出逢い
「あ、ユウちゃん。おっはよ~。」
そう言って俺の家の玄関で立っている女の子。
「いつも迎えに来てもらってごめんねぇ。」
その女の子と和気あいあいと話す母さん。
「………………。」
驚きで何も言えない俺。
朝起きたら自分の知らない世界になってるし。母さんは何の違和感もないみたいだし。なぜか彼女いるし、しかもその彼女があの交野だし……。
極めつけは、その交野が俺の全く知らない交野だし。
「もう、ユウちゃん。ちゃんと起きてる~?」
女の子……もとい交野つむぐは俺の顔を覗きこんでくる。
今日はメガネをしていない……いつもクラスではふちのない楕円形のメガネをかけているはずなのに。コンタクトレンズをつけているのだろうか?
「ユウちゃ~ん?」
服装は……明るめのトップスに、日焼けを気にしてか薄手のパーカーを羽織っている。下はジーパン……というよりはチノパンに近いような気がするが自信がない。靴は歩きやすそうなスニーカーである。全体的にラフな格好だが、それが逆に可愛らしい顔立ちとあいまって……その、すごく可愛い。
「こら佑紀。女の子無視しちゃダメでしょ。」
母さんに咎められてしまった。
「あ、ごめん。ごめんな、えっと……つむぐ?」
語尾が疑問になってしまった。やってしまったと思ったけど、当の交野の方は気付かなかったようで
「ううん、大丈夫。それより行こう?」
と、出掛けることを促してきた。それもそうだろう。彼氏の母親と好き好んで長話をする女子高生はそう多くはいないだろう。
「あ、じゃ……用意してくるね。」
俺はそう言って、自室へ戻って出掛ける準備を始めた。
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用意をすませて玄関で靴を履き替えながら俺は考えた。
もし、この世界が俺が元いた世界とは全く別の、『パラレルワールド』と呼ばれる世界だとしたら?
だとしたら……もしかして…………
「ユウちゃんカッコいい!」
「ありがと…。」
今の交野にこんなこと言われて喜ばないわけがない。実際の俺は、濃い青色の半袖Tシャツにジーパン、靴はスニーカーという、交野のラフさを上回るラフさ加減なのだけれども。
「じゃ、行ってくるよ母さん。」
「うん、行ってらっしゃい。あんまり女の子を遅くまで連れ回したりしたらダメよ?」
「うん。」
「あんまり遅くなったらお父さんに怒られるんだからね?」
「え……父さん?」
「えぇ。今日は帰りが早いみたいだから。」
「そ……そっか。わかった、気を付けるよ。」
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「よし、行こうか。」
「うん。」
そう言うと、交野は俺と手を繋ぐことを望んできた。いや、手を差し出してきただけだという可能性も………
「ねぇ、手、繋ご?」
言葉による決定打。
「え、あ……うん。」
何をどうしたらいいか分からず、とりあえず差し出された手をとってみた。
「もう、そうじゃなくて……こう!」
なおされてしまった。しかも、これは……恋人繋ぎとかいうやつである。
「え、あ……う…………。」
もう何も考えられない。何か本当に……もう、この世界でこのまま生きていくのもありなのかもしれない。
かろうじて働く思考力がそう考えてたときだった。
「いいわけないでしょ!馬鹿じゃないの?!」
いきなり罵声を浴びせられた。
俺は2つのことに驚かされた。
1つは、もちろん罵声を浴びせられたことに対して。
もう1つは……その罵声が、俺の隣にいる少女から発せられたことに対して。