起床
~リリリ~リリリ~
「ん~。朝……か…?」
目覚まし時計の不快な電子音で目が覚めた。
「………………。」
昨日の記憶が曖昧である。
「………あぁ、そうか。」
思い出した。あのまま寝てしまったのだ。
「ていうか、今何時だ?」
脇にある時計で時間を確認すると『8:00』と表示されていた。
「………て、やべ!遅刻じゃん。」
俺が通う高校の門通過強制時刻……つまり遅刻にならないギリギリの時間は8:20。俺の家から高校まで自転車で20分、とばしたとしても15分。用意する時間を考えると……完全に遅刻である。
「ったく、母さんも起こしてくれたらいいのに……。」
ベッドから降り、着替えようとして妙な違和感を覚えた。
「……あれ?」
もう一度時計を確認してみる。
「…………………。」
昨日は7月14日(日)だったので、今日は15日(月)となるはずだ。しかし……
「………うん。おかしい。」
時計には、『9月1日(日)』と表示されていたのだ。
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「母さん!母さん!!」
俺は着替えるなりすぐ部屋を飛び出し1階へとかけ降りた。
「おはよう。どうしたの?」
母さんは台所で朝食の準備をしていた。
「今日の朝ごはんは、お米とメザシを焼いたもの、あと漬物よ。お味噌汁はインスタントをセルフでね?」
「美味しそうだね……じゃなくて!」
我が母ながらマイペースで自由だ。
「何よ……どうかした?」
「どうかした?じゃなくて、何で9月1日なの?!」
そう……あのあと部屋を確認すると、カレンダーも9月1日になっており携帯電話のディスプレイまでもが同じ日付を表示していたのだ。
「何でって……昨日で8月が終わりだったからに決まってるじゃない。」
「そんな……昨日は7月14日だろ?!今日は15日じゃないの!?」
俺がそう主張すればするほど母さんは不信感を募らせていくようだった。
「やだ、熱でもあるのかしら?お薬飲んでおく?今日デートなんだから。」
「いや、薬は要らない……て、え?デート?」
「あら、昨日嬉しそうに言ってたじゃない。『明日は向こうの出身中学校に遊びに行くんだ~。』って。」
「向こうの……って、俺の、彼女のこと?」
「他に誰がいるのよ。冗談を言うならもう少しマシなものにしなさいよね。」
母さんの言葉が、半分しか働いていない俺の脳に浸透するように聞こえてくる。今日が9月?俺に彼女?理解出来ないことだらけである。何より理解出来ないのは、
「たしか彼女の名前は……。」
「ねぇ母さん。1週間って何日?」
「え?8日でしょう?」
そうカレンダーは1週間が8日間で構成されていたのだ。
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「ごちそうさまでした。」
「はい、おそまつさまでした。」
居間で朝食を食べ、俺は少しだけ落ち着いていた。母さんはあれ以上突っ込んではこないので、息子である俺の異変には気付いていないようである。もしくは、そのフリを(信じられないが)しているのかもしれない。
「そういえば母さん。」
「なぁに?」
朝食の片付けをしている母さんに、俺がずっと気になっていたことを尋ねてみることにした。
「俺の、彼女……ってさ。」
「つむぐちゃんがどうかした?」
「え?ちょ……つむぐって、あの……同じクラスの………?」
「ええ。交野つむぐちゃんでしょ?」
「かたの……が…?」
交野つむぐは俺と同じクラスの女子で大人しく、とても静かである。
俺は入学以来、交野とマトモに会話した記憶がない。
「そうよ。あ、そろそろ迎えに来る頃じゃないかしら?」
そう母さんが言い終わるのを待っていたかのように呼び鈴が鳴った。
「あら、噂をすれば……ね。」
言いながら、母さんが玄関へと向かったので、俺もそれに従った。
「つむぐちゃん、おはよう。」
「おはようございます!」
玄関で、俺は自分の目を疑った。
「あ、ユウちゃん!おっはよ~。」
そこにいたのは、俺が知っている交野つむぐとは180度逆の、活発な女の子だった。