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大きい方の塊、動く。

大きい方の拾い者が起きました。

「白河!いるのか?!」

ダンダンッと音をさせながら、轟音のごとき声量で狗牙が白河の部屋に入ってきたのは、白河が大きい塊と小さい塊を拾ってきてから一時間程たってからだった。

やはりバンッと音をさせて開かれた襖に、雪晶が眉を潜める。

「狗牙、貴方はもう少し静かに行動できないのですか?」

「うるせえ!忙しいのに、急に呼んだのはそっちだろ」

彼を見ると、衣服が乱れている。暴れた客でも取り押さえていたのだろう。

確かに、忙しいようだ。

いつもの定位置に座っている白河は、薄く笑う。

まだ、雨はやまない。

「忙しいのに悪かったな。狗牙」

「お前が、呼びつけるなんて大事に決まってるからな」

「にしては、来るの遅かったんじゃない?」

「それは、禁制の薬持ち込んで、蝶と遊ぼうとしてた奴、追ってたからだろ!」

「俺よりそっちの方が大事なんだ」

「当たり前だろ!」

「あら哀し」

「気色悪い事言うな!」

いつもの会話。

真っ黒な短髪の髪に、筋肉質の身体。そして、狼のごとき吊り上がった眼は金色に染まっている。行動派という着ぐるみを着て歩いているような人物だ。

白河とは正反対だ。静と動といった所か。

彼とも付き合いは長い、雪晶と同じくらいだろうか。だから隠す事は何もない。

狗牙は「そんな事より、何なんだよ」と言いながら中に入り、胡座をかいて座ると白河のために用意した酒を、杯に注ぐ事はせず直に口に運び水を飲むように喉に流し込んだ。

その横で、行儀の「ぎ」の字もない彼に雪晶の眉間の皺がさらに濃くなる。

それを楽しそうに見つめてから白河は、持っていたキセルを部屋の左奥へ向けた。

狗牙は、首を傾げながらその方向に顔を向けた。

瞬間、「うあっ!」とまたまたやはり大きな声量で大きなリアクションをした。

その大声に、雪晶の後ろに座っていた禿二人が耳を塞ぐ。

「だから!煩いのよ、あんたは!私の子達が、驚いたでしょ!」

堪忍袋の緒が切れた雪晶は、彼に負けないくらいの声量で叫んだ。

と同時に狗牙の首を片手で掴み、

「あんたの声帯、凍らせてやろうか」

いつもの妖艶な顔はどこへやら、豪雪地帯のような雪原顔でそう言った。

「怖い顔してるよー、雪晶さん」

彼女の顔に、引き攣った表情を浮かべながら掴まれた手を摘んで離し、逃げるように奥の部屋にいる二人に

狗牙は近寄った。

「うるせえ!忙しいのに、急に呼んだのはそっちだろ」

彼を見ると、衣服が乱れている。暴れた客でも取り押さえていたのだろう。

確かに、忙しいようだ。

いつもの定位置に座っている白河は、薄く笑う。

まだ、雨はやまない。

「忙しいのに悪かったな。狗牙」

「お前が、呼びつけるなんて大事に決まってるからな」

「にしては、来るの遅かったんじゃない?」

「それは、禁制の薬持ち込んで、蝶と遊ぼうとしてた奴、追ってたからだろ!」

「俺よりそっちの方が大事なんだ」

「当たり前だろ!」

「あら哀し」

「気色悪い事言うな!」

いつもの会話。

真っ黒な短髪の髪に、筋肉質の身体。そして、狼のごとき吊り上がった眼は金色に染まっている。行動派という着ぐるみを着て歩いているような人物だ。

白河とは正反対だ。静と動といった所か。

彼とも付き合いは長い、雪晶と同じくらいだろうか。だから隠す事は何もない。

狗牙は「そんな事より、何なんだよ」と言いながら中に入り、胡座をかいて座ると白河のために用意した酒を、杯に注ぐ事はせず直に口に運び水を飲むように喉に流し込んだ。

その横で、行儀の「ぎ」の字もない彼に雪晶の眉間の皺がさらに濃くなる。

それを楽しそうに見つめてから白河は、持っていたキセルを部屋の左奥へ向けた。

狗牙は、首を傾げながらその方向に顔を向けた。

瞬間、「うあっ!」とまたまたやはり大きな声量で大きなリアクションをした。

その大声に、雪晶の後ろに座っていた禿二人が耳を塞ぐ。

「だから!煩いのよ、あんたは!私の子達が、驚いたでしょ!」

堪忍袋の緒が切れた雪晶は、彼に負けないくらいの声量で叫んだ。

と同時に狗牙の首を片手で掴み、

「あんたの声帯、凍らせてやろうか」

いつもの妖艶な顔はどこへやら、豪雪地帯のような雪原顔でそう言った。

「怖い顔してるよー、雪晶さん」

彼女の顔に、引き攣った表情を浮かべながら掴まれた手を摘んで離し、奥の部屋にいる二人に

狗牙は近寄った。

そして、二人を近くで確認するやいなや、踵を返しズカズカと白河に近寄った。

