初デートは前途多難
久々の更新です!
はぁ
雪乃はため息をついた。
目の前の学級日誌を埋めつつも心はそこにない。
昨日はあれから客間に案内された。
黒と白を基調に整えられた家具は趣味も質も良いもので、正直あいつには宝の持ち腐れだと思う。
荷物を取りに行きたいと言ったら、こんな遅くに危ないからと言って斎藤の使用人が学校に行くのに困らない分だけ持ってきてくれた。
他の荷物は後で持ってきてくれ、雪乃の部屋として当てがう予定の部屋に置いといてくれるらしい。
さすがに荷物くらい自分で取りに行くし、
客間で十分だと言って断ろうとしたら、
あいつは
「あのオンボロアパートについていくのだるいからいいし、客間はお前にもったいねーよ」
とかぬかしやがった。
ボキッとペンが折れる音に雪乃はハッとする。
思い出したら怒りが再熱し指先に力がこもってしまったらしい。
ペンだってお金がかかるのにもったいないことをした。
またため息をこぼすとさやかが心配そうに顔をのぞかせた。
「雪乃どーしたの?
さっきからため息ばっかだし、ペンは折るし」
「んーまあ、ちょっとね」
まさか、大っ嫌いなあいつの彼女役をすることになりました! なんて言えるわけない。
雪乃は適当に誤魔化すとさやかは心配顔をニヤリとしたいたずらっ子の笑みには変えた。
「何? とうとう『森野学園の王子』と付き合うことにした??」
「えっ……」
普段なら揶揄われただけだって分かるのに
普段より冷静さを失っていた雪乃は当てられたことに動揺してしまった。
雪乃の動揺にさやかは目をぱちくりさせた後、
パァァアという効果音がつきそうな勢いで嬉しそうに声を上げた。
「え!? 本当に!? どういうことよ! 雪乃!」
「やー彼氏っていうか……彼氏や……」
「さやか、俺の彼女苛めんないでくれる?」
問い積まれ、居た堪れなさに思わず本当の事を話そうとした雪乃の声に今一番聞きたくない声が重ねられた。
げ……
後ろを振り向くとこめかみをピクピクとさせた引きつった笑顔を浮かべた斎藤夏樹がいた。
何本当のこと言おうとしてんの?
と顔にありありと書いてある。
器用だなと感心していると、
さやかは一際甲高い声を上げた。
「え! マジなんだ!! おめでとう!! 斎藤」
「…ありがと」
さやかの祝福の言葉に斎藤はなぜかどこか遠い目をした。
……て、ちょっと待って?
これって公認カップルになってしまうのでは!?
ハッとして周りにも意識を配ると
「付き合ってんの? あの二人??」
「ぜってー無理だと思ったのに」
「マジかよ、あの『氷姫』が……!?」
「負けたー!! 俺の懐が寂しくなる……!」
最後のセリフは謎だが、
誰もが皆驚愕してる。
特に女子の目線が厳しい。
「ちょっと! さやか声大きい!!」
とさやかを軽く窘め、
斎藤の彼女役は牽制相手だけでいいじゃない!
わざわざみんなに知らしめなくても!
という意味を含めてきっと睨む。
しかし、斎藤は意地の悪い笑みを浮かべた。
「今日部活休みだし一緒に帰ろ」
悪魔の提案に弱味を握られている雪乃は了承する他に道はなかった。