優しさライセンス
この世界では人一人に必ず『優しさ認証章』という物が配られている。
これは普段の行いや通常の生活をする上で自動的に貯まり、善行をすればさらに貯まる仕組みとなっている、このライセンスに貯まるポイントによって人々は生活する上で物品を購入や公共での物々の利用を行うのである。
だが、恐ろしい事にこのライセンスのポイントが無くなると悪人と見なされてを死刑となるのだ、現にそれぞれの街の中央には見せしめとして斬首台が設置されている広場がある。
そしてこれはそれに巻き込まれる不運な心優しい男の物語だ。
「さてと、それじゃあ行ってきます。」
家の玄関口から出てきた男の名前は優男、この街ではかなりの善行ポイントの持ち主だ。
普段から人助けや礼儀正しさから、かなりのポイントを獲得しているため有名である。
「よーし、今日も善い行いをするぞー!」
こうして、その優男の悲劇の最後の一日が始まるのだった。
「あっ、おじいさんが道を渡れそうにないな! 助けないと。」
彼は困ってる人見かけると、すぐに後先考えずに行動する。そういうことも含めて善行がかなり貯め込んでいるようだ。
そして颯爽とおじいさんの下へと駆けつけた優男。道を渡れず戸惑っているおじいさんを一緒にゆっくりと道を渡ってあげたのだった。
「いやぁ、若ぇ者ぉ。ありがとよぉ......」
「いやいや、良いんですよ僕は当然のことをしただけですから!」
おじいさんは礼をし去っていくと服の胸ポケットに仕舞い込んでいるカードから音が鳴り出した。
「ぴんぽーん、貴方は善い行いをしました。ポイントGETです! おめでとうございます。」
「うーん、別に当然のことをしただけなんだけどなぁ。まぁ、貰えるならそのほうがいいか!」
彼はあまり『優しさ認証章』に固執していて善い行いをしている訳では無かった。
その人の人柄と言った物だろう。
「おーい、優男ぉー。すまねー、ちょっといいかー!」
遠くから呼ぶ声、あれは僕の友人だ。僕の下へと駆け寄ってきた。
「はぁはぁはぁ、実はよ、お前に相談があって......俺のおや、親父が事故で手術になったんだがポイントが足らなくて困ってるんだ......こんなこと頼めるのお前しかいなくてよ、頼むポイントを分けてくれないか!」
この優しさ認証章の善行ポイントは人に譲渡する事ができる、元は家族間での掛け合いのためのシステムらしい。
「そ、それは大変だ、うん大丈夫だよ! 僕のポイントを分けてあげるよ!」
「ありがとう......ありがとう......!俺、絶対返すから......お前の為に頑張るから......。」
そして友人は親父さんの手術が行われるのだろう、急いで来た道を戻っていった。
当然ポイントは貯まらない、優しさで善い行いはあるがそれはあくまでポイントの譲渡なのだから。
「あれポイント貯まらないな、まぁ別にいいか。良かった、これで友人の伯父さんも大丈夫かな?」
そして僕はまた助けを求める人や善い行いをする為に外を散策し始めた。
「おい、こらぁ糞ガキぃ!てめぇ人様の大事な服によくも汚してくれたな? ああ!?」
「うわあああああん、ママー!」
どうやら遊び泥んこな子供が綺麗なスーツを着た大人の男にぶつかって汚してしまったようだ。
「ちょっと待ってください、この子まだ子供じゃないですか。」
僕はその場で割って入っていった。
「ああん? 誰だ、てめぇは。まぁいい、じゃあお前がこの服弁償しろよ。」
「うわあああああん、ママー怖いよー。」
子供が怯えてる、ここは僕が助けてあげないと。
「わかりました、何ポイントですか?」
「お、おう、払うんのか、んじゃ600000ポイントだ払えるのか!?」
「はい。」
そういって彼のライセンスに言われたポイントを譲渡した。
