第1話
世界は魔王の復活による恐怖に怯え始めた。
各国の王は魔物を統べる王へ抵抗をするために、王国は勇者を、帝国は英雄を、皇国は騎士を排出した。
必死の抵抗だったが、未だ魔王の討伐は続いている。
それがかれこれ700年経ったが、世界は均衡を保ったままだった。
そんな中、伝説と謳われる勇者と英雄と騎士の魂を引き継いだ抵抗力が現れる。
この永遠に続く均衡は、静かに綻びを見せ始めていた……
語り部は静かに語り終えた。噂ぐらいで聞いていただけだが、ついに伝説の三傑が現れた語りはどの街を巡っても必ず語られている。帝国では新聞と呼ばれる紙で国民に伝えられていた。この語りはどの街でも歓喜の渦の中心だった。しかし、まだ倒されていない。戦うことをしない者たちにとって、都合の良い現実逃避だった。
「……悲しいねぇ、もう平和になったと思ってやがるのか」
俺、浪人をしているアトラスは思ったことを口にした。宿の二階の窓から外を見下ろせば、語り部によって作られた虚構の活気になんとも言えない気持ちになった。大きな街になればなるほど、その活気の大きさに悲しさは増えていった。
準備を終えて、1階のフロントで出て行くことを伝える。髭を蓄えた大柄な主人は、俺をマジマジと見て一言俺に言った。
「あんた、帝国の英雄かい?」
その一言に流石の俺も嘘だろと思わんばかりに、目を見開き、驚いたように見せた。
「英国の英雄は、こんな浪人風情のカッコはしないだろうさ。それに三傑全員はパーティーを組んでると聞く。噂じゃ英雄様は絶世の美女の踊り子と剣豪と寝食を共にしているらしいぜ?」
主人は蓄えた髭を摩りながら、しかしなぁと呟いていた。俺はそんなことを気にせず、それに比べてと繋ぎながら言う。
「俺はここ10年、一人気ままに旅をしている浪人だ」
主人はそうかいと言いながら、サンドイッチという紙が貼られている布の包みを俺に渡してくれた。
「嫁が英雄様と勘違いしてはいたが、気持ちと一緒に持ってってくれや」
俺はそれを受け取り、ありがとうと伝えて宿を後にした。
俺はアトラス。武と機工の極致を目指す旅人。未だに俺より強い武人と技術の長けた機工士に出会えていない。