1話
高一の冬、僕は彼女と出会った。とある病院の一室だった。
彼女は来る人に明るく振舞っていた。だから軽い病気で、すぐに退院するだろうと思っていた。実際僕がそうだったから。
でも彼女は退院できなかった。僕より先に入院していたのに、僕が退院する時も彼女はいつもと変わらずお見舞いに来てくれた人に明るく振舞っていた。
それから一年後、高二の冬に彼女の葬儀が行われた。一年間入退院を繰り返していた。僕も葬儀に参加した。遺影の中の彼女は笑顔で、美しかった。彼女は僕のクラスメイトだった。でも、僕にとってはただのクラスメイトでは無かった。
彼女と出会い、彼女が死ぬまでの約一年は僕の人生の中で最も素晴らしく、かけがえのない一年だった。
僕は入院をした。でも重い病気とかじゃなく検査入院だった。高一の冬休みの事だ。
まぁ別に冬休みに友達と何かしようとか思っていないし、そもそも友達のいない僕には数日の入院なんか苦じゃ無かった。
「変な病気、見つからなければいいけど……」
病室に行くまでの廊下は肌寒く肌に刺さるようだった。
しばらく歩くと部屋の前に着いた。
「ここがあなたの部屋です。他の患者さんもいるけど、君は大人しそうだから、心配いらないかもね」
部屋の上には、僕の名前の札があった。でも、僕の名前の他にもう一つ目に付く名前があった。
早見冬華 それは、入院しているクラスメイトの名前だった。
何でも彼女は重い病気にかかっているらしく、入退院を繰り返していた。学校ではとても明るく振舞っている可愛らしい子だが、学校を休む日も少なくは無い。
僕にはあんまり接点のない子だから、名前も覚えられていないかもしれない。
別にこの子に限らず、あまり人と接して生きてこなかった僕は本ばかりを読んで過ごしていた。
僕はベットに横になると、隣のカーテンが、ガラガラと開いた。
「あれ?君って同じクラスの?」
「そう、なんか検査入院することになってね」
「そうなんだ。私の名前知ってる?」
「知ってるよ。早見冬華さんだよね」
「わっ!覚えててくれたんだ!嬉しい!」
彼女は病気とは思えないくらい、明るかった。
初めて話したが、僕もあんまり緊張しなかった。おそらく彼女の何が僕を安心させたんだろう。
「ねねっ!君はさいつまで入院してるの?」
「僕は、とりあえず二日。明後日まで」
「えっ!?本当!?私もその日に退院出来るんだ!」
彼女の退院とはおそらく、本当の退院ではないのだろう。それでも彼女は帰れる事がどれ程嬉しく、再度入院する事がどれ程辛いか分かっているはずだ。
「そういえばさ、早見さんってどこの病気なの?こんな事書いていいのかわからないけど……」
早見さんは少し、んっ?って顔をして話し始めた。
「私の病気はね、心臓の病気。生まれつき悪かったんだけど、ここ最近悪化しちゃったんだ」
「……心臓」
「それから君には伝えとく。実は私の命は後一年くらいで終わっちゃいます。来年のこの時期には、お陀仏です」
彼女は冗談っぽく言った。果たしてそれが、本当なのか嘘なのか、僕にはすぐ理解できた。
「他の人には言ってないの?」
「知ってるのは、親と私と君だけかな」
「どうしてそんな事を僕に……」
「どうしてかな。うーん……死ぬ間際に教えてあげよう!」
「冗談になってないよ。それ……」
彼女はケタケタ笑った。
「だからさ。君には、私の残りの人生私が精一杯楽しめるように手伝っておう!」
「手伝い……?」
彼女の人生を楽しませる手伝い?
「何で僕なの?」
「それもまだ言う時じゃないな〜。いつか教えてあげるからさ!」