珍道中
「とりあえず、君を元の世界に戻す方法を探しましょう。」
「戻すっていっても、どうするんだよ。」
「そうね……私の世界と、君の世界を別の世界に戻せばいいと思うんだけど…………。」
俺たちは歩きながら解決方法について話し合っていた。別の世界に……。
「でもちょっと待てよ。仮に、別の世界にしようとしたところで成功したかどうかなんか分からなくないか?それともなにか?いちいちあの部屋まで戻って調べるのか?」
「それについては問題ないわ。」
そう言うと交野は着ているパーカーのポケットから携帯電話のようなものを取り出した。
「えっと……それは?」
「え?あー……君の頭で理解出来るか心配なんだけれど……。」
そう前置きしたうえで交野が説明を始める。5分ほど説明を受けたが全く理解不能だった。けれど、要するに……
「あの部屋で見た、大きいグラフがこの小さい端末で見ることが出来るってことか?」
俺が自分なりにまとめてみると……
「はぁ……。」
交野が盛大なため息をつきながら肯定の意を示す。その呆れ顔のまま続ける。
「まぁそうとも言えるわね。つまり、この端末を使えば人生のグラフの変化を見ることが出来るの。さらに、少し先までだけなら予想が可能よ。必ずしもそうなるとは限らないけど。」
「なにそのオプション感!?ていうか、その端末あるなら、あの部屋まで行った意味は?!」
「え?あぁ……雰囲気って大事でしょう?」
そういうと彼女はいたずらっ子のような笑顔を浮かべた。その笑顔は可愛いんだけどな。……交野に睨まれてしまった。
「と、ところでさ?お前の出身中学に行って何がわかるんだ?」
聞かれた交野の方は腕を組み、う~んと唸る。
「そうなんだよねぇ。私が思うに、人生は選択で出来てるんだから、普段の君がしないようなことをすればいいと思うわけよ。」
「俺が……しないこと…………?」
何だろう?俺は、自分のことをそれなりに分かっているつもりだけど、俺は普通だと思う。成績も運動能力も平均的だし(あえて言うなら、国語が苦手で走ることが嫌いなくらいだし)顔もブサイクではないと思うし、かといってモテモテってほどよくもない。ごくごく普通の高校生……だと思う。
「う~ん…………。」
全くわからない。そろそろ頭が限界を迎えそうだ。あの光景が頭をよぎる。すると
「あ、普段の君っていうのはこの世界での君のことなの。つい、いつもの癖で……ごめんなさい。」
交野が申し訳なさそうに謝ってくる。その姿はどう見ても普通の女子高生だ。
「そっか……いや、謝らなくていい。てことは……俺がいつも通りに行動すれば、解決するかもしれないな。」
なるべく明るくなるよう努めたつもりだったけど、思ったより真剣な調子になってしまった。
「……うん。」
交野も真面目な顔で頷く。その顔は決して明るいとは言えない。なにか抱え込んでいるようにすら見えた。
「ほら、お前がしおれてるなんて気持ち悪いぞ。」
「な?!失礼ね!どういう意味よ!」
「その調子その調子。明るく笑ってる方が、なんとかなる気がするだろ?」
そう言いながら、視界の端に動く影が見えた。俺はその場で立ち止まる。
「ちょっとどうしたの?この道を真っ直ぐ……」
「啓介!」
俺は交野の言葉を遮るように叫び、右手にみえるグラウンドへと駆け出した。その先にはサッカーボールを蹴る、親友啓介の姿があった。
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「誰かと思えば佑紀じゃん。」
俺の呼ぶ声に気付いてくれた啓介が、ボールを蹴ることをやめて側まで駆け寄ってきた。
「っと……例の彼女さん?」
いや、聞かれても。ていうか彼女だけど彼女じゃないっていうか……。『例の』って何?この世界の俺はどんな紹介をしたんだ?!
「え……っと…。」
俺が答えあぐねていると
「そうでーす。交野つむぐです!沖津啓介君…だよね?いっつも佑ちゃんから話聞いてます。楽しい友人だ!って。」
ありがとう交野。ただ、腕に抱きつきながらはやめてほしい。胸が……。
「……………………。」
睨まれた。いや本当シンプルに怖いからやめてほしい。マジで。
啓介は何をどう勘違いしたのかそんな俺たちを見て
「いや~ラブラブだな。羨ましいぜ。」
など言っている。訂正しよう…………睨まれたので自重。
「そ、そういえばさ。啓介の方はこんなところで何してたんだ?」
啓介は少しバツが悪そうに顔をそらした。話すのをためらっているのだろうか?
「いやぁ変なところ見られちゃったな。実は……さぁ………」
改まった口調で啓介が口を開き始めた。