表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

カバハウスの冬童話

完璧な人

冬童話2018、白雪姫の企画はもう書いたのですが if設定で無いのも書きたかったのでやってみました。

昔々、

あるところに大きな国がありました。

その大きな国はどこよりも豊かで、どこよりも強い武力を持つ国でした。

周りの他の国々はそれぞれこの大きな国と友好を結ぼうとします。

それは当然です。

友好を結べたら豊かさも、強い武力も分けて貰えるからです。

ただし、この大きな国は中々他の国と友好を結びません。

結ぶ必要がないのです。

もっとも豊かで、もっとも強く、もっとも大きい。

他の国よりもすべてにおいて上回っていたからです。

ただし、その国が他の国と友好を強く結ぶ機会が数年に一度だけ訪れます。

それは大きな国の王子がお嫁さんを探すときです。

大きな国にはたった一つだけ持っていないものがございました。

それは『美しい女性』がいないのです。

大きな国を訪れる旅人は言います。


「あそこにはどうしても美しいと言える女性とは出会えない」と


だからなのでしょうか?

王子が結婚をしないといけない歳になると一度だけその大きな国で大きな大きなパーティーが開かれます。

他の国々の美しい女性の代表が一斉に集まり、王子の気を引くのです。

そして王子がお嫁さんに選んだ人の国は友好を結び、豊かさと強い武力を手に入れることが出来るのです。

だから美しい女性代表に選ばれた人は必死になります。

自分の国の未来がかかっているのです。

そして今年、そのパーティーが行われます。

王子様のお嫁さん探しのパーティーが始まります。


ある弱小国ではパーティーが始まることを聞き、急いで美しい女性の準備をすることにしました。

弱小国の王女は国中の若い、美しい女性を集めたのです。

王女は言います。


「この国の未来がかかっておる。皆にはこれから王子に気に入られる姫になってもらう」


集められた美しい女性は皆王子と結婚するためのお姫様候補として選ばれたのです。

お姫様候補達は頑張ります。

より美しく、より王子に相応しい。

『完璧な人』になるため頑張ります。

顔をいじり、声をいじり、体をいじり、髪の毛をいじり、性格をいじり、

いじっていじっていじっていじって。

王子に相応しい人になるために。

そしてついに一人の完璧な『美しい人』が出来上がります。


「おお!なんて美しい!」

「これなら王子の心も掴めよう」

「まるで人では無いような、人を超えた美しさだ」


弱小国の王女は完璧な美しさを手に入れたお姫様候補を正式に養子に取り、候補から正式なお姫様にしてあげました。

そして王子のパーティーの日。

国民全員でお姫様を贈りだします。

寒い冬の季節だと言うのに国民全員が外にでてお姫様を見送ることにしたのです。

この国の未来を変えてくれる人だと信じて。

お姫様は馬車に乗って王子の国へ向かいます。

自分がお嫁さんに選ばれると信じて。


お姫様は王子の国にたどり着きました。

そして驚愕しました。

なぜならそこにいた女性が全員完璧なほどに美しかったからです。

どうして?なぜ?