「お、すげぇな良しこれなら良いだろう。ったく運がいいな餓鬼。俺はさっさと服を買いなおさねぇとな。」
男は用件を済ますと満足したように去っていった。
また胸ポケットにしまってあるライセンスが音を出しながらアナウンスをしてきた。
「ぴんぽーん、貴方は善い行いをしました。ポイントGETです! おめでとうございます。」
今回は子供を助けた事になったから増えたのだろう、だがその優男に取っては譲渡したポイントに比べれば微々たる物だった。
「よしよし、僕? もう大丈夫だよ、怖いおじさんはいないから。」
「うええええん、ママー。」
すると子供は向こう側の通りかかった女性のところへと駆け出した、おそらくママと会えたのだろう。
「よしよし、今日も善い事できてるなー。」
きゃああああああ―――――突然と聞こえてくる街の喧騒の中からの悲鳴。
辺りを見回すと、ナイフを持った男が何かのお店の前で女性を人質に取って叫んでる。
「うわああああ俺はもうポイントが無いから、どうせ死刑なんだああああ。道連れにしてやるお前らああああ。」
どうやら優しさ認証章のポイントが0になってしまったのだろう、彼は錯乱しているようだった。
僕は急いでその男の下へと走り寄って語りかけた。
「待ってください、僕のポイントを分けるのでその女性を放して、こんな馬鹿な事をやめてください!」
「何だ糞ガキ、てめぇがポイントくれるのか本当か!?なら頼む、頼む、そしたら俺はこんな真似やめるから!」
「わかりました。」
僕は急いで彼のライセンスにポイントを譲渡した、0の状態からのあの悪行でマイナスまでポイントが到達していたが僕はプラスまで持っていき安定するようにと多めに渡した。
「あ、ありがとう、坊主! あ、ありがとう、ありがとう…。」
騒動を起した本人は警察が現れて連行されるまで、ひたすら僕に感謝の言葉を述べてくれた。
「うんうん、やっぱり善いことすると気持ちがいいな!」
突然として胸ポケットから2種類のアナウンスが流れた。
「ぴんぽーん、貴方は善い行いをしました。ポイントGETです! おめでとうございます。」
「警告です、貴方はポイント残量が少なくなってきました。警告です。」
どうやら少しポイントを渡しすぎたようだった。
「うーん、まぁいいかおじさんも救えて女の人も助かったし他の人にも怪我が無くてよかった。」
「おーい、優男ぉー。お前すげぇなマジあんなことできるのスゲー。」
僕に声を掛けてきたのは学校でも不良で有名な不良君だ。
「ああ、不良君。こんにちは、見てたんだ。何だか恥ずかしいな、あはは。」
「いやいや、すげーよお前まじで!あのさ俺にもポイント分けてくれねーか!実は困ったことに仲間が怪我しちまってよ。皆から集めてるんだけど、お前からも頼む、貸してくれ!」
「それは大変だね、うん今はもう手持ち少ないけど助けになるなら使ってよ。」
そう言って優男は今持っている残り少ないポイントを全て不良にあげたのだった。
「ありがとよ!いつか返すから、ありがとうな。じゃあな。」
急いで彼は去っていった。
「ふうー今日はたくさんの善い事ができてよかったな。」
僕が満足していると突然警報が鳴り出したと同時に優しさ認証章からアナウンスが流れた。
「びびー。貴方のポイントはゼロです、何かの間違いでは無ければすぐにポイントを補充してください。でないと死刑だからよろしこ。」
僕はアナウンスの死刑と言う言葉に少し冷やりとしたが、少しでも善い行いをすればゼロでは無くなるから特に気にする必要も無いと考えた。
「よーし、なら続けて善い行いをするぞー!」
そしてあれから街を散策するも誰も困ってる人は見当たらず、すでに日が暮れ始めてきた。
「びびー、警告です。もう貴方に猶予はありません。今日中にポイントを入手できなければ死刑です。」
