帰省
三十分くらいで書いているので誤字脱字があるかも知れません。すみません。
雪の降りしきる中、彼は帰ってきた。三年ぶりに見る彼は最後に見た時と変わらない姿で、思わず笑ってしまう。
子供みたいな顔に、少しパーマのかかった黒髪。青いマフラーは三年前にも同じものを着けていた。コートと鞄も同じだ。
私はいつも通り、彼に声をかけた。
「やあ、久しぶり」
彼は何も言わず、柔らかい笑みを浮かべた。私は彼の、こんな緩い表情が嫌いではない。
「久しぶりだね。三年ぶりかな」
彼の声は、少しだけ低くなっていた。
「去年も一昨年も来なかったから、今年も来ないかと思ってたんだよ」
「悪いな。俺ももう社会人だからさ、仕事の予定がなかなか合わないんだよ」
彼はそう言って、右手に持っていた箱を私の前に置いた。
「ほら、ショートケーキ。お前甘い物好きだっただろ?」
「今でも大好きたよ」
チョコレートと生クリームは、私の大好物だ。
「前までは手ぶらだったけどさ、今年は給料でこんなものも買ってこれたよ。俺もちょっとは成長しただろ?」
「そう? 君はあんまり変わってない気がするな」
この街やここからの眺めはだいぶ変わってしまったけれど、彼は昔と何も変わっていない。
そして、私も。
「お、雪だ」
空を見上げると、雪が綿のように降ってきていた。
「今日はホワイトクリスマスだ」
「そうだね」
「なあ、覚えてるか? お寺で雪遊びした時のこと」
「あー、あれね。もちろん覚えてるよ」
たしか、もう十五年くらい前の話だ。あの頃私たちは、まだ小学生だった。
「雪合戦してたら、参拝客に雪玉が当たってな。それでお寺のオジサンに大目玉もらってさ」
「そのとき、たしか君は泣いてたよね。ごめんなさいー、って。あれは今思い出すと笑えるな」
「それで家に帰ってからも、母さんから怒られ、お前んとこのおばさんにも怒られてさ。二人でたんこぶ二つづつ作ってさ」
「あれは強烈だったねえ」
「でもその後、近所のおばさんからショートケーキ貰ってさ。二人で食べたじゃん?」
「お隣のサトウさんだっけ? よくパンとかくれたよね」
「いちごの取り合いになって、お前と喧嘩してさ…………ダメだ、いかんな」
彼は口元をマフラーで隠して、俯いた。声は震えていた。
「折角会いに来たのに、情けないな。こんなんだからお前に泣き虫って言われるんだよ、俺は」
「…………そーたね」
彼は顔を上げると、空に白い息を吐いた。そして、いつも通りの、優しい声で言った。
「もう一回会いたいな、アオイ」
「……私もせめてダイちゃんとお話できればなあ」
彼は、私の前で泣いた。声を上げて、周りの人が見ていても、それでも泣いた。彼は昔から泣き虫なのだ。私に会いに来る度に、こうして思い出話をして、結局は泣いてしまう。
まあ、それも、仕方の無い事だとは思う。私だって悲しい。
私はもう、ダイちゃんとは会えないのだから。
「ごめんな、また泣いちゃったよ。情ねえよなこんなの…………」
「そんなことないよ。私はダイちゃんを見れるだけで嬉しいよ」
「…………また、来るから。直ぐに会いに来るから。その時は――
彼は顔を上げて、言った。
「その時は、泣かないから」
「うん。待ってるよ」
彼は涙を拭うと、「じゃあね」と小さく行って、足早に去って行った。
「…………じゃあね」
彼の背中が遠ざかっていく。代わりに、何とも言えない気持ちがこみ上げてくる。
ショートケーキと私の墓石には、早くも雪が積もり始めていた。
今夜は冷えそうだ。
できればご感想、お願いします。読んでいただきありがとうございました。