お姫様は混乱します。

王子の国では美しい女性はいないという話だったのに。

だから王子がパーティーを開いているのだと。


ですが驚愕している暇はありません。

急いで王子のパーティーに出向かなくては遅れてしまいます。

お姫様は不思議に思いつつも急いでパーティーに向かいました。

そこでさらに驚愕します。

いろんな国から集まったお姫様達は一つの部屋に全員案内されました。

そこには自分と同じぐらい綺麗で美しい女性あふれていたのです。

自分が一番『完璧』であるはずなのに。

それは他の女性も同じのようで全員驚いた表情をしています。

皆が皆自分が一番だと思っていたのに、それと同等の美しさを持っている人がいっぱいいるからです。

誰か、自分より劣るものはいないのか。

お姫様は必死になって自分より下の女性を探します。

このまま行くともしかしたら王子様に選んでもらえないかもしれない。

不安と焦りからでしょう。

自分より下の女性を見つけることによって少しでも安心しようとしたのです。

そして一人だけ見つけました。

角の隅で地味な茶色のドレス、美しくはあるが一切巻いてない髪形、化粧もほとんどしていない地味な顔。


良かった、やっぱりちゃんと私は美しい。

お姫様は自分より下の女性を見つけて安堵しました。

きっと他の国のお姫様達も外見は『完璧』でも中身までそうではない。

王子様のお嫁さんとして、一国の将来の王女として。

厳しく自分を殺して身に着けた王族としての振る舞い。

そこまで完璧なのは自分だけなんだと。


そしてとうとうパーティーの時間になりました。

お姫様が王子に選ばれるためのパーティーの始まりです。

パーティー会場で入場したさいに、お姫様は王子の姿を初めて見ることが出来ました。

なんて美しい人なのでしょう。

なんてたくましい人なのでしょう。

王子の姿はこの世の物とは思えないほど美しかったのです。

なんとしても。

なんとしても王子のお嫁さんにならなければ。

お姫様の決心がいっそうかたまります。


お姫様は必死に頑張ります。

王子が全員と踊り、会話する予定だと聞いていの一番に名乗りでました。

王子に相応しい完璧な踊りを、王子に相応しい完璧な会話を。

そして王子に相応しい完璧な美しさを。

必死に、必死にアピールします。

次の人の番になるときも王子は素敵な笑顔で「ありがとう」と言ってくれました。

お姫様は勝ったと思いました。

私が一番。

王子に相応しいのは私。

後は皆と社交辞令で踊るのを、会話をするのを待つだけだと。

最後に王子と踊ったのは先ほど見た地味な女性でした。

踊りも下手なようであろうことか、王子の足を何度も踏みそうになります。


クスクス

思わず笑い声がもれてしまいます。

クスクス、クスクス

自分だけではありません。

他の皆も笑い声がもれています。

だってあまりにも哀れだったからです。

完璧な自分達と比べて。


王子はすべての女性と踊り、会話を楽しみました。

そしていよいよお嫁さんを選ぶ瞬間です。

一番気に入った女性を選ぶ瞬間です。

王子がこちらへ向かって歩いてきます。

お姫様が待ち望んだ瞬間です。

そして王子様は

お姫様の横を通り過ぎていきました。


「え?」


お姫様は驚きます。

私はここにいるよ?

どこに行くの?

王子はお姫様を通り過ぎ、そして自分が地味だと思った女性の元へ行き、膝をついて女性の手を取りました。


「今日、出会ったばかりですが、僕と結婚してください」


それは私が受けるべき言葉。

お姫様が待ち望んでいた言葉でした。

地味な女性も驚いていたようで。


「え?どうして私なんですか?踊りも下手だし、会話も…」


そうだ。

確かにそうだ。

周りの女性も同じ意見なのかヒソヒソ声がもれています。

なぜあの女がと。


「僕はお嫁さんを探すためにこのパーティーを開きました。他の方々は皆美しく、踊りも会話も将来も王子の嫁となるには完璧でした。ですが…僕はそんな女性が怖いのです」


怖い?

何を怖がることがあるのだろう。

お姫様は不思議に思います。

何に不満があるのだろう。


「完璧過ぎて、『人』と話している気にならないのです。皆が皆同じ美しさの、完璧な『人形』と話しているようで。あなただけでした。『人』として、僕を見てくれたのは」


お姫様は絶望します。

自分を殺し、王子のために完璧になったのに。

それがすべてダメだったのです。

そこで初めてお姫様は他のお姫様達の顔をちゃんと見ることにしました。

なんということでしょう。

皆自分と同じ顔をしていたのです。

皆同じドレス、同じ宝石、同じ化粧をしていたのです。

皆、何もかもが『完璧』過ぎたのです。


「この国の女性は皆、美しさを求めすぎて他の令嬢の方達と同じ顔、しぐさをするようになったのです。皆が皆同じ顔、同じ性格。僕にはそれが美しいと思えなかった」


お姫様は思い出します。

この国の女性の人の顔を。

自分と同じ顔だった『完璧』な顔を。


「だから僕と結婚してください」


王子が二度目のプロポーズをします。

トドメのプロポーズを。

地味な女性はそれに答え笑顔で


「喜んで」


と。


お姫様は王子に選ばれませんでした。

パーティーからお姫様は自分の国へ返されることになりました。

選ばれなかったものの末路です。

お姫様は自分の家に帰ろうとしました。

新しい母親の王妃の元へ。

ですが衛兵に止められます。


「入れてください、私はこの国の姫ですよ」

「できません。王妃に娘はおりません。この国に姫などいないのです」


と城門の扉を閉じてしまいました。

王妃はパーティーの出来事をお姫様が帰る前に聞いてしまったのです。

王子のお嫁さんになれなかったものは必要ありません。

お姫様がいた、養子にした事実を無かったことにしてしまいました。

元お姫様は必死に門を叩きます。

今は冬の季節です。

このままでは凍死してしまいます。

王子の国にももうお姫様ですらないので入ることはできません。

元お姫様は必死に門を叩きます。

やがてお姫様は力尽き。

門の前には美しい氷の彫像が出来ました。

とっても美しい、氷で覆われたマネキンが。

楽しんで頂けたなら幸いです。

蛇足ですが説明:

王子の国に美しい人がいない=皆同じ顔、皆同じ性格

皆同じ顔、性格になる理由は一番美しいといわれているところまで行きつくと皆そうなるから。

マネキン=一番美しい人の姿

王子の考える美しい人=他と違う『何か』を持っている人


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。こちらのサイトで小説を書いている竜馬光司といいます。 感想書かせてもらいます。 この物語を読んで思ったのは、人間が求める究極の美しさとはどちらなんでしょう。 人形の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