パラレルと異世界
「あのね。この世界は、本来君が存在してはいけない世界なの。このまま君が居座り続けたら、いずれ私たちの世界……この世界も、君の世界も消滅してしまうの。私が言っている意味、わかる?」
なぜ俺が今このように説教……講義を拝聴しているかというと、時は10分ほど前に
「遡らなくていいわよ。」
先手を打たれてしまった。
「あの……さ…交野…………だよな?」
念のため、尋ねてみた。
「えぇ。ただし、この世界のね。」
「この世界?」
「そうよ。この世界は無数にある世界の可能性の1本。元々、世界は様々な可能性の状態のことなの。1つの選択が変われば、全てが変わるかもしれないの。もう少し詳しく言うと、世界が交わることもあるんだけどそれには条件があって……。」
「ストップ!ストップ!」
わけがわからない。交野は俺に話を中断されたことが気に入らなかったようで睨むようにこちらを見てきた。
「なに?」
「いや、急にそんなこと言われてもわからないって。もっと分かりやすく説明してくれ。」
「う~ん……。」
何やら考え始めた。それにしても……黙っていると本当に可愛いな。だまっていると。
「……………………。」
横目で睨まれた。俺って、学習能力ないな。
「そうね。」
その『そうね。』は何に対してなのだろうか。
「色んなことに対してよ。とりあえず、事情をわかってもらうためにも一旦私の家に行きましょう。」
こいつ、読心術でも心得ているのか?しかし、彼女はそれだけ言うと歩き始めた。
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「…………お邪魔しまーす…。」
交野の部屋は、その派手な見た目からは想像出来ないくらいシンプルなものであった。
ベッドと勉強机、あとはクローゼットが1つあるくらいで他にはほとんど何もなかった。あるのは…………壁に掛けられた大きなタブレット端末のようなもの。
ふれない方がいいだろうと思っていたら…
「これを見たらわかると思う。」
交野はタブレットを操作し始めた。その画面には数学のグラフのようなものが多く写し出されていた。
「あの……これは…?」
何か分からず交野に尋ねると…
「これがさっき話した内容を分かりやすくしたものよ。」
「えっと……可能性の1本…?」
「そう。世界は可能性と、その選択で出来ているの。色んな世界があるわ。もし太陽が2つあったら?もし惑星が3つしかなかったら?もし月がなかったら?」
「…………つまり、この世界は『もし1週間が8日間だったら?』という『パラレルワールド』ってこと?」
「少し違うわね。『パラレルワールド』とはつまり、平行世界のことでしょ?けど、このグラフを見れば分かると思うんだけど交わることがあっても平行なところはないでしょう?」
言われて見ると、確かにグラフ1つ1つは様々な形をしており平行なところは1ヶ所もない。
「確かに……。」
「あと、君にとってはこの世界は別世界……そうね『異世界』とでも呼びましょうか。異世界かもしれないけれど、私にしてみたら君が『異世界』の人なの。」
説明されて一応納得はした。確かに俺にとっては『1週間=7日間』が普通だけど、この世界の交野にとっては1週間は8日間なのだ。
「それで?世界が消えるっていうのは?」
「あら、ちゃんと話聴けていたのね。」
交野は俺を小馬鹿にしながらタブレットを操作し、画面に別のグラフを写し出した。
「その説明をする前に、個人の人生についても説明しなければいけないわね。」