窓縁に座る白河を見下げると、何も言わずに胸倉を掴み上げ、

「あれって…そうだよな?」

「そうだよ」

「お前、どうすんだよ」

「さあ…」

「何言ってんだよ、てめえは!」

白河の他人事のような返答に、狗牙は苛立ちを顔に貼付けて声を上げた。

「狗牙!」

今にも殴りそうな狗牙に、雪晶が声で止めに入る。

「雪晶!お前もお前だ!わかってていれたのか!」

「雪晶は悪くないよ。俺が勝手に持って来たの」

喚き散らす狗牙に、温度の違う声で白河はそう言い、彼から離れたその時、奥の部屋が動いた。

大きな方がムクリと起き上がったのだ。

その刹那、一筋の光が白河に向かって走ってきた。

その光は刀の刃だった。通常のモノよりかなり長く、間合いを詰めずとも狙いに辿り着く。

だが、その光は白河に辿り着く前に止まった。

狗牙が、彼の前に瞬時に立ち、刃を鷲掴みにしたからだ。傷を負ったのは、奥の部屋と区切るための鳳凰の絵が描かれた襖だった。横に真っ二つに割れた。傷というより致命傷だ。

雪晶もすぐに身体を動かし、風花と銀花を後ろに隠し三人から距離をとる。

「お目覚め?」

表情を変えることなく白河が、起きた彼に声をかけると「ここはどこだ」と低い声で返し、

掴まれた刃を引き抜こうとした。

「おっと!」

力のこもった刃に、狗牙は更に力を込め引き抜かれぬようにして脇に挟むと、身体をひねった。

刃を折るつもりだった。だが、刃は折れることはなく、その前に彼の拳が狗牙の頬に捩り込まれた。

狗牙は、床に顔から叩き付けられた。壁の無くなった白河へ、宙に残った刃が滑り込んでくる。

白河は、持っていたキセルでそれを簡単に止めた。

彼が、大きく眼を開き、両手に刀を持ち力を込めるもその先に進む事ができない。

止めたキセル越しから彼の動揺が伝わってくる。

「起きて早々、元気だな。お前は」

やはり、野良猫だった。怯えた動物程、面倒なモノはない。

「この野郎!痛えじゃねえか!」

白河が動く前に、床に叩き付けられた狗牙が動いた。

久々に殴られた狗牙は、一発でブチ切れたようで、起き上がりながら彼の胸倉を掴み5倍返しの拳を相手の頬へ叩き付けた。

避ける事が出来なかった彼が、今度は床に叩き付けられる。

倒れ込んだ上から狗牙が体重をかけて押さえ込む。

「なあ、白河!」

まだ怒りが残った声音で、狗牙が白河を睨みつける。

その視線を真っ直ぐに見つめ返して、白河は軽く首を傾げる。

「なあに?」

「このために俺を呼んだだろ?」

「察しがいいね。そうだよ」

満足そうに微笑みながら、サラリと返答する白河に、狗牙は顔の引き攣りが直らない。

「自分でやれよ。俺より強いんだからさ」

「俺はもう年だからさ。若いのにこういう事はまかせないと」

「最悪」

「どうも」

「褒めてねえから!」

二人のどうでもいい会話の下で、彼がバタバタと暴れているが、動く事ができない。

「さてと…」

会話の相手を変えようと白河の視線が、這いつくばった彼に向けられる。

「あんた…名前は?」

「…茨木〈いばらぎ〉」

「素直だね。じゃあ、彼女は?」

彼は、答えない。

そうだよねと納得したように眼を細めてから立ち上がり、こんなに大きな音をたてているのに未だに眼を閉じたままの彼女に足を進める。

そして、彼女の枕元に腰を下ろした。

眠る彼女を見つめる白河に、雪晶と狗牙の表情が曇る。

その理由は、白河の顔にあった。

懐かしいような、哀しいような、言葉では表す事が難しい表情。

この表情の訳を知っているから、胸が痛くなる。

見つめていた白河の指が、彼女の桜色の髪に伸ばされる。

「触るな!」

狗牙の下に押さえつけられている茨木が大声を上げた。

「暴れんな!この馬鹿!」

身体を捩る彼に再び力を込めて狗牙が抑えつける。

「捕って食いはしないよ」

言いながら白河は、彼女の髪に触れた指を頬へ滑らせていく。

仄かな桜の香りが鼻孔を通り抜けて行く。


「白河」


その香りと共にまた、呼ばれた気がした。

過去がそれに乗って俺の背中に張り付いてくる。

もう、全て剥がして奥底に埋め込んで葬ったはずなのに。

やっぱり、そんな事できるはずが無かった。

ごめんね、忘れようとして。無かった事にしようとして。

怒ってるんだよね。だから、こうやって現れたんだよね。

わかってるよ。忘れようなんてもう、思わないから。

もう、逃げようとは思わないから。

だから、もう一度、俺の名を呼んでくれ。


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