「ええっと、どうしようやばいかな、もっと探してみよう。」
優男は夜にまでなっても誰も助けれる人を見つけれなかった。
「貴方は悪人として認定されました、明日を持ってとして死刑を決行します。朝に委員会の方が来ますので、指示にしたがってください。」
僕は家のソファに座り何をすることなく上の空だった。死刑が決定されてしまった。
朝になるまで僕は動けないでソファの上に座っていた。
そして日が昇り始め家のインターホンが鳴る音がした、僕を迎えに来たのだろう。
「入らせて貰おう、君が優男くんだね。それでは中央の斬首台へと行こうか。」
僕は何も答えれなかった。
数人掛りで連れてこられ、そして街の中央にある斬首台へと首を固定された。
「この物はポイントがゼロとなり悪人となった者だ。今から悪人の末路と言うものを見せしめるため、この場で死刑を執り行なう。」
街のほとんどの人が今この場に集まっているのだろう、広場は埋め尽くされて僕の死刑を見に来たのだろう。
「それでは現時刻を持って―――――――」
「待ってください!」
突如と上げられた声に執行人は制止した、その人物は僕の友人だった。
「そいつは善い奴なんです、俺の親父の手術ポイントが足りなくて昨日だって譲渡してくれたんです!」
「ふん、悪人を助けるための悪知恵か? そんな物は通じんポイントがゼロこれが全てでこれが答えだ。」
「お願いします、どうかなんでもしますから!」
何でもしますとの一言に執行人は眉を顰め動かした。
「ほう、何でもかならば死刑を取り消すライセンスポイントを渡して貰おう。」
「そ、それはそんな俺は昨日親父にポイント足りないから優男から借りたのに......」
「ふん、知れたことではない。できなければ去れ。」
僕の友人はその場で泣き崩れ項垂れた。
「ありがとう友人、もう大丈夫だよ。ちょっと間違えたけど、僕のミスだからね!気にしないで。」
彼はその場でずっと泣いてくれてる、僕はそれだけで今までの善い行いに悔いは無くなった。
「それでは――――」
「待ってくださいな......」
「またか。今度は何だ。」
またもや死刑を執行する寸前で誰かが声を掛けてきた。昨日の道を渡れずに困っていた老人だ。
「大したポイントは持ってねぇが、どうかわしの先短い命を代わりにしてくれねぇか。」
「ふん、老いぼれがポイントが全てだとわかってるだろう。貴様の命なんぞ欲しくは無い、私は正義の下で悪人に捌きを下しているのだ。」
「うぅぅ、悪いなあんちゃん......助けて貰ったのに助けれねぇで......」
老人は悔しそうにその場で僕に謝罪してくれた、また僕は救われた気がした。
「良いんですよ、これからもお身体に気をつけて僕の分まで長生きしてくださいね。」
「それでは死刑を決行する。」
さぁ、僕の命もこれまでか何だか周りが遅く感じる。
あれは昨日の助けた子供か、元気そうだ。
「ママー、あの人何してるのー。」
「こら、貴方は見ちゃだめよ。」
あっちには昨日助けた不良君と仲間達だ。
「あそこで死刑になる奴さ、昨日俺が適当な嘘ぶっこいたらポイントくれたんだよー、あははは。もしかしたらそれで死刑になったかもなー。」
「ええー、不良君めっちゃ悪じゃんかっこいいー、きゃははは。」
うーん、嘘だったんだ、悲しいな。
そして訪れた最後の時、僕は例え死んでも最後の最後まで後悔のない人生を歩んできたと自分を褒めてあげた。
ザシュ
彼はどうして死んでしまったのだろうか、世界で一番優しかったかも知れない彼が。
彼の優しさが間違っていたのか、それとも世界が間違っていたのか、それとも人が間違っていたのか。
誰にもわからない、けど優男は最後まで自分を信じた道を歩み果てた。
これはこれで幸せだったのだろう。
こうして世界に必要とされる人間はいなくなりました。