウだったが、今は完全に形無しだ。
実はクロウも、ホラーとかまるで駄目なのだ、渡辺さんとは真逆で。
これでこのふたり仲がいいってんだから、世の中って奴は謎だ。
「くっそ、今度こそサキのやつにかっこいーとこみせ……っゴホン!!
い、行ってきやがれ高浜離宮でもどこでもっ! 無事に帰ってこなかったらただじゃおかねーんだからなっ!」
「後を守ってくれるんだろ? そいつは充分かっこいいって!
たのんだぜクロウ、すぐに帰ってくるから!」
「かっ……て……
ばっ馬鹿野郎っ! そ、そんなこと言われたら……お、俺もう持ち場戻るから! あとのことは何も心配すんじゃねーぞこの……もふにゃんこ神王っ!!」
クロウは真っ赤になって会議室を飛び出していった。
毎度の絵に描いたようなツンデレぶりに、見送る俺たちの胸はほっこりあたたかくなる。
いまや、会議室入りしたときの緊張はすっかりほぐれていた。口元には笑みがわいてきた。
だいじょうぶ、みんなとなら、きっとやれる。
「よし、それじゃ準備に入ろう。
飛行艇で酔うとまずいから、ゼリー飲料でとりあえず栄養と水分取っておいて、向こうで携帯食食べることにしようか。操縦はYUIと意識接続して俺が……」
すると唯がのたまった。
「大丈夫です、操縦はYUIが遠隔操作でします。
自転車しか乗れないサキは大人しく座っていてください。よけいなことは考えずに。」
「なんかひどいっ?!」
そして会議室は笑いに包まれた。