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カップル(仮)の成立1

「雪乃は彼氏つくらないの?」


小学校からの幼馴染である木村さやかは

唐突にそんなことを口にした。


川瀬雪乃はそんなさやかの言葉にたいして反応することなく学級日誌を書き続ける。

時計は既に15:28を差している。

後2分で仕上げなければならなかった。

じゃないと、あいつにまた嫌味言われる。


「必要性を感じない。」

「はぁ!?」

目を向けずにそれだけ言うとさやかはありえないと言わんばかりに声をあげた。


「時間ないし」

「終わってるわ…あんた。」

さやかは諦めたように

わざとらしくため息をついた。

終わってると言われても

今は本当にそんな余裕はないのだ。


「好きな人はいないわけ?」

「もちろん」

「…初恋は?」

「そもそも男子にときめいたことがない」


「マジで?」

一際大きい声が放課後のほとんどの人が帰った教室内で響いた。

「ちょっと声大きい!」

「何の話してんの?」


雪乃が焦って咎めると背後から少し深みのある低めな声がかかた。

何でこのタイミング…

背後には斎藤夏樹がいた。

芸能人顔負けのルックスと

スタイルを持つだけでなく、

学年出席でバスケ部のエースなのだ。

通称【森野学園の王子】

ファンクラブは他校も加入していて、

1000人規模だという。


そんな彼はわたしにとって敵だ。


わたしの家は勉強に厳しく、

この全国でも有数な進学校である森野学園で主席を取ることを期待されていたが、

斎藤に主席を取られた。

しかも、斎藤はなんだかんだで雪乃に突っかかってくるのだ。


こいつに彼氏がいない歴=年齢がバレれば

馬鹿にされるに決まってる。

恋愛に興味はないが馬鹿にされるのは嫌なので

追求されないために敢えて冷たい態度をとる。

「何の用?」

「学級日誌」

「ちょっと待ってて」

雪乃は急いで記入欄をうめると手渡した。

学級日誌を書くのが雪乃、職員室で手渡すのが斎藤

放課後はなるべく早く帰りたい雪乃から申し出た

学級委員の仕事の役割分担だ。


「本当とろいな。

部活に遅刻するんだけど?」

「この間斎藤が先輩に怒られてたのは

そのあと喋ってたからだけどね」

いつものことだがとろいといわれて

ムッとしていいかえすと、

斎藤は眉を顰めた。

「なんで知ってんの」

「やっぱりそうなんだ。いい気味」

「うっせぇな」

斎藤はあからさまに嫌そうな顔をした。

今回の勝負は私の勝ちだ。

斎藤の様子に雪乃はにんまりと笑みをうかべた。


さやかはそんな二人の様子をニマニマしながら眺めていた。

居心地が悪い…

「相変わらず仲良いねー

付き合っちゃえば?」

「ーっなにいってんだよ!?」

「そうよ。

大体どこをどうみたら仲良く見えるわけ?

こいつはただのライバルだから」

真っ赤な顔をした斎藤を横に雪乃が淡々と言い放つと

斎藤はがっくりとそうだよなと項垂れた。


さやかはまだニヤニヤした顔を引き締めることなく続けた。

「えーダメなの?いいじゃん。スペック高いし」

「そういう問題じゃないし」

「このままじゃ高校生活終わっちゃうよ?」

「そんな暇ない」

「えー!雪乃のファンが最近しつこいから

誰か雪乃を守ってくれる人がいないと困る」


「ーっ何だそれ!?」

さやかの言葉に斎藤は大きな声をあげて、

雪乃の肩を力強く掴む。

「痛い。」

「ごめん」

雪乃が抗議するとすまなそうに手を緩めた。

「さやかの顧客が協力しろってうるさいだけだって」

「本当か?」

斎藤はジロリと疑うようにさやかを見ると、

さやかはふふと笑って軽い調子で返した。

「そんなとこ。

そういうの断ってるのにね」

さやかの言葉を聞き、斎藤は手を離した。



ちなみに顧客というのはさやかが趣味でしている。

イケメンや可愛い子の写真の販売の買い手だ。

そういえば、

その収入の5割はくれるって約束なのにまだ貰っていない。

「さやか、ところであの5割は?」

冷たい笑みを浮かべて尋ねると

さやかの目が泳ぐ。

こいつ…誤魔化す気だな!?


「ーってか、雪乃そろそろじゃない?」

わざとらしいさやかに言われて腕時計をみる

15:30をすでに過ぎていた。

遅刻だ!

追求は今度にするか

雪乃は急いで教室を駆け出した。







**


「お待たせしました。

ナポリタンスパゲティとチーズピザです。」

雪乃はにっこり微笑みながら

机に二つの料理を置いた。



「雪乃ちゃんがんばるね」

裏方に戻ると50代過ぎの恰幅のいい店長が労った。


雪乃は今、個人経営のイタリア料理店でアルバイトをしていた。

だけどこれは絶対にバレてはいけない。

というのも…

森野学園はバイトは禁止されているからだ。


両親の会社が倒産して社長令嬢から借金持ちの苦学生になってしまったのだ。

大きな家で贅沢な暮らしから一変して、

今は両親が住み込みで外で働いているので一畳間のボロアパートで一人暮らし。

しかもその生活費は他会社にエリート社員として入社した兄もちだ。

しかし、生活はそれでどうにかなっているものの、

学費は兄の支援では足りなかった。

なぜなら、森野学園の学費は普通の学校の倍だ。

学年2位である雪乃は特待生として授業料は免除されていたが、

設備費だけでも他の学校の学費と同等なのだ。

経済的にはもっと学費がかからない都立に転向すればいいのだが…

折角苦労して入った学校だ。

ここで辞めたくはない。

そういうわけで、雪乃は秘密でバイトをしていた。



次はこれよろしくと店長に4皿分の料理を渡され、

座席番号からその席を確認すると

大学生から高校生くらいの男子4人グループの席だ

この店に来るのは社会人である20代後半から50代が多い

「お待たせしましーっ!」

珍しいなと思いつつ、座席まで行くと雪乃は絶句した。


そこには絶対に弱みを握られたくない相手、

斎藤夏樹がいたのだ。

夏樹はまじまじと雪乃を見ている気がする。


落ち着けわたし。

雪乃は動揺を抑えた。

今の雪乃は学校の姿とはかなり違う。


学校では化粧っ気はなく髪は結ぶことはない。

しかし今は厚めの化粧と黒の眼鏡、

下に引っ詰めただけの髪で地味目な20代には見える

ばれるわけがない。

夏樹の視線は気のせいだ!


射抜くような視線を感じつつ、

手が僅かに震えながら料理を置くとすぐに厨房へ逃げ込んだ。



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