到(当)着
「そういえばさぁ……。」
「なに?」
俺たちはまだ中学校への道を歩いていた。
「俺とお前って、会ったことある?」
「はぁ?」
「あ、いや、その……さ、初めて会った気がしないから。」
前にも、あの笑顔を見たことがある……ような気がする。
「そりゃ会ったことはあるでしょ。同じクラスだったんだし。」
「あー……そうじゃなくて、さ。昔?」
「むかし?」
交野が首を少し傾げてみせる。やっぱり可愛いなぁとそれを見て改めて思う。
「そう、むかし……中学生くらいのころ?」
「はぁ…そんなわけないじゃない。馬鹿じゃないの?」
一蹴されてしまった。交野はひたすら歩いている。てか今さらだけど、なんで歩きなんだろう…。自転車っていう選択肢もある……なかったんだろうなぁ。あと、この道知ってるんだけど。
「あのさ、この道って……」
「着いたわよ。」
俺を遮り交野が端的に到着を告げる。
「着いたわよって……ここ。」
俺の目の前にある建物は、まぎれもなく俺の出身中学校だった。
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「さぁ、入りましょう。」
俺の動揺など知らないかのように中へ入ろうとする交野。
「ちょ、ちょっと待てって。」
「もう!今度は何?」
わずらわしそうに尋ねてくる。
「いや、何って……ここは…?」
「あら、説明しなかった?私の母校よ。」
当たり前のように交野が説明する。
「そんなのわかってるよ!俺が聞きたいのは、何でお前の母校と俺の母校が同じなのかってことだよ!」
交野が伏し目がちにこちらを見てくる。ちなみに、元の世界で俺と交野は別の中学校だったはずだ。少しして交野がゆっくり話し始めた。
「…確かに、ここは橘佑紀の母校かもしれないわ……ただし、元の世界のね。」
俺は何も話さず交野の話を聞く。交野もそれに応えるように続ける。
「この世界の君……ユウちゃんは、違う中学出身なの。そう……君が1年生の9月頃までいた中学ね。彼は転校しなかったのよ……何故なら、転校する必要がなかったのだから。」
後ろから鈍器で殴られたような気がした。自分でもよくわからない感情が渦巻いて俺を締め付ける。息が苦しい。
「え、ちょっと!大丈夫?!」
交野の声が聞こえる。周りを見てみると、さっきより少し位置が低い。どうやら、知らないうちに地面に膝をついていたみたいだ。
「お前……やっぱ知ってたんだな、俺のこと。」
立ち上がりながら、大丈夫という答えの代わりに別の質問をする。ほぼ断定だけど。
「えぇ……これで見ただけだけど…。」
そう言って端末を取り出して少しかかげてみせる。そうか、過去、現在、未来がグラフの形で表されてるんだったっけ。そりゃ、俺のことぐらいお見通しか…。
「勝手に覗いてしまってごめんなさい…。」
「いや、いいよ……俺もねちっこいよな。父さんの死からもうすぐ3年が経つっていうのに、いまだに引きずってるんだからさ。」
交野は黙っていた。黙って、目を伏せていた。俺も静かに目を閉じる。今でもあの瞬間を思い出す。
3年前のあの日、父さんと俺は母さんに頼まれたおつかいの帰りだった。途中、寄り道しようとコンビニへ行き、アイスを買い、店先で仲良く食べていた。そこへ……乗用車が突っ込んできたのだ。
父さんは俺を庇って即死、俺は父さんに庇われたこともあってなんとか生きながらえた。
運転手は認知症患者だったため責任能力無しとみなされ執行猶予つきの刑罰となった。周りは誰も俺を責めなかった。けれど俺は自分を責めた。周りが責めなかった分、自分自信を責め続けていた。もうすぐ3年が経つ……そろそろ…
「…前に進まないといけないんだけどな……。」
人に偉そうなこと言えないな。ゆっくり目を開けると交野が隣で俺を待っていてくれた。感謝。
「ありがと……つむぐ。」
自然にそう言うことが出来た。言ったあとで、下の名前で呼んだことに気付いた。
「ううん……。」
思っていた反応と違ったので少し面食らってしまった。
「えっと…じゃ、行くか。」
俺が一歩踏み出す。彼女は動かない。どうかしたのだろうか。そう思っていると
「えっと、ね………その…………。」
彼女の言葉のその先は男性の叫び声にかきけされてしまう。
「馬鹿な真似はよせ!」
聞こえるなりすぐ、俺たちは声のする方へと走り出した。