選択と恋は自由
「個人の人生も、基本的には世界と同じ考え方なの。」
交野はグラフを指差しながら説明する。
そのグラフには『橘佑紀』と表示されていた。つまり、これは色んな俺の人生のグラフなのだ。
「個人のグラフも個人の選択で変化するの。違うのは次の2点。まず1点目は、世界と比べて交わりにくいってこと。」
「え?何でだ?」
「個人のグラフが交わるには世界の状態と個人の選択が一致しないといけないの。」
「なるほど……確かにあれだけグラフ…というか世界が多いと交わりにくいか。」
「えぇ。2点目は、個人の人生は絶対に2ヶ所で交わるということ。」
「え?でも、それって1点目と矛盾しないか?」
「いいえ……。だって、個人の人生が交わる2ヶ所というのは…………『生と死』なんだから。」
「…………………………。」
俺は何も言えなかった。そうか、『生まれる』ということは『死ぬ』こととセットなのか。
今まで考えたこともなかった………いや、考えることを避けてきた。俺のことを知ってか知らずか、彼女は少しの間説明の続きを話さなかった。
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「……それで?世界が消えるというのは?」
俺は尋ねた。交野が話しにくいだろうと思ったのと、話していないと何かに潰されると感じたからでもある。
「うん……。本来、この世界に君が来れるはずがないのは分かるわよね?」
「あぁ。」
仮に俺と、この世界の俺が同じ選択をしたとしても、1週間が7日と8日では、世界が違いすぎる。同じ状態とは言えないのだ。
「なのに、君は今ここにいて、グラフも……繋がっている。」
交野がタブレットを操作すると、また『世界』と表示されたグラフがあらわれた。
「もっと言えば2つのグラフが1つになってる。こうなると……どちらかが消えるか両方消えてしまうの。」
「そ、そんな……。」
「言い伝えだから確証はないけどね。でも、どうにかして元に戻す方法を考えないと…………。」
「なぁ、1つ聞いてもいいか?」
「何よ。」
「お前、何でこんなこと知ってるんだ?お前は何者なんだ?!」
「それだと、質問が2つになるけど?」
「うっ………揚げ足をとるなよ……。」
「冗談よ……そうね。代々、このグラフを見守り管理する者の家系……としか言えないわね。」
「あ、じゃ……お前がこのグラフにこのペンで書き込んで2つに戻せばいいんじゃないのか?」
そこにペンがあるのを見ての思い付きだった。けれどやってみる価値はあると思う。
「ばっか!そんなことしたら私の世界が消えちゃうの!グラフに手を加えることは重罪なんだから!」
「そ、そうなのか……?ごめん…。」
すごい剣幕で怒られてしまった……ん?
「それに、人生は選択をすることで自分で創るものなのや?勝手に変えるなんて………」
「なぁ、書き換え不可ってことはさ…。」
「今度は何よ。」
「お前、この世界の俺と本当に付き合ってるのか?」
「え?………な…なにを……。」
「その顔は当たりだな。顔、真っ赤だぜ?」
「………もう!そ、そ、そんなのは、どうでもいいでしょー!」
「まぁまぁ。別にいいだろう?」
俺は交野を笑ながら、からかった。からかいながらもどこか不思議な感覚を覚えたのだ。
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散々交野をからかった(結果、みぞおちにグーパンチを5発もくらった)あと、相談してとりあえず交野の出身中学校に行くことにした。出掛ける前…
「2人のときは絶対に名字呼び、手繋ぐのはなし……腕もダメ!」
と条件を出された。
「はいはい………ったく……。」
文句を言いながら靴をはく。
「あ!あと……。」
「何だよ。まだあるのか?!」
「『言葉は力』だから、覚えておいてよね!」
そう言って彼女は駆け出した。
「ちょ……俺を置いてくなよ!」
こうして、交野と俺の奇妙なデート(?)が始まったのだ。