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他人からの評価を気にするとき

「またやっちゃったよ。はぁ〜」


加藤(かとう) 敏之(としゆき)は先月、新しい職場に転職したばかり。転職先に選んだのはモノガタ総合病院の医療事務。患者のカルテ作成や点数計算、各科にカルテを持ち運ぶのが主な業務だ。もともと飲食店に勤めていた加藤は全く違う分野に戸惑い、よくミスを起こしていた。


ある先輩は気にすることはない、仕事に失敗はつきもの。やったことないのだから出来なくて当たり前だよと励ましてくれていた。


しかし、加藤は落ち込みを隠せなかった。


自分のせいで教育係、武田(たけだ) 勇大(ゆうだい)の面目が丸潰れになってしまっていると感じていたからである。


あんなに丁寧に教えてくれているのに、自分のせいで仕事ができないやつだと思われているかもしれない。そう思うと落ち込まずにはいられなかった。


武田はそんなことを何一つ漏らさず、愛想よく教育し続けてくれていた。


だが、結果を出そうと焦るほど、加藤は失敗を繰り返してしまう。

武田も他の先輩も焦らずじっくり覚えていけばいいと言ってくれるも加藤の焦りは日に日に増していくばかりであった。



そんな時、問題が起きた。それは深夜、加藤が一人で当直業務を行っている時だった。急患できた再診患者のカルテを探し出すのに相当の時間がかかっていた。そのカルテはイレギュラーな場所に置いてあり、探しにくかった状況にあったことには変わりはない。


だが、医師もカルテがなくては診察することが出来ない。

痺れを切らした医師は看護師に催促をし、看護師は加藤に「まだなの!!」とイライラしながら催促した。患者が来て、かれこれ二十分近くが経過したさらに十分ほどが経過してようやくカルテを持ち出すことができていた。


このことにイライラを抑えきれなかった看護師はこの一件が終わった後も、一日中、執拗に加藤のことを非難し続けていた。加藤は地面に顔がつきそうなほど落ち込んだ。他の先輩はいつものようにフォローした。気にするな、と。



しかしそれからというもの、加藤はいつにも増して失敗を重ねるようになってきていた。あの日の一件がどうも忘れられず、極度の緊張から失敗を起こしてしまうのだ。次は失敗してはならないという気持ちが負のスパイラルを呼び込む。だが、加藤はまたしても失敗してしまう。次の研修で武田と二人きりになった時、加藤は弱音に似た助けを求めた。


「いつもすみません。私のせいで評価を傷つけてしまって…。失敗ばかりで…限界が近づいてきました。私にはこの仕事は向いていないのだと思います。もう嫌になります…」


「どうしてそう思う?」

武田は聞き返した。


「失敗ばかりしてしまうからです。きっとあの看護師も私のことを使えない人間だと思っていますよ。そう思われるのは辛いです。でも、仕方がないですよね。失敗ばかりしてしまいますから」


加藤はすっかりと自信を失っている。

武田は淡々と聞き返した。

「なぜ失敗してしまうのかな?」


「なぜってわかりません。わかったら僕も失敗していませんから。仕事ができないんですよ」


「そうか」






「気にし過ぎなんだよ」

武田は静かに間をおいて語り掛ける。


「それは他の先輩にもよく言われています。でも、気にしないようにしていても失敗してしまうんです」


「俺が言いたい気にしないってのはさ、仕事をミスしたことじゃなくて…人」


「人?」

加藤には見当もつかない返答に不思議そうな顔をした。武田は続ける。


「そう、人。加藤を見ていて思うのだが、人からの目を気にしすぎているように思える。


人の目を気にして失敗しないようにと極度に意識、緊張するから余裕が持てなくなる。視野が狭くなる。


そうなれば、失敗するリスクも高まるってものさ。


そして、今加藤は自分で自分を追い込んでいる。失敗をすれば怯え、怯えるから失敗をする。という負のスパイラルにな。そうやってどん底へ陥っていっているように思うよ。


それを救う方法はたった一つしかない。


人からどう思われようと関係ない、他人からの評価は気にしない。と思うことだ」


確かに加藤には思い当たる節がいくつかあった。加藤はいつも他人の評価を気にしてビクビクしてしまう。だが、気にしなくなったところでできるようになるのか?そこで、思わず我を忘れてこう聞いてしまった。

「でも、それで仕事ができるようになるんですか?」


「いや、ならない」


「ええ!?じゃあやっぱり意味がないじゃないですか」

意外な返答に思わず、立場を飛び越えた言い方になってしまう。


「できなきゃできないでいいんだよ。意識が変わったからってできないことが急にできるようになることはない。できないものはできるようになるまで、ひたすら努力して学び続けるしかないんだ。だけど、人の目を気にしてできないことが恥ずかしいと思うようになれば、隠そうとするだろ?それは学びとは言えない。


負のスパイラルに陥っている時も同様だ。どんよりとした気持ちになっているだけで、何も学んでいない。まずは、学び環境を身につけるためにも、他人の目は気にしない意識を植え付けることだ。


他人の目なんて関係ない。大切なのは自分がその失敗から何を学び次に活かせるかだ。


他人からよく思われようなんて全くいらん考えだよ。常に自分に焦点を合わせろ。

何を学びどう成長したかだ。できないことは仕方ない。そこでどう思われるだろうかなどと気にするくらいなら、今はこのレベルの物事ができないのだな。と自分の立ち位置をよく確認しろ。


それができるようになれば、自然とできるやつになっていくはずだよ」

武田が熱っぽく語るその熱量を加藤は感じ取り、これからは気にしないようにすると約束を交わした。


それから加藤は失敗してもめげなくなり、すくすくと成長を遂げていった。




人からどう思われているのだろうか。またよく思われたいという想いを抱き続ければ、たちまち疲弊してしまうことだろう。人にビクビクして他人の評価を気にすることをやめよう。


他人からどう思われていたとしても良いではないか。大切なのは自分がそのことに関して何を感じ、学んだかだ。


できなかった物事があった場合。できないやつだと思われたら…と思うのではなく、自分はこの点ができないのだな。と、そのことを受け入れればいい。


他人からの評価は気にしないこと。この点は自分が他の何かを選択するときにも役に立つ。自分が実行したことにいちいち他人からの評価や目を気にしていたら、一歩も踏み出せなくなる。それよりも自分の心の声を大切にしよう。自分がやりたいと思えば、他人の評価など気にせずやったらいいのである。

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