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カップル(仮)の成立 2

「お疲れ様でした〜!」


雪乃は裏から出た。

季節は7月。

梅雨が明けたばかりで、

空気はジメジメとしていた。


今日は危なかった。

雪乃はため息をつく


なぜあんなところに斉藤がいるのだ。

しかも、他三人はバスケ部だ。

あの四人が帰るまで生きた心地がしなかった。


明日なにか言われたらどう切り抜けるか…

しらを切ろう!

「お疲れ様。川瀬」

「ーっ!」

雪乃の心臓は飛び跳ねた。


料理店の前で斎藤がニヤリと笑っていた





**


「……」

「……」

まずい。非常にまずい事態だ。

死刑宣告を告げられる瞬間の囚人の気分だった

雪乃は目の前にあるカフェオレを落ち着きなくスプーンでかき回した。


目の前には斎藤夏樹が何処か不機嫌そうにコーヒーを飲んでいる。


あの後、斎藤にここで話をすると学校の人がいるかもしれないからと高級マンションの一室に連行された。

どうやらそこは斎藤の家らしい。

私の今のアパートが3つは入りそうなほどの大きさの家に一人暮らしということは、

斎藤は相当な金持ちらしい。

以前、社長の息子と聞いたことがある。

あの噂は本当なのかもしれない。


しかし、今の問題はそんなところではない。

料理店の従業員専用の出入り口がある裏から出たのを

ばっちり見られてしまった。

ごまかしようがない。





斎藤は話し出す気配はない。

こうなったら敵といえども協力者にするしかない。

先手必勝だ!!

「秘密にしてくれる?」


斎藤はまゆ一つ動かすことなく

黙ったままだ。

何か言ってよ!



その気配を察したのか夏樹は徐ろに口を開いた。

「まず教えてもらっていいか?」


いつもだったら何であんたなんかに!

ばっかじゃないの?

と声を上げているところだろう。

しかし、今はこっちの分が悪い。

「…5月にうちの会社は倒産したの」

「…」

「会社の経営で多額の借金を抱えてて、

父と母は住み込みで外で仕事してるの。

別会社に就職してる兄が援助はしてくれるんだけど…学費がね」


「両親住み込みって、一人暮らし?」

「そうだけど?」

それがなにか?

斎藤は盛大なため息をついた。


「あのさおまえ危機感なさすぎ」

「なにそれ、別にあるし。」

斎藤の言い方にムッとする。

帰りはなるべく明るい道を通ってるし、

護身術に合気道をやっていた。


「じゃあさ、なに部屋に連れ込まれてるわけ?」

「なにいってんの?」

雪乃は斎藤を見返した。

「あのさ、俺ここで一人暮らしなんだけど?

襲われても文句言えないよ」

「ーっ!!」

言葉の意味を理解した雪乃は顔を朱色に染めた。

斎藤はどこか残念そうにため息をついた。

「危機感もてよ。」

「十分あるし、

そもそもなんであんたにそんなこと言われなきゃいけないわけ?」


「ここに住めよ」


「…………………………………は?」


一瞬思考が停止した。

今の流れで何故そうなった?

そもそもこいつと暮らす意味がわからない


「あんなボロアパートに住ませられない。

家賃は家事やってくれるならいらないから」

悪かったね!ボロアパートで!


「なんで知ってるの?」

「お前待ってる間に調べてもらった。」

さも当たり前のようにいう斎藤にここで誰に?

といえば、絶対に後悔するとなんとなく感じ、

代わりにダメ押しで尋ねた。

「斉藤のご両親は?

さすがにダメって言うでしょ?」


「両親は海外。

空き部屋はあるから問題ない」


いやいやいや

問題あるだろ!!

年頃の男女が一つ屋根の下っていうのは良くないだろ!!

不満を顔に出すと斉藤は畳み掛けた。

「それに、おまえの兄貴の負担も減るだろう?」


「ーうっ!」

そうですとも。

私の兄は8歳上の24歳。

いくらエリートと言ってもまだ入社2年の新入社員だ。

収入はそこまでない。

正直このまま頼り続けることはできないのだ。

だけど、一緒に暮らす意味がわからない。

しかし、

斎藤の部屋は見たところ余計なものはなく綺麗に片付いている。

私を住まわせてまで、家事をやってもらうほど困ってなさそうなのに…

雪乃には斉藤の目的がわからなかった


「たけど、やってもらいたいことがある。」

やってもらいたいこと?

首をかしげるととんでもない言葉が出てきた。

「とりあえず付き合って」

「は?」

思わず声を上げる

意味がわからない。

なんで付き合う話になるんだ。

「最近、しつこい奴がいるから。

牽制してほしい」

斉藤の言葉に雪乃は一人納得した

なるほどね。この牽制役が欲しかったのか。

雪乃なら斉藤の周りにいる女子みたいに本当に付き合ってと迫ることもない。

しかも、弱みを握っているから、

周りにバラすこともないのだ。

嘘の彼女としてはその点では適任だ。


だけどだ。それ以前の大問題をこいつは忘れていないか?

「お断りします」

「なんで」

「あのね、わたしはあんたから主席をもぎ取ろうとしてんの!

敵でしょ!これはみんな知ってることだし

どう考えても付き合うっておかしいでしょ」

「あの料理店の倍はだすけど?」

「…」

「第一、夜10時までバイトしてそこから勉強だろ?

それより、俺のバイトにした方が勉強時間も確保できる

利用できるもの利用したら?

俺から一位取るんだろ?」

「… 」

こいつの口車に乗るのがすごく不快。

さっきから問題点を挙げてもそれを話題にしようとしない。

その上、雪乃が黙り込む材料を持ってくる。

少しイライラしつつ、

金勘定だけを考える自分がいた。

条件はいいのだ。

破格だ。高校生でこんないいバイトはない。

まぁ、こいつが出せるのが謎だけど、

こんないいところに住んでるってことは

金持ちなのだろう。


「…わかった

だけど、本当にどうするの?

騙せると思えないんだけど」


「その点は大丈夫だろ」


何がだ!!

雪乃は呆れて溜息をついた。


そんな雪乃の様子に斎藤は嬉しそうに口角を上げ目を細めた




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