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真相/深層

 叫び声のした所へ俺たちが駆けつけると、そこには1人の少女が渡り廊下に立っていた…て、落ちるって。

 この中学は正門を入ると手前に旧校舎があり、その奥で新校舎の建設が進んでいた。と言っても新校舎と旧校舎は50メートルくらい距離があるようで、建物を繋げるように渡り廊下が作られていた。少女はその渡り廊下の真ん中に立っていた。

 学校側はこんなことを想定してなかったのだろうか……渡り廊下に壁はなかった。違法じゃないのか?それ。あ、建設途中ならまだ壁はなくて当然か。

 旧校舎が三階建て、新校舎は…四階かな?てことは、少女がいる渡り廊下は…三階のものか。ふと視線を下(俺らがいる1階)に向けると、少女を下から睨むように見つめている中年のおじさんがいた。

 こう言うとただの変態だな……まぁ、普通に考えるなら教師だろうな。つむぐがその変態…中年教師(仮)に近付いて行く。

「おーかーちゃん。」

『お母ちゃん』?………あ、『おかちゃん』か。呼ばれた『おかちゃん』がつむぐの声に気付き首を動かす。顔付きは厳しいままだ。

「おう、交野か。あのなぁ…岡ちゃんって呼ぶな。」

「ごめんごめん。えっと……これはどういう状況?」

 謝る気が無さそうに謝りながらも状況の説明を求める。『岡ちゃん』先生は説明を渋っているようだ。それもそうだろう。もし俺が岡ちゃんの立場だったら卒業生とはいえ部外者に話したりはしないだろう。まぁ、一目瞭然だけど…。

「彼女は……1年の『なんじょうたづき』なんだが………自殺すると言って、さっきから動かないんだ。」

 やっぱり………けど、何かが引っ掛かる。何だろ?つむぐはつむぐで表情が固まっている。仕方ないか。と、岡ちゃんが今俺に気付いたのか俺の方を見てきた。

「君は?」

「あ、えと…つむぐの彼氏……です。」

「おおそうか。あ、そうだ交野。あの子のことを助けてやってくれないか?」

「なんでつむぐに頼むんですか?」

 思わず尋ねていた。岡ちゃんは俺の質問に目を丸くした。

「何でって、そりゃ…こいつならあの子の気持ちを分かってあげられるからだろう。」

「え?どういうことですか?」

「ちょっと岡ちゃん!」

 つむぐの遮りは効果がなかった。俺の耳には岡ちゃんの言葉がハッキリと聞こえた。

「こいつは1年のときに自殺しようとしたんだから。」

 そんな……!つむぐが自殺しようとした?知らなかった。明るい人生を送ってきたものだとばかり……。そこで俺の思考が止まる。知らなかった?本当に?さっき自殺と聞いた時にも引っ掛かっていた……俺は何かを忘れている…何かを……。

「……そうか。」

 思い出した。岡ちゃんは少女、『なんじょうたづき』の説得に戻っていた。ただ、つむぐだけが静かにこちらを見つめる。どこか憂いを帯びていた。

「お前……あのときの…。」

 ゆっくりと首が縦に動く。どこかで会ったことがあるような気がしていた俺。自殺と聞いて引っ掛かっていた俺。二つの俺の記憶が線のように繋がった。俺は、中学のときにこいつと…この交野つむぐと会っていたのだ。


 *********************


 俺が中学を転校して間もない…初日だったような気がする。教室の窓から飛び降りて死ぬと叫んでいた少女…それが、交野つむぐであった。

 あのとき俺は彼女と話したんだ……何を話したかは覚えてないけど、確かに話した。彼女は自殺を踏みとどまり、俺に向かってこう言った

「ありがとう……また会おうね。」

 けれど次の日、俺が学校に行くと彼女の姿はどこにもなく名前すら残っていなかった。友人にその話をすると夢を見たんだと笑われ、日常へと戻っていくに連れて俺は彼女の存在を忘れていった……。


 *********************


「そうか……あのときも、俺はこの世界にいたのか…。」

 つむぐがゆっくりかぶりをふる。

「正確には、私が君の世界にいた。私はあのとき本当にしんどかった、疲れていた、消えてしまいたかった。もしかしたら、その想いが私をあの世界に到らしめたのかもしれない。定かではないけど。でも、私は君に助けられた。これだけは確か。また会えて……本当は駄目なの…駄目だけど……嬉しかった。」

「そう…。」

 つむぐは今にも泣き崩れそうだ。見ていられない。

「だから!だからね?!君のことを…お父さんのことを知ったとき、助けになりたいと思った。だからもしかしたら、」

「もういいよ。」

「…………え?」

 つむぐが顔を上げる。涙で顔はぐじゃぐじゃだ。けれど、その姿はとても美しく見える。そんな彼女に告げる。

「それより、今はあの子を救ってあげよう?つむぐ」

 少しの間目を丸くした交野はすぐに涙を拭い、真剣な表情でうなずく。

「よし、行こう。」

 俺とつむぐは、三階へと続く階段目指して走り始めた。

 